第93話
あれから少し時が経ち、夏休みがやってきたので俺達は全員、俺の実家へと向かっていた。
「それにしても、私達全員がアルバ様の実家へだなんて、一体何があるのでしょうか?」
テコテコ歩きながらフラムが不思議そうに尋ねてくる。
「うーん、それが父様が詳しく教えてくれなかったからよく分からないんだよね」
夏休みが来る少し前、父さんから手紙が来て迷宮用のパーティを組んでる皆を呼んで来いと書いてあったのだ。
理由を聞いても教えてくれず、帰って来てからのお楽しみの一点張りだった。
しかも、誰から聞いたか分からないが(どうせ学園長経由だとは思うが)ヤツフサ達の家族にも連絡済だから遠慮なく連れて来いとのお達しだった。
とりあえず、ヤツフサ達にそれを伝えると、皆が了承してくれたので全員で俺の家へと向かっていると言うわけだ。
「アルバの家って、初めて行くから楽しみだなぁ」
「そうですねぇー」
ヤツフサとスターディは、楽しみと言った感じで和気藹々と話している。
「ボ、ボクなんかが行っても良いんですかね……」
一方、カルネージは2人とは正反対で、不安そうにしていた。
「父様達は、カルネージの事も知ってるようだったから大丈夫だとは思うよ」
一応、父さん達は貴族なわけだから城で開かれるパーティなんかも行ってるだろうし、その時にカルネージも見てるだろう。
ていうか、父さん達が身分の違い位で怯む様な性格じゃないのは、よく分かってるしな。
そんな感じで雑談をしていると、俺の家が見えてくる。
「ふえー、おっきいねー」
「流石、貴族なだけありますねー」
ヤツフサとスターディの平民2人組は、驚いたような表情で俺の家を見上げる。
まあ、今でこそ俺も慣れてはいるが、当初はその大きさに驚いたものである。
金持ちは、色々スケールが一般人と違うからな。
「お帰りなさいませ、アルバ様!」
玄関の扉を開けると、待機していたメイド達が出迎えてくれる。
「ただいま、皆」
「ご学友の皆様もようこそお越しくださいました」
「は、はい。お越しさせていただきました」
慣れない対応に、ヤツフサはどもりながら答える。
ま、これが普通の反応だわな。
「父様達は?」
「此処に居るぞ」
俺が父さん達の場所を聞くと、丁度来ていたのか父さんと母さんが向こうからやってくる。
「お帰りなさい。アルバ、アルディちゃん」
「只今戻りました。お母様、お父様」
「ただいまー!」
俺がペコリと頭を下げて挨拶する隣でアルディは、元気よく挨拶をする。
「お久しぶりでございます。お二方」
「久しぶり、フラムちゃん! ついに、息子と結ばれてくれて私は嬉しいわ」
「きょ、恐縮ですわ」
「いやー、アルバは、もしかしたら異性に興味が無いんじゃないかって思ってたから安心したぞ!」
「ちょ、と、父様! 頭を撫でないでください」
父さんは、ケラケラと笑いながら俺の頭をグシャグシャと撫でてくる。
友達の前で、親にそういう事をされると凄い恥ずかしい。
「ははは、すまんすまん。そうそう、ハインも喜んでたぞ。お前になら娘を任せられるってな。んで、結婚はいつにする?」
いや、気がはえーよ。
まだ俺達は子供だぞ。一応、この国では15歳から結婚は可能だが、それでもまだ3年近くある。
フラムは、その言葉を聞いて俺の隣で煙を出しながら真っ赤になっている。うむ、可愛い。
「あ、あの……」
帰って来て早々、父さん達のハイテンションぶりに振り回されているとカルネージが父さん達に話しかける。
「これは、ジルコニア様。本日は、我々の招待に応えていただきありがとうございます」
王族という事もあり、父さんは一応真面目な顔をすると恭しく頭を下げる。
「そ、そんなに畏まらないでください! アルバ君にも言ってますが、今のボクは、ジルコニアではなくただのカルネージです。どうか、普通の態度で接してください」
「そう? んじゃ、遠慮なく。今日は良く来たなカルネージ! いやー、一応建前上丁寧に接しなきゃいけなかったから助かったぜ!」
カルネージの言葉を聞くと、父さんは途端に態度を変えて馴れ馴れしくなる。
カルネージは、困惑したようにこっちを見るが、元々両親はこんな感じなので慣れて欲しい。
「それで、皆を連れて来たのですが一体何があるんですか?」
いつまでも、玄関先で話してるわけにも行かないので、俺は本題を切り出す。
「それなんだけどね。折角の夏休みだし、アルバのお友達も一緒に旅行に行こうと思ったのよ」
「旅行……ですか?」
「おう。ホントは、友達の家族も招待しようと思ったんだが、みんな忙しいらしくてな。子供だけでもって言われたから、お前達だけ招待したってわけだ」
俺達全員の家族って言ったら、結構な人数になると思うのだが、それを簡単に言ってのけるなんて流石の財力と言わざるを得ない。
「よろしいのですか? 折角の旅行に私達がお邪魔しても?」
「あんもう、フラムちゃんったらそんなの気にしなくてもいいのよ? 未来のお嫁さんなんだし」
「お、お嫁さん……」
母さんの言葉に、フラムは恥ずかしそうに俺の後ろに隠れてしまう。
「まあ、要はアルバとフラムちゃんの恋人記念の旅行だな。んで、折角だから友達も一緒にって思ってな」
なんという恥ずかしい記念だ。
「そ、それなら俺達は邪魔なんじゃないでしょうか?」
「確かヤツフサちゃん……だったわね?」
「は、はい」
「そんなの気にしなくてもいいのよ? アルバも皆と一緒の方が楽しいだろうしね」
母さんが、同意を求めるようにこちらを見ながら話すので、俺は肯定の意味を込めて頷く。
「まあ、そんなわけだ。遠慮なんか要らんから楽しんでくれ」
「それで、何処に旅行に行くんですか?」
「うむ……常夏の島……ココナツ島だ」
俺の問いに、父さんはニヤリと笑いながらそう答えるのだった。
◆
照りつける太陽。
太陽の光を反射してキラキラと光る透き通るような海。
観光客で賑わうビーチ。
俺達は、観光地として有名なココナツ島へと来ていた。
「着いたぜ、ココナツ島!」
魔導船から降りると、大人のはずの父さんが一番テンションを高くして叫ぶ。
「ま、魔導船なんて初めて乗りました~」
平民組は平民組で、初めての魔導船に興奮冷めやらぬと言った感じだった。
「それじゃ、早速宿の方に行って、準備が出来たら海へと向かいましょう」
母さんの言葉に全員が頷き、予約していると言う宿の方へ向かった。
ここでココナツ島について説明する。
先程も言った通り、ここは観光地として有名な海水浴場だ。
と言っても、海で安全に泳げるように魔物対策にそれなりに金を掛けているのと、移動手段が魔導船しかないため、金持ち御用達の観光地だ。
色々、旅行先の候補があったが、折角夏だしと此処に決めたらしい。
宿は、金持ち御用達と言うだけあって、外観からしてレンガ造りと高貴な感じが滲み出している。
「初めて来ましたけど……部屋も凄いですわね」
部屋に着くと、フラムは感心したように呟く。
フラムの言う通り、部屋の中も中世のファンタジーとは思えない程、豪勢だった。
下品過ぎない豪華な調度品にフカフカのベッド。窓から見える綺麗な海。
夜になると間違いなく雰囲気が出そうである。
「アルバアルバ! ベッドが超フカフカだよ!」
アルディは、子供のようにベッドでピョンピョンと飛び跳ねている。
まあ、それはいい。それはいいのだが……。
「なんで、僕とフラムだけ別の部屋なんだろうか」
そう。今、この部屋に居るのは俺とフラム。それにアルディの3人だけである。
他の部屋割りとしては、右の部屋に両親。左の部屋が他の面子となっている。
両親が別の部屋と言うのは、まあ大人の事情的な理由で納得が出来る。
だが、俺とフラムが皆と違う部屋なのが不思議だったので、聞いてみたら……意味深に親指を立てられただけだった。
他のメンバーは、アルディを含めその理由が分かってなかったが、俺はその意図が分かってしまった。
『恋人は、やっぱり別の部屋にしなきゃな』そんな意図が、そこには確実に込められていた。
まじで、余計な気を回しすぎな両親である。
「それじゃあ、僕は風呂場で着替えるからフラムも、ここで着替えるといいよ」
水着に関しては、父さん達が途中で買ってくれていた。
最初は全員、遠慮していたが、父さんと母さんの強引さに根負けし、各々が選んで水着を買っていた。
現地でのお楽しみという事で、全員が何を買ったかは分からなかったのでちょっと楽しみだ。特に女性陣。
水着を持って、風呂場に向かうと俺は水着に着替える。
と言っても、服を脱いで下を履き替えるだけなのですぐに終わってしまう。
男の水着は種類が無いので、灰色を基調とした迷彩柄が特徴のスタンダードなトランクスタイプの水着だ。
少し風呂場で待機していると、フラムから着替え終わったと声が掛かったので風呂場から出る。
「ど、どうですか……?」
風呂場から出ると、そこには花柄が印象的なチューブトップとスカートというセパレート型の水着を着ているフラムが立っていた。
「……うん。良く似合うよ」
語彙が乏しいのでそれ以上の褒め言葉が出なかったのが、悔しいがまさに似合う以外の言葉が出なかった。
控えめな胸に、子供の割に引き締まったウェスト。
大人と子供の中間と言った感じの体型に可愛らしい水着の組み合わせは、何とも言い難い魅力がそこにはあった。
「な、なんか恥ずかしいですわね」
俺に見られて恥ずかしくなったのか、フラムは体をくねらせながら顔を赤くする。
恋人と言う特別な関係になったと言う補正もあるかもしれないが、いちいち魅力的で理性を保つのが大変だ。
元々、精神は大人なのでやっぱりそういう風に考えてしまう。
だが、純粋なフラムに対してそういう事をするのは、いくらなんでもまずい。
そういう事は、フラムがちゃんと大人になってからと考えている。
しかも、俺はロリコンじゃないしな! ホントだぞ!
「ねー、アルバー。私はどう?」
アルディも水着に着替えたのか、ワンピースタイプの水着に着替えていた。
流石の母さんも、水着は作れなかったのか馴染の人形師に頼んで作ってもらっていたらしい。
サイズに関しては、以前アルディの服を作るときに把握していたので問題なかったとのことだ。
「うん、アルディも可愛いよ」
「うえっへっへー、やったー」
俺の言葉に、アルディは嬉しそうに飛び跳ねる。
「それじゃ、皆を待たせるといけないし、早く行こうか」
「そうですわね」
「うふふ、おっけー」
俺の言葉に2人が頷くので、俺達はビーチサンダル(何でこの世界にあるかは、もうツッコまない)に履き替えると部屋の外に出て鍵を掛ける。
流石にオートロックは無いので、手動で鍵を掛ける必要があるのだ。
「お、来たな」
他の面々は、既に準備が終わっていたのか廊下で待機していた。
父さんは、デスクワークに近い仕事の割には引き締まった体をしており、独身なら間違いなく逆ナンされまくりな風体だった。
ただし、何故か際どい角度のブーメラン水着だったが。
母さんも、子供を産んだとは思えないプロポーションで、俺の親でなければ間違いなく見惚れていただろう。
母さんも母さんで、露出が高い黒のビキニで中々の眼福ものだった。
似たもの夫婦め。
「わー、フラムさんとアルディちゃんの水着可愛らしいですねー」
俺が両親の水着の評価をしているとスターディが話しかけてくる。
「…………っ」
流石の俺も、スターディの水着姿を見ると絶句するしかなかった。
ス、スクール水着だとおおおおおお!?
童顔に豊満な胸、そこに紺色のスクール水着でしかも旧式バージョン。
これ以上無いくらいの破壊力抜群の組み合わせだった。
胸の部分にはゼッケンが付いており、平仮名で名前が書かれていればパーフェクトだったのだが……流石にそこは、この世界の言語で名前が書かれていた。
うん……来てよかった。
え? ヤツフサとカルネージの水着? 普通だったよ!
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