第14話

「知らない天井だ」


 いや知ってるけども。俺の家だけども。2度目と分かってても同じネタを使いたい子供心。ていうか、俺は何で家のベッドで寝てるのだろうか。アルマンドに背中を刺されて気を失ってから記憶が無い。


「あー……なんか、体も怠いし……刺された影響か?」


 俺はそう言って起き上がろうとするが、何故か力が入らなかった。首は動かせたので何とか動かしてみると髪の毛が凄い事になってた。


「ながっ!?え?なんでこんな髪の毛長くなってんの?」


 前髪は定期的に切られていたのか視界の邪魔にはならなかったが俺の髪は寝たままでも分かるくらい伸びておりまるで女の様だった。

 とりあえず腕くらいは動いたので念の為、自分の体を調べてみるがとりあえず俺の息子は無事だった。


「良かった。ここでまさかの女体化展開かと思って焦ったぜ」


 だとしたら、なぜこんなに髪の毛が伸びているのだろうか。起き上がれないほど体の筋力が衰えているようだが心なしか魔力の量は上がっている気がする。

 俺が自分の状況に首を傾げているとガシャンとお盆を落とす音が聞こえる。どうやら入口のところでメイドさんがおしぼりのようなものを乗せたお盆を落としたようだった。メイドさんは、まるで幽霊でも見るかのような目で俺の事を見ている。


「……?あの……」


「……ハッ!お、奥様ーーーーーー!」


 俺が声を掛けようとするとメイドさんは我に返るとお盆を拾い上げて叫びながらバタバタと走り去っていく。


「なんなんだ……?」


 はっ!まさか、まじで幽霊でも居んのか!?やめてよね!俺、幽霊苦手なんだから!あ、もしかして体がちゃんと動かないのは金縛りか!?

 そんな事を考えているとあわただしい足音が聞こえてくる。


「アルバ!」


 そこには、よっぽど慌てていたのか髪の毛やらなにやらがしっちゃかめっちゃかになった母さんが居り、肩にはアルディが乗っていた。


「?どうしたんですか……母さ……」


 俺の言葉が言い終わらないうちに俺は母さんに力一杯抱きしめられていた。ついでにアルディも一緒になって抱き着いていた。


「もう……目を覚まさないかと思って……心配、したんだから!」


 母さんは涙ぐんでいるのか、時折嗚咽を漏らしながらそう叫ぶ。その言葉を聞いて俺は察する。

 そうか、アルマンドに刺されて俺は意識不明だったのか。あんときは、異常な状況なせいもあってアドレナリンがドバドバ出てたから恐怖心なんか消えてフラムを助けに入ったけど、父さん達からすれば生きた心地がしなかっただろうな。自分の息子が刺されたのだから……。

 俺は自分の軽率な行動を反省しつつも母さんを抱きしめ返す。


「すみません母様……心配をおかけして。アルディもごめんな?」


「もう!本当に心配したんだからね!テレパシーで語りかけても返事が無かったし!」


 アルディは、怒ってるんだぞ!という表情で俺の頭を叩いてくる。その様子を見て不謹慎だが、自分は愛されていると実感して少し嬉しくもある。


「この3年間、本当に心配だったのよ?メルクリオも仕事に集中できないくらいだったんだから」


 あー、俺って3年も寝てたのか。そりゃあ髪の毛も伸びるし体も動かないな……って3年!?


「ちょ、ちょっと待ってください!僕は3年も寝てたのですか!?」


 まさかの3年寝太郎状態に俺は驚きを隠せなかった。アルマンドに誘拐されたときが5歳だったから今は8歳か。あ!魔術学園の入学式も過ぎてるのか!

 俺は、いきなりの事実にそんな頓珍漢な事を考えてしまう。


「そうよ。色んな治癒術士なんかを呼んだりしたけど傷は治っても貴方は一向に目を覚まさなかったのよ?少しでも生きていると言う証拠が欲しくて伸びる髪の毛もそのままだったしね。流石に前髪はじゃまだろうから切っていたけど」


 そういう事か……だが、3年という年月を考えても少々髪の毛が伸びすぎな気もしなくもない。女性ならともかく男はそれほど伸びる速度は速くないから3年で立った時に足元まで来るような長さまでは伸びないはずだ。

 いやまあ、試したことは無いから確証はないが。


「それにしても驚いたわ。貴方の髪の毛って伸びるのがとっても早いのよ?髪の毛の長さに比例して魔力も上がっていくし……髪の毛には魔力が宿るって言うからそれの影響かしらね?」


 母さんは、3年の空白を埋めようとしているのか次々と話題を振ってくる。髪の毛に魔力か。前世でなんかの本でそんな事が書いていたような気がするな。もしそれが事実だとすれば俺の魔力量が上がった気がしていたのもうなずける。

 だが、疑問点を上げるとすればなぜ魔力が上がったかだ。


「瀕死になったりすると魔力って上がる物なのですか?」


「うーん、少なくとも私は聞いたことないわ。そんな方法があれば腕の確かな治癒術士さえいれば試している人が居るはずだもの」


 という事は、俺が特別なのか……?はっ、まさか俺は瀕死になる度にパワーアップするサ○ヤ人の血統だったのか!?でも、尻尾は生えてないしなあ。


「なんだか、アルバからウィルダネス様の匂いがするー」


 俺が魔力上昇の原因について考えていると俺に抱き着いていたアルディがそんな事を言う。ウィルダネス様って確か……ああ、そうだ。土の女神だ。


「あら。じゃあ、もしかしたらアルバが死ななかったのもウィルダネス様が守ってくれていたからかもね。だからウィルダネス様の匂いがするのかも」


 アルディの言葉に母さんがそんな事を言う。ウィルダネスに守られた。なぜか、それだけは違うと激しく反論したかったが何故そんな気持ちになったか分からなかったので自分の心の内にしまっておくことにした。


「さあ、アルバ!今日は、貴方の復帰祝いを盛大にやりましょう!メルクリオにも早く伝えなきゃ!貴方は後でお風呂に入れてもらいなさいね!それに体を3年間も動かさなかったんだから動く練習もしないとね!」


 パンっと手を叩くと母さんは慌ただしく走り去っていく。その後は、従者に抱き上げられて風呂に入り身を綺麗にした後髪を梳いてもらう。当初は切ろうとしたのだが軽く切った瞬間、魔力が減ったような感覚に襲われたので髪はそのままにすることにした。

 髪を切ったら増えた魔力が減りました。だと、目も当てられないからだ。とはいえ、流石に足元まで伸びているのは邪魔なので腰くらいまでに切ってもらう。

 それだけでもごっそり魔力が無くなったような気がしたが気のせいだと信じたい。

 

 髪の毛を切ってくれた人が言うには切った髪にも魔力が貯まっているとのことなので何かに使えそうだと思い、瓶に入れ保存しておくことにする。

 これが赤い髪だからまだいいが黒髪だったら、軽くホラーだった。


 その後、母さんに呼ばれるまではアルディから俺が気を失ってからの事を聞いた。

 アルマンドは結局逃げおおせて今も見つかっていないらしい。フラムは魔術学園に入学し長期休みの度に俺のお見舞いに来ていたらしい。

 魔術学園は長期休み以外は基本、教師の許可が無いと学園の外に出れないとフラムが言っていたとのことだ。ちなみに現在は夏休み中で俺が目覚める1時間ほど前にもフラムが見舞いに来てたらしい。


 そして、例の『救済者』とかいう組織は結構根深いらしく父さんや母さんがこの3年間で支部を潰しまくったらしいけど蜥蜴の尻尾切りをされて肝心な手がかりが掴めていないらしい。ていうか、さり気なく潰しまくってるとか聞いてしまったがあの二人強すぎだろう。

 普段は喧嘩をしない仲睦まじい夫婦だが、もし夫婦喧嘩をしたらどうなるのだろうかと少し怖くなってしまう。


 俺が目が覚めたのが大体昼頃でそれから7時間くらい経った頃、準備が出来たと言われ食堂へと抱っこされて連れて行かれる。子供の体だからまだいいが、正直めっちゃ恥ずかしい。


「アルバアアアアアアアアアアア!!」


 食堂に入った途端、父さんに抱き上げられその衝撃でアルディが転げ落ちてしまい、父さんに抗議をしていた。


「良かった!本当に良かった!」

 

 父さんはイケメンなその顔をグシャグシャに歪めて泣いていた。アルディもその様子を見ると怒りを収めて父さんの頭を撫でていた。


「すみません……ご心配をおかけして」


「いや、いいんだ……!確かにお前は無茶をしたが結果的にお前は生きててくれたんだ。それだけで俺は満足だ!」


 謝る俺に対し父さんは俺を椅子に座らせながら首を横に振ると再び抱きしめてくる。こんな良い両親や友達に恵まれて俺は本当に幸せ者だと思う。俺と父さんが感動の再会をしていると後ろで扉が大きく開け放たれる。


「アルバ様が回復なされたというのは本当ですか!?」


 食堂に居た皆の視線が開け放たれた扉に集中すると、そこには少し大きくなっているがフラムが立っており、後ろにはカイゼル髭のよく似合うダンディなおっさんが立っていた。

 ていうか、フラムって今、俺の事何て呼んだ?


「ああ!アルバ様!回復されたと言うのは本当だったのですわね!」


 フラムは満面の笑みを浮かべ父さんと一緒になって抱き着いてくる。しかし、今日は良く抱き着かれる日だ。まあ、3年も寝てたらしいし無理もあるまい。つーか、誰この人。あまりにもキャラ違うんじゃないですかね?

 あの空気の読めない超高飛車娘は何処に行ったんだ。


わたくし、ずっと貴方に謝りたかったんですの。貴方の事をよく知らないのに土属性というだけで貶めて……。しかも不遜な態度で助けてくれたアルバ様にも辛く接してしまい……本当に申し訳なく思っておりますわ」


「ちょ、ちょっと待ってください……そのアルバ様って何ですか?」


「アルバ様は私を救ってくださった命の恩人なのですから敬って当然ですわ。3年前の私は自分から見ても物を知らない愚かな子供でした」


 まあ、今も子供だけどな。そんな俺の心中のツッコミに気づくはずも無くフラムは続ける。


「私が人質に取られた時も、アルバ様に辛く当たった私を見捨ててもおかしくは無いのに、貴方は危険を顧みず私を助けてくださいました。本当に感謝しておりますわ」


「私からも礼を言うよ」


 と、そこへ先程のカイゼルダンディが話しかけてくる。誰だ?という俺の表情を読み取ったのかダンディは恭しくお辞儀をして自己紹介をする。


「おっと、申し遅れた。私はハイン・アルベット。フラムの父親だ。この子は男手ひとつで育てたからなのか甘やかしてしまってね。3年前は君にとても迷惑をかけたと思っている。それと同時にお転婆な私の娘を助けてくれてありがとう」


 ハインさんは、そう言うと再び頭を深く下げる。


「えと、頭を上げてください。あの時は、僕も体が勝手に動いてしまっただけで……それに、結局僕もやられちゃいましたし……」


「それでも、君が娘を助けようとしてくれた事実に変わりはない。今後、君が何かしらで困ったときは全力で助力すると誓おう。こう見えて私は商人でありながら地位が結構高くてね。結構顔が利くのだよ」


 あー、なるほど。それでフラムもあの時はやたら偉そうだったのか。今は、別人だろってレベルでしおらしいが。


「はいはい、立ち話はそこまで!折角の料理が冷めちゃうわ!続きは食べてからでも遅くないわ!」


 母さんが手をパンパンと叩き喋ると皆、各々の席に着く。

 その日は、学園の話や3年間の事などで夜遅くまで盛り上がった。俺の食事は3年ぶりという事で消化の良い物ばかりだった。寝てる間の栄養はどうしたのかと思ったが、治癒魔法を定期的にかけることで生命を維持していたらしい。地球で言う所の生命維持装置とかそのようなものっぽい。

 

 あ、ちなみに俺はろくに体が動かせなかったので母さんに食べさせてもらうと言う羞恥プレイを味わいました。まさか、この年でまた赤ちゃんプレイをするとは思わなかったぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る