第83話

 結構重大な暴露があったのだが、ミリアーナの今までが今までなだけにかなりあっさりと流された。

 いやね、今のミリアーナを見てるととても英雄には見えないってのが大きい。

 今更、こいつを英雄として見ろってのも無理な話だ。

 多分、他の奴らも同じ気分なんじゃないかと思う。


「さて……色々あったけど、とりあえず戻ろう」


 アルマンド達が何をしているのかわかった以上、これ以上は俺達の出る幕じゃない。

 学園長なり父さん達なりに事の次第を伝えて対処してもらうのが一番だ。

 アルマンドを直接倒せないのはアレだが、それよりもフラムの安全の方が大事である。


「私達で倒してしまわないんですの?」


「アルマンドだけならどうにかなるかもしれないけど、エスペーロさんも控えてるからね」


 あの人の実力も分からないから前知識無しで挑むのは危険だ。

 しかも、幹部って言ってたし普通以上の実力者なのは間違いないだろう。


「そう……ですわね。分かりましたわ」


 俺の言葉にフラムは納得するとコクンと頷く。

 フラムの同意を得たので、俺達は魔法陣の上に立つが魔法陣は反応しなかった。


「あれ? おかしいな」


 俺が首を傾げていると、ミリアーナがしゃがみ込んで少し調べると口を開く。


「あー……これ、魔力が通ってないわね」


「え?」


「今、この魔法陣は本来の機能を失ってるわ。つまり、戻れないって事。ここで救援を待ってても良いけど、いつ来るか分からない上に奥に行った奴とその仲間が大人しく見逃してくれないでしょうね」


 ……確かに、わざわざ見逃す理由が無い。

 かといってこのまま奥に進んでいいのか……? 

 せめて、フラムは此処に置いて行って俺だけ行くと言うのも手だな……。


「アルバ様。私は、いつでも貴方と一緒ですわ」


 俺の考えを見透かしているのか、俺の両手をギュッと掴むとじっとこちらを見つめてくる。


「……危険だよ? 相手が相手だけに死ぬかもしれないんだよ?」


「構いませんわ。それにそれを言ったらアルバ様も同じですわ。私の大事な方をわざわざ死地へ1人向かわせるほど私は薄情ではありませんわ」


 まったく……12歳の子供とは思えないね。

 俺が同じ年だったころは、ここまでしっかり物事を考えてなかったぞ。


「アルバちゅわんの負けね」


 ミリアーナに同意するのは癪だが、確かに俺ではフラムを納得させられそうにない。


「分かった。一緒に行こう。……でも、約束だ。危なくなったら救援が来るまで絶対逃げ回る事」


 アルマンドはともかく、エスペーロさんならもしかしたらフラムだけなら見逃してくれるかもしれない。

 俺が甘いというのは分かってるが、希望を持つくらい良いだろう。


「分かりましたわ。当然アルバ様も同じですわよ?」


 フラムの言葉に俺は頷く。

 俺とフラムは、手を繋いで奥へと向かう。


「やぁ、2人共……待ってたよ」


 奥に行くと、そこには以前見たのと同じ巨大な邪神像。

 以前と違うのは、その前にエスペーロさんが笑顔で立っていることだ。

 エスペーロさんは、いつもと変わらない笑顔を浮かべてるが床に突き刺している剣が異様さを放っていた。

 エスペーロさんの身長程ある大剣で刃の部分が2つに分かれていて音叉を彷彿とさせた。


「……アルマンドは?」


「ああ、あのゴミ? そこだよ」


 俺の言葉にエスペーロさんが指を差すと、そこには上半身と下半身が分かれているアルマンドだったものが転がっていた。


「っ!!」


 その凄惨な光景にフラムは、悲鳴を押し殺し両手で口を押さえる。

 正直、俺も吐いてすっきりしてしまいたかったが、なんとか堪えた。


「仲間なのに容赦ないんですね」


「だって、子供2人に油断して手傷負わせるどころか自分の武器を壊しちゃっておめおめと逃げてくるなんて絶望的だと思わないかい? 絶望を乗り越えられる強さを持たない奴は死んだ方が幸せなんだよ」


 エスペーロさんは、狂気に満ちた笑顔を浮かべながら何でもないことの様に言う。


「仲間ってのは否定しないんですね……」


 アルマンドの嘘だと思いたかった。

 しかし、目の前の光景……そしてエスペーロさんのセリフが真実だと語っていた。


「まあ、正確には仲間ってより……部下、かな。そうそう改めて自己紹介しなきゃね」

 

 エスペーロさんは、そう言うと恭しくお辞儀をする。


救済者グレイトフル・デッド所属……七元徳の1人。希望のエスペーロ。よろしくね、アルバ君」


 そう自己紹介すると、エスペーロさん……エスペーロは狂気に満ちた笑みを浮かべるのだった。

 七元徳……たしか宗教での7つの美徳だったか。

 知恵・勇気・節制・正義・信仰・希望・愛の7つでエスペーロが希望という事はあと6人の幹部が居るという事になる。


「なんで、貴方は……こんなことをするんですか? 邪神を復活させることが貴方の言う希望に繋がるんですか?」


「人間はね。絶望が大きければ大きい程その先の希望が大きくなるんだ。邪神という絶望を希望を持って乗り越える……ああ、なんて素晴らしいんだ!」


「希望を持つのは良い事です。でも……だからって、邪神を復活させて良い事にはなりません!」


「……この世界ってさ、理不尽だと思わないかい?」


 俺の言葉を聞いているのかいないのか、エスペーロは話題を急に変える。


「この世界はさ、派手な魔法程人気があってさ。地味だとどんなに強力な魔法でも見下されるよね。俺はね……この理不尽な世界を根本から変えたいんだ。その為には、邪神の力が必要になる」


「なんで、そこで邪神の力が必要になるんですか?」


「邪神が唯一、主神アキリに対抗できるからさ。この世界を作ったのはアキリ……つまり、こんな理不尽な世界になったのは奴が原因なのさ。邪神は、アキリが干渉できない存在……あの人は世界のバグ?って言ってたかな」


 要は、その邪神(バグ)で神が作ったシステムをぶっ壊すって事か。


「君も土属性だからって散々見下されただろ? 武闘大会を見てたけど、結構強いのにそれでも見下される……君も今の世界より新しい世界に希望を持った方が良いよ? 全ての人間が希望を持つ世界。それこそ俺の理想の世界さ」


 確かに……俺は、土属性だからと馬鹿にされ続けて来た。

 でも、だからこそこの世界で見返そうと今まで頑張ってきたんだ。

 おかげで、数はまだ少ないが少しずつ理解者を増やしてきた。


「君は俺と同じ匂いがするんだ。ここで君を死なせるには惜しい。さぁ、俺と一緒においで」


 エスペーロは笑顔を浮かべたまま、優しくこちらに手を差し伸べてくる。


「ふざけないでくださいませ!」


 俺が断ろうとする前に、今まで黙っていたフラムが叫ぶ。


「アルバ様が貴方と同じ? 馬鹿を仰らないでください! アルバ様は、理不尽ながらもこの世界で希望を捨てず頑張っていますわ! ですが、貴方はこの世界を見限り新しい世界に希望を持っている。貴方は、自分の意見が通らないからとダダをこねている子供と変わりませんわ!」


 フラムは、自分の言いたいことを言いきるとフーフーと息を荒くしつつ肩を揺らす。


「……君は良いよね。炎属性で恵まれてるもの……今まで見下されたりとかしたことないでしょ?」


 エスペーロは、ぶつぶつと言いながら床に突き刺していた大剣を抜いて構える。

 すると、剣が小刻みに震え始めキーンという耳鳴りにも似た高音が部屋中に響き渡る。


「そうやってさぁ……挫折した事の無い人間が、上から物を言うのって我慢ならないんだよねぇっ!」


 エスペーロは、小刻みに震える剣を構えたままフラムに向かって走る。


「くっ!」


 フラムは、エスペーロに向かって銃を構え発射する。

 迫りくる銃弾をエスペーロは無言で切り払う。

 アルマンドもそうだが飛んでくる銃弾を撃ち落とすしたり切り払ったりってかなり化け物だよな。

 って、そんな事を考えてる場合じゃない!

 俺は急いで、目の前に分厚い岩壁を生成する。


「甘いよ……」


 ねっとりとした声音でそう言うとエスペーロは、まるで粘土でも斬るように分厚い岩壁を叩き斬る。

 そして、そのまま返す刀で大剣がフラムを狙う。

 

「フラム、逃げろ!」


 隣に居るフラムを俺は突き飛ばしフラムの目の前に躍り出る。


「邪魔だよ」


 しかし、突如俺の頭の中に耐えきれないほどの高音が響き渡り立っていられず地面へと倒れてしまう。

 グワングワンと揺れる頭を押さえつつ、フラムの方を見る。

 

 ビシャリ


 瞬間、目の前の光景が真っ赤に染まり俺の顔に生温かいものが降りかかる。


「ア……ル…………ま」


 エスペーロに右腕を斬り落とされたフラムがこちらを涙を浮かべながら見つめてそのまま倒れ伏していた。

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