第85話

「邪魔を……するなっ!」


 体を軽く動かしてみるが、かなり強力らしくギシギシと音がするだけで全く切れる気配が無い。

 エスペーロを殺す邪魔をしたアコルスが憎らしく、俺は殺意を込めて睨む。


「あらあらまぁまぁ、随分キャラが変わっちゃったわね……ふむ、状況から察するにフラムちゃんが怪我させられたのが原因で怒ったら邪神に付け入られたって所かしら。封印してるはずなのに人の心に影響するなんてほんと邪神って厄介だわ」


 邪神に付け入られる? この女は何を言っているんだ……この感情はまちがいなく俺自身の感情だ。

 エスペーロを殺したいと思うのも邪魔する奴も纏めて潰したいと言うのも全て俺の意思だ。


「ウォーエムル……アンタが付いていながらなんてザマよ」


「仕方ないじゃないのよ。アタシは基本的に守る事しかできないんだから。しかも、今はこの体だし」


「言い訳なんか聞きたくないって―の」


 何やら俺を差し置いて会話を始めているが、俺から気を逸らしたのは失敗だったな。

 俺は、何処からか溢れ出る魔力を使い全身を精霊化し髪の呪縛から抜け出し元に戻る。

 そして右腕のみ砂化させるとアコルスへと凄まじい速度で伸ばし腹を貫く。


「あぐ……っ」


 会話に気を取られていたアコルスは、俺の攻撃に気づくが防御が間に合わず、腹を貫かれると苦しそうに顔を歪める。

 ……さて、次はエスペーロの出番だ。


「なんてね♪」


「っ!!」


 エスペーロの方を振り向いた瞬間、後ろからアコルスの声が聞こえたと同時に背中に衝撃が走り吹き飛ばされる。

 今の俺は不思議と痛みを感じない為、勢いを利用して立ち上がる。

 アコルスの腹にはぽっかりと穴が開いているが血が一切出ておらず、それどころか人間としてあるはずのものがそこには存在していなかった。


「“今”の私の体は事情があって人形なのよ。だから物理攻撃じゃまず私は殺せないわよ。行動不能には出来るかもしれないけどね」


「……あー、だからアンタ年取ってなかったのね。流石におかしいと思ったわ」


「ま、それもあるけど本体の方もちょっと事情があって年取ってないのよね」


「事情?」


「後で説明してあげるわ。それよりも今は、あの子を何とかしないと」


 アコルスは、そう言ってこちらを見る。

 奴らがどういう会話をしてるのか、もはや内容さえ入って来なくなっていた。

 憎悪と憤怒が入り混じったような感情が、俺のすべてを塗りつぶしていく。

 もはや相手の一挙一動が全部憎い。

 グチャグチャに潰してやりたい。

 幸い、今の俺には魔力が無尽蔵にある。

 俺は魔力を込めると、部屋一面に黒曜石の短剣を生成する。

 

「がああああああ!」


 両腕を振って魔力を操作し、無数の漆黒のナイフをアコルスに向かって放つ。


「うっひょー、流石の私もこれは串刺しになっちゃうかもね……でも、串刺しは私の得意分野でもあるのよ」


 女は、不敵ニ笑うと髪の毛ガ広がリ短剣を撃ち落としていク。


「だガ……甘い」


 短剣ノ影に隠れ女に近づくと右腕ヲ黒曜石の斧に変化させ横薙ぎで振り抜いて上半身と下半身をバラす。


「ちょっとこれ、普通の人間なら死んでるわよ!」


 何か言っているガ、もう“我”にハ関係なイ。

 全テヲ破壊。ソレガ我ノ使命……。


「……参ったわね。だいぶ“呑まれて”るわこれ」


「どうにかならないの!?」


「私の本体が抑えてるはずなんだけど、アルバ君の負の感情に反応してるせいで彼が媒体になっちゃって邪神の意思だけが出て来てる状態なのよ。……仕方ない。ちょっと手荒な方法で行くか」


 女ハ、髪ヲ地面ニ突き刺すト我ノ下から四肢を貫く。

 しかシ、我は砂化することでそれ奴の捕縛から逃れる。

 

「……コノ程度デ我ヲ止メラレルト思ッテイルノカ?」


「もし、これがアンタ本体なら私1人じゃ無理でしょうね。でも、その体はアルバ君の物。宿主を気絶さえさせればアンタは何も出来ないわ」


「……サセルト思ウカ?」


「あらあら、かつてアンタを倒した人間が言うのよ? 可能に決まってるじゃない。それにそこの本体を封印してるのも私だってことを忘れないでよ?」


 ……確かニ、この男ノ負の感情に反応シ意識ダケは移せたが、この女ノせいで本来の力ヲ全く出せテいない。

 これ以上、この体ヲ無理させれば力に耐えきれズ死ぬだろウ。

 折角手に入れタ肉体……簡単ニ手放す訳にも行くまイ……。

 この体ハ、実に潜在能力ガ高イ……我ノ良き栄養トなるだろウ。

 まア……男ノ癖ニめいど服ヲ着ているのハ謎だガ。

 あとで着替えよウ。


「ナラバ……ソノ前ニ貴様ヲ消ス」


「アル……バ様……」


 魔力を込めテ攻撃態勢に入ろうとシたところで後ろから声が聞コえる。

 振り向けバ、そこには右腕が取れタ女がこちらヲ見ていた。


「正気に……戻ってくださいませ……貴方は……邪神に乗っ取られる程弱くありませんわ……」


 コイツは、一体何ヲ言っているんだ?


「フ……ラム」


 !? 自分ノ意思とは関係なく出て来た言葉に我は驚き口を押さえる。

 なんだ、今のは……。


「あら、大切な女の子の呼びかけで我に返るなんて物語みたいで素敵じゃない」


「シマッ……」


 突然の事ニ我としたことが一瞬呆気に取られたことで女ノ接近ヲ許してしまっタ。


「アンタは眠ってなさい。永遠に目覚めなくていいわよ」


「グッ、オ、オノレエエエエエ!!」


 急ぎ反撃ヲするが女は、それを避けると我の体に小さな宝石ヲ押し付ける。

 すると、我の意識ハ急速ニ遠のいていった。

 お、のれ……封印さえされていなかった……ラ……。

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