第38話

「おー久しぶりの我が家だなぁ」


 冬休みに入った俺は、1年ぶりの我が家に思わず感嘆の声を出す。

 迷宮に関しては生憎とまだ攻略は出来ていないが、その前に冬休みがやってきてしまったので攻略は中断となる。

 父さん達には色々話したいこともあったし実家に帰るのを優先したのだ。

 ヤツフサ達も家に顔を出したいと言っていたので攻略再開は冬休みが明けてからとなる。ちなみに冬休みは地球の日本とあまり変わらず1ヵ月弱程度だ。


 俺はアルディと一緒に扉を開けて中へと入る。


「「「お帰りなさいませ、アルバ様!!」」」


 中では、メイドたちが2列になって待っており、俺の姿を見た瞬間一斉に頭を下げる。

 こういう風景は、いかにも貴族って感じはするが基本、精神は小市民な俺は萎縮してしまう。


「……ただいまです!」


 が、そんな姿を見せてガッカリさせるのも嫌なのでそんな様子は微塵も見せず挨拶をする。


「学園はどうでしたか?」


「お友達は出来ましたか?」


 などなど、俺はメイド達に囲まれて質問責めにあう。父親の趣味なのか偶然なのかは分からないがメイド達は皆美人や美少女なので基本、異性に免疫の無い俺は心臓がバクバクである。

 フラムやアルディは、そもそもが精神上は大分年下なので流石に平気だ。


「ほらほら皆!アルバが困っているでしょう?ここは私に任せて持ち場に戻りなさい」


 俺がメイド達にもみくちゃにされているとパンパンと手を叩く音が聞こえ奥から母さんが現れる。

 母さんの指示によりメイド達は各自の持ち場へと戻り、この場所には俺とアルディ、母さん、執事の4人だけになった。


「久しぶりね、アルバ」


「お久しぶりです。お母様、お元気そうで何よりです」


「久しぶりーお母さん!」


「アルディちゃんも久しぶり。相変わらず可愛らしいわね」


 久しぶりに会う母さんは、相変わらず綺麗で嬉しそうに微笑むと話しかけてくるので俺も笑顔で返していると肩に乗っているアルディも元気よく挨拶をする。


「ふふ、少し逞しくなったかしら?色々噂は聞いてるわよ」


「噂……ですか?」


 一体、どんな噂なのだろうか。

 母さんの表情を見るに悪い噂では無さそうなのだが……


「まあ、その話は夕食の時にたっぷりとしましょう?メルクリオももう少しで帰ってくることだしね。まずは、お風呂に入っちゃいなさいな」


 母さんはそう言って、話をはぐらかすとメイドを呼んで俺を浴場へと案内させる。


 風呂に入ってしばらくまったりしていると、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえて来て扉が乱暴に開かれる。


「帰ってきたんだってな、アルバ!」


 そこには、もし血が繋がって無ければ嫉妬していたであろう程のイケメンである俺の父さんが居た。


「1年も会えなくて寂しかったんぞ!今日はお前が帰ってくるって聞いて急いで帰ってきたんだからな!」


 1年会わなかった事で更にうっとうしくなった父さんが俺に抱き着いてくる。


「お、お父様!く……苦しいです!」


 父さんがテンションに身を任せて抱き着いてきたせいで首がしまり、苦しくなった俺は父さんを引き離そうと苦戦する。


「おお、すまん。久しぶりに会えたのが嬉しくてな……アルディも元気そうで良かった」


「うん、私はいつでも元気だよ!お父さんもとっても元気だね!」


 アルディは父さんに話しかけられると、これまた嬉しそうに返事をする。

 アルディは、当然だがうちの両親とは血縁関係にはない。が、2人の熱望によりアルディに父さん母さんと呼ばせているのだ。

 両親にとっては精霊だろうが何だろうが家族には変わりないという考えがあるためだ。

 こういうのを見ると、つくづく2人の子供で良かったと思う。

 その後は、父さんとは他愛ない話をし夕食の準備が出来たという事で3人で食堂へ向かう。

 食堂には既に母さんが座っており、テーブルには豪勢な料理が並んでいた。


「料理長がね、今日は貴方が帰ってくるって言うので朝から張り切ってたのよ?愛されてるわね」


「ははは、僕は幸せ者ですね」


 前世でも、俺はそれなりに交友があったし両親との仲も人並みには良好だったので愛に飢えてるとかそういうのは無いが、やはりこうやって直にそれを感じると嬉しくなる。

 俺と父さんは席に着くと、料理長やそのほかのコック達の渾身の料理に舌鼓をうつ。

 食事をしてから少し経った頃、父さんが口を開く。


「そういえば、ジジイから聞いたぞ。お前、学園で結構有名なんだってな」


「あ、私も色々学園での噂を聞いてるわよ」


 俺は2人の言葉に少し身構える。

 悪い噂でこそ無さそうだが、2人ともイタズラを思いついた子供のような顔をしていたからだ。


「えーと、俺が聞いたのだと魔法を習い始めの初っ端からいきなり決闘をやって爵位が上の貴族の坊ちゃんをボコボコにしたとかあったな」


「私は訓練場を新しい魔法で滅茶苦茶にしたって言うのを聞いたわね」


「……えーと、その話って誰から聞きました?」


「「学園長」」


 俺の質問に対し、2人は異口同音に答える。

 あんのジジイ!何、余計な事言ってんだ!


「え、えっとですね。その2つはやむにやまれぬ事情がありますと言うかなんというか……」


 改めて他人から聞けば怒られそうな内容に、俺はしどろもどろになりながら誤魔化そうとすると2人はニカッと笑う。


「流石俺の息子だな!平凡な学園生活なんか送ってたら逆に怒ってたぞ!」


 父さんは、そんな事を言いながらバシバシと俺の背中を叩く。


「それに1年目でいきなり初等学部6年まで飛び級でしょ?私たちの自慢の息子よ」


 予想外の褒めちぎりっぷりに俺は唖然とするが我に返るとストレートな褒め方に恥ずかしくなってしまう。


「ぼ、僕なんかたまたま運が良かっただけですよ……先生の教え方も良かったですし」


「謙遜すんなよ。謙虚なのも良いが、あんまり度が過ぎると嫌味だぞ?」


 ワハハと父さんは笑いながら俺の頭をクシャクシャと撫でる。

 その後も学園長から逐一話を聞いていたのか冬休みまでの俺の活動が筒抜けで何とも恥ずかしい時間を過ごした。


「……そういえば、友達とは仲良くしてるのか?」


 地獄の褒めちぎりタイムが終了し、ひと段落ついた頃に父さんがそんな事を話す。


「はい、皆とても良い友人です。あ!そうそう……フラムとも良い友好関係を結べてますよ」


「友好関係……かぁ」


「フラムちゃんも気の毒に」


 俺の言葉に2人は何故か、何とも言えない表情を浮かべる。フラムに何かあるのだろうか?

 気になって尋ねてみるが何でもないとはぐらかされてしまった。


「他にはどんなお友達が居るの?」


「えっとねー、後は黒い毛のワーウルフと面白い盾の女の子が居るんだよ」


 母さんの質問にアルディが答える。


「へー、ワーウルフか。あいつら、力とか強くて頼りになるんだよなぁ。俺達が学生の時もパーティに女のワーウルフが居たな。確か同じ黒毛種だったな。職業が……サムライだったか」


 へえ、父さん達のパーティにも居たのか。女のワーウルフ……つまり犬耳っ娘か。是非ともお会いしたいものだ。

 父さん達のパーティって事は年もそんな離れてないだろうし充分ストライクゾーンにはいるな。


「ああ、あの子ね。確か世界を周るって言ってたわね。元気にしてるのかしら」


 母さんも頬に手を当て懐かしそうにしている。


「まあ、あいつの事だから元気にしてんだろう。それよりも盾の面白い女の子ってどういう子なんだ?」


「えっとねー、凄い頑丈なんだけど攻撃を受けるたびに変な声を出すんだよ。アルバの知識から言葉を借りるとドMって奴かな。アルバの事をご主人様って言ってるんだよ」


 空気が凍る。

 まさにそれは、今の様な状態を示すのだろう。

 

「アルバ……お前……」


 アルディの言葉を聞いた父さんは、物凄く冷めた視線でこちらを見てくる。


 ご、誤解だ!別に俺は年下の女の子にご主人様と呼ばれて嬉しがる変態ではない!

 あれは、なんというか成り行き上仕方なかったと言うか……

 俺は何とか誤解を解きたかったが、スターディが女王様系ドMなのは事実なので、どう誤解を解けばいいのか分からず言葉が出なかった。


「私としては、貴方の性癖に口を出すつもりは無いけど……若い内からそれは早いと思うわよ?」


 母さんは母さんで、妙に生暖かい目でこちらを見ながらそんな事を言ってくる。


「……あのですね」


 その後、俺はたっぷりと時間を掛けて懇切丁寧に説明し俺にはそんな特殊性癖が無い事やスターディの厄介な特徴等を伝え何とか誤解を解くことに成功した。


「わかった分かった。そんな照れ隠ししなくても俺達は、どんなお前でも受け入れるよ」


 否、誤解を解ききれてなかったかもしれない。

 俺は、後でアルディにお仕置きをすると決め、その日は俺の名誉の為に誤解を解くことに専念したのだった。

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