第21話
「それでは、この契約書に貴方達の手を置いてください」
俺とブラハリーは、決闘の許可を貰いに担任のところへ行ったら困惑しつつも、今俺達が居る白い壁に囲まれ、床に魔法陣が描かれた部屋へと連れて来ていた。
この部屋が決闘の際の契約書を交わす場所らしい。契約書というのは、お互いに出した条件を必ず履行させるほか、決闘当日までいかなる妨害も禁止すると言うのをお互いに誓うと言うものである。
契約書は古代の魔法技術で制作されており、契約したい者同士で手を置くと契約神エンゲージにより絶対的な契約とされる。
契約神は人工的に作られた神様で、今は失われた技術で作られたとのことだ。ちなみに、契約を破ればエンゲージにより、とても口では言えない様な罰が与えられるとか。
契約書自体は様々な用途で使用され、この決闘でも使われているらしい。決闘制度が出来た当初は契約書が導入されていなかったため、相手の妨害や闇討ちの被害が後を絶たなかったそうだ。
俺とブラハリーが契約書に手を置くと契約書が一瞬光り、俺とブラハリーの名前が記入される。
先生はそれを確認すると懐に契約書をしまい込む。
「これは責任をもって当日まで金庫に入れておきます。戦う日までお互いに契約を守ってくださいね?そして、戦いの当日はお互いに持てる力を全て使い存分に戦ってください」
そんな事を言い終わると先生は俺達に部屋から出るように促してきたので素直に部屋から出る。
「1ヵ月後、覚えとけよ」
「ええ、そちらこそちゃんと約束は守ってくださいね?」
「ふん、僕が勝つに決まっているだろ。それじゃ、僕は行くからな」
ブラハリーは、そう言い捨てると部屋の外に待機していた2人と合流し立ち去っていく。
「全く甘すぎますわ!」
同じく部屋の外で待っていたフラムが怒ったように言う。ちなみに、肩にはアルディが乗っていた。あの部屋では決闘の当事者と教師しか入ることが出来ない決まりらしく、部屋の外で待っていたのだ。
「甘いって何が?」
「アルバ様の事です。相手の条件が変わったとはいえ、アルバ様の条件はそれを差し引いても甘すぎますわ。例えるならハニートーストに砂糖をぶっかけるくらい甘いですわ」
「それって普通の甘さじゃない?」
「え?」
「え?」
なにそれこわい。フラムの例えの甘さって普通だと思うんだけどなあ。俺ってこう見えて結構甘党でバニラアイスに砂糖かけて食ったり、ケーキをワンホール食べたりとかするからあんまり違和感なかったんだよなあ。
そうそう一応説明しておくと、退学を賭けることは出来ないのだそうだ。決闘制度が出来た当時は賭けれたらしいが、なまじ才能のある奴がこれまた独裁的な奴で気に食わない奴に退学を賭けて勝負しまくってたらしい。
学園側としては将来有望な生徒を失うのは手痛いので生徒間で退学を賭けるのは禁止となったそうだ。そういう事情から退学にはできないと知ったブラハリーが出した案は裸で学園内1周というこれまたベタな条件だった。
要は、そんな恥ずかしい思いをすれば自主的に学園に来なくなるだろうと言う子供にしては、そこそこ考えている条件だった。
ちなみに俺が出した条件は、『勝負の“過程”や“結果”に関わらず勝負後の一切の文句、報復を禁ずる』だ。
要は俺がどんな手段で勝っても文句は言わせねーぞって事だ。俺も同条件でも良かったのだが、ああいうタイプってのは無駄にプライドが高いから俺が勝った場合、変な難癖を付けてエスカレートする可能性もある。
ならばと、俺自体は奴になんも恨みが無いし、ちょっかいを掛けられたくない故の決闘の申し出だったのでさっきのような条件を出したのだ。
まあ、フラムからすればそれは甘いとのことだが。
「でも、僕はあんまり恨みは買いたくないんですよねえ」
「アルバ様は優しすぎますわ。まあ、そこが良い所なのかもしれませんけど」
「アルバはとっても優しいんだぞ!私にも体を作ってくれたし」
「ああ、そうでしたわね。それにしてもこの体、普通の人形師と比べて遜色ないくらいの出来ですわね。これも土属性の恩恵ですの?」
「まあ、そんなとこですね」
フラムがアルディの体を繁々眺めながら尋ねてくるが、前世の記憶があるから作れました。とか言っても信用しないだろうし、土魔法の恩恵という事にしておく。
とりあえずは、明日から属性毎に分かれての授業も始まるし色々学ばなければいけない。後は、ランドリクさんにもお願いして土魔法の戦い方を教えてもらう事にしよう。
「そういえば、フラムはどこの寮なんですか?」
「私はアグニ寮ですわ」
俺の問いにフラムは、ドヤ顔を披露しつつ答える。ああ、まあ納得の結果ではある。さっきもそうだが、フラムは結構喧嘩っ早いというか気が強いから予想通りというか特に驚きもしなかった。
「もし、何か用事があればアグニ寮までお越しくださいね?私で良ければ力になりますから」
そう言ってフラムは、用事があるからと頭を下げて立ち去っていく。この場には俺とアルディだけになったので、そのまま寮に帰る事にする。
「そうだ、アルディ」
「んー、なーにー?」
俺の肩の上でくつろぎながらアルディは間延びした声で答える。
「決闘当日はアルディにも色々手伝ってもらうからな?」
「え?それっていいの?1対1の戦いじゃなかったっけ?」
「戦いの条件は“お互いに持てる力を全て使って存分に戦う事”なんだよ。アルディは俺の契約した精霊だろ?つまり、アルディも俺の力ってわけだ。まあ、友達なのに俺の力ってのもアレだけど客観的に見れば俺の戦力になるわけだから協力してもらうよ?」
「うん!わかった!アルバの為に一生懸命頑張るよ!」
ずるいとは言わせない。戦いに卑怯もくそも無いのだ。それに全力と言われたから全力を出すだけなので文句は言われる筋合いはない。
それに土属性を馬鹿にされるという事はアルディを馬鹿にされるという事でもある。あのアホタレは俺とアルディで叩き潰さないと気が済まないのだ。
まあ、それでも子供であるブラハリーは、卑怯だなんだと言いそうだったのであの条件を出したと言うわけだ。
口約束だったら破られていたかもしれないが契約書なるマジックアイテムのおかげで約束を破られると言う心配がなくなったので全力で戦えると言うわけだ。 あー、1ヵ月後がタノシミダナー。
寮に帰ると、ロビーにはヤツフサとランドリクさん他ルームメイトがそろっていた。
「あ!アルバ君!大丈夫だったの!?ランドリクさん達にも連絡して待ってたんだよ!」
ヤツフサは心配そうな顔をしながら近づいてくる。うーむ、心配しなくていいって言ったんだが無駄だったようだ。ランドリクさん達にも心配させてしまったようだし……
まあ、でもタイミング的に今言うのが一番だと思い、さっきの出来事を説明しランドリクさんには戦い方や魔法を暇な時で良いから教えてほしいとお願いしてみた。
「俺は……構わない。ただ……魔法具が与えられるまでは……普通の鍛錬だけだ……」
「魔法具?」
「魔法を使う際に必要な道具の事だ」
俺の質問にジョナンドさんが説明してくる。
「魔力を貯める効果を持つ魔石に魔力増幅の術式を刻んだ後に任意の道具に埋め込むことで魔法を使う際の補助として使うことが出来るんだ。一般的なのは杖だけど各自の戦い方に合わせてオーダーメイドも出来るんだ。魔法具は学校で注文するか知り合いに魔法具職人が居れば頼むことも出来るんだ」
ああ、よくゲームや漫画なんかで魔法使いが持ってるような奴か。ふむふむ、魔石って結構用途が多そうだな。
「ちなみに俺は普通に杖タイプだな。ランドリクは腕輪だ。ほら、両腕に黒い腕輪があるだろ?」
ジョナンドさんに言われた通り、ランドリクさんの両腕を見て見ると真っ黒い腕輪が確かについていた。
「魔石ってのは加工前は魔鉱石って言われてて熱を当てれば柔らかくなって冷ませば硬くなる。粉末して何かに混ぜようがなにしようが効果が無くならない万能鉱石って呼ばれてるんだ。ちなみに粉末状にして何かと混ぜた場合は、それに魔力増幅の術式を刻めばそれが魔法具になる」
すげえな、魔石。という事は鋼と混ぜて魔石剣とかも作れて魔剣士みたいなスタイルも出来るのだろうか?
試しに聞いてみたら、そういうタイプもやはり居るとのことだった。
とりあえず、明後日からランドリクさんの朝の鍛錬に付き合う事にした。事情があって、まだしばらくは長時間激しい運動は出来ないと説明したら、ランドリクさんの病弱時代の鍛錬があるから大丈夫と回答をもらった。
その後は、皆で食事を取り寝ることにした。
翌日、いつものように登校してきて、契約書の件もあるのかブラハリー達は特に仕掛けてくるような事はしなかった。
そして、午後からはいよいよ属性毎の個別授業となる。属性毎に担当の教師が決まっており、案内に従いそれぞれの校舎に向かうことになる。
俺も土属性の授業を受ける為受け取った地図を見ながら目的の教室に向かう。
若干迷いつつ無事に辿り着くと俺は半ば緊張しながら教室の扉を開ける。
中は教室と言うよりも理科室と言うか大学の研究室に近い雰囲気だった。教室の隅には、土属性の教室のせいなのか、1m四方の砂場や、土、小さい岩山などが設置されていた。
俺が最初だったのか、教室内にはまだ誰もいなかった。とりあえずベルが鳴るまで待ってようと思い一番前の席に座りアルディと雑談をして過ごす。
少しするとベルが鳴るが生徒どころか教師すらもやってこなかった。
「あれ……?教室を間違えたか?」
いやでも地図を見ながら来たし、何よりも教室の隅の砂山等が土属性の教室だと物語っていた。
俺が砂山の方を見ているといきなり、砂山から手足が生えズゾゾと砂が動き出す。
「え!?なんだ!?」
いきなりの事に俺とアルディがビビってると、砂山から1人の少女が現れる。
背丈は俺と同じくらいで地球ではありえない桃色の髪をツインテールに束ね、眠そうな顔をしているが顔立ちは綺麗……というか可愛い方だった。もしかしたら生徒だろうか?
ただ、少し疑問なのが何故か、スク水(しかもなんでこの世界にあるのだろうか)だった。
「あ゛~、寝すぎた。今、何時だ?」
見かけによらずおっさんくさく頭をボリボリ掻きながら少女は時計を確認する。
「ああ、もう授業始まってるのか。だがまあ、初級学部の生徒は来ないだろうな」
少女は、俺に気づいてないのか眠そうに欠伸をすると再び砂山に向かう。
「さて、暇だし砂山ダイエットの続きでもやるかな」
「いやいや、居ます!ここに居ますよ!」
少女が再び砂の中に入ろうとするので、俺はようやく正気に戻り少女を引き留める。
「んあ?ああ、居たのか。すまんな、起き抜けで頭がぼーっとしてたわ」
少女は俺に気が付くと、自分の体の砂をはたきながら教壇に向かい中にしまっていたのか、白衣を取り出すとそれを羽織る。
スク水白衣とかマニアックすぎんだろ。
「それにしても初級学部で土属性習いに来るなんてランドリク以来だな」
「ランドリクさんを知ってるんですか?」
「あん?まあ、あいつは初級学部から真面目に土属性を勉強しに来てる数少ない生徒の一人だからな。っと、自己紹介が遅れたな」
少女は、ゴホンと咳払いをして口を開く。
「土属性専攻教師 ドワーフのエストレア 28歳独身だ。彼氏募集中だから良い男が居たら紹介しろ」
なんだか、どっかのルームメイトみたいなことを言いながら少女改めエストレアさんはそう自己紹介した。
「っていうか教師だったのかよ!」
何処の世界に就業中に砂の中で寝る教師が居ると言うのか。思わず敬語も忘れツッコんでしまったのは仕方ないと思いたかった。
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