第10話

「ん……」


 ゴトゴトと揺れる振動で俺は目を覚ます。妙に頭がズキズキと痛み両手も何故か動かせず状況が判断できない。俺、何やってたんだったか……


「やっと起きましたのね」


 声のした方を見ると、そこには俺と同じくらいの年の女の子が両手両足を縛られて座っていた。女の子は金髪縦ロールと言うベタな髪形で高級そうな服に身を包んでおり気が強そうだが人形みたいな可愛らしい顔立ちをしていた。


「此処は……?」


 俺は、未だに状況が掴めず目の前の女の子に尋ねると女の子は呆れたと言わんばかりにため息を付く。俺と同じくらいの年の癖に妙に大人っぽい仕草をする子供だな。まあ、俺も人の事は言えんが……。


「私たちは誘拐されたのですわ。外の状況は分からないですがおそらく馬車に乗せられてるんだと思いますわ」


 金髪縦ロールに「ですわ」口調とかベタすぎんだろ。でもそういうお嬢様キャラ好きですはい。これで高飛車ならなお良し!


「って、アホなこと考えてる場合じゃないな。というか誘拐?」


「覚えてないんですの?柄の悪い男たちが貴方をこの中に入れたんですのよ?」


 俺は、改めて自分の体を見ると足はロープで縛られており、両手はロープらしき物で縛って、さらにその上に何かの動物の皮で包まれて縛られていると言う徹底ぶりだった。

 そしてそこで俺は思い出す。そうだ、アルマンドの野郎と変な連中に捕まったんだったな。頭が痛いのは気絶する直前に殴られたからだろう。周りを見ると、他にも裕福そうな子供や一般階級っぽい子供など、だいたい5歳~10歳くらいの子供ばかりが捕まっていて泣いていたり、落ち込んでいたりした。

 ふむ……服装から判断すると貴族以外の子供も居るようだ。誘拐の主な理由としては身代金だが、それにしては攫ってくる子供の身分にバラつきがあるように感じる。それに……アルマンドが言っていた『土属性の才能持ち』というのも気になる。


「ちょっと!聞いてますの!?」


 俺が誘拐された理由について考えていると縦ロールが話しかけてくる。


「何だよ。今、考え事してんだから」


「まあ!なんて粗野な話し方なんでしょう!服装から貴族の方とお見受けしたのに見た目だけなんですのね!」


 縦ロールは何故かプリプリと怒り出す。今は状況が状況だけに取り繕ってる余裕はないのだ。とはいえ、いくら考えたところで今の状況が分かるわけではないし、いつまでも怒らせておくと面倒くさいので大人の余裕を持って応対してやる。


「申し訳ございません。お嬢さん。なにぶん、いきなりこのような状況になり少々混乱しておりました。何卒御無礼をお許しください」


 ふふん、どうだ!伊達にマナーの教育は受けてねえぞ。まあ、もしかしたら少し敬語が間違っているかもしれないが5歳児というのを考えれば問題なしだ。縦ロールはそれで機嫌を直したか怒りを収めて話しかける。


「ふふん、分かればよろしいのですわ。さあ、何かお話しなさい」


 なんという無茶振り。


「あの、お話って急に何を……?」


「まあ!分からないんですの?こんな可愛らしく可憐な女の子が誘拐されて怖がっているんですのよ?殿方ならば気を利かせて話をして気を紛らわせようと思いませんの?」


 あ、だめだこの子。めんどくさいタイプだ。昨今、様々な作品でよく出てくるお嬢様タイプだが、自分の事を褒めるタイプは大抵ろくでもない。俺の偏見かもしれないが、少なくとも俺の知ってる作品には当てはまる。

 全力でスルーしたいところだが、下手に騒がれて誘拐犯の機嫌を損ねてしまってはまずい。誘拐犯が全部でどれくらい居るか分からないが俺の様なガキンチョはあっさり殺されてしまうのがオチだろう。

 俺は、内心ため息をつきながらも、にこやかな笑みを浮かべ自己紹介する。


「失礼しました。僕の名前はアルバ・フォンテシウム・ランバートと申します。貴女のお名前を教えていただけませんか?」


 ここで明かされる俺のフルネーム。いかにも貴族っぽい名前である。


「私は、フラム。フラム・アルベット……世界一の武器商人の娘ですわ」


 フラムと名乗る縦ロールは、縛られているくせに何故か偉そうに自己紹介をする。武器商人の娘か……ここで助けたら何か良い武器とか貰えねえかな?

 そんなアホな事を考えていると馬車が止まり、俺を殴った男が入ってくる。


「よーし、てめーら。大人しくついてこい!逃げたりしたら速攻殺すからな?」


 周りの子供たちは泣きながらも男の剣幕に押され大人しく他の男に連れられて行く。


「そこのガキ。おめーも早く来るんだ」


 一瞬、俺の事を言ってるのかと思ったがどうやらフラムに言っていたらしい。フラムは誘拐されたと言う自覚があるのかないのか鼻をフンとならす。


「私はガキという名前ではありませんわ。それになぜ、貴方の様な下賤な輩の言う事を聞かなければなりませんの?」


「おいおいおい……おめーはこの状況を分かってるのか?おめーは誘拐されたんだぞ?」


 男は、青筋を浮かべながら近づいてくるがフラムは怖気づくどころか男をまっすぐと見据える。


「ふんん、貴方達などすぐにお父様達に捕まるのですからそうやって凄んだって無駄ですわ。私を丁重に扱うならばお父様に口添えをして極刑だけはやめるようにしてあげてもよろしいのですのよ?」


「……このクソガキがぁ!!」


 男は、フラムの挑発に易々と乗って拳を振り上げて殴ろうとするが俺がフラムの前に立ち何とかなだめる。


「まあまあ、落ち着いてください。アルマンド先生にも言われたでしょう?丁重に扱うようにと……。素直にいう事を聞きますので何とか怒りを抑えてくれませんか?」


 俺は、内心冷や汗をドバドバ流しながらも笑顔で説得する。男は、怒りが収まらないと言った感じだったがアルマンドに言われた事を思い出したのか、早く来い!と怒鳴りながら乱暴に馬車から出ていく。


「全く……助けるならもっと騎士らしくかっこよく助けてくれませんの?そんなヘラヘラ笑って媚びへつらって男として恥ずかしくありませんの?」


 ……やっぱ助けなきゃ良かったかもしれない。いくらくそ生意気なガキでも暴力を振るわれるのは見過ごせないと思って助けたが若干後悔している。

 とりあえず、さっきの男にまた怒られても嫌なので何とかフラムを連れ出して男達について行く。

 連れて行かれた場所は洞窟のような場所で入り組んだ道を進んでいくと牢屋に入れられる。牢屋には既に先客がおりさっきの子供たちの他にも何人か捕まっていた。


「良いか?逃げようなんて思うなよ?もっとも、てめーらのしょっぱい魔法じゃ無理だと思うがな……それとそこのお前」


 男は、今度こそ俺を見てビシッと指を指す。


「おめーだおめー、そこの土属性のガキ。てめえは、魔法詠唱なしでも土が操れるらしいからな、土属性で操れない皮で手をふさいでいるから大丈夫だとは思うが、くれぐれも変な気は起こすなよ?」


 男は、そんな事を言うと見張りを残して部屋から出ていった。それで合点がいった。確かに、俺は逃げる時に地面に手をついて地面を隆起させていた。あれは、魔力を効率よく流す為にやっていたことだが奴らは魔法の行動の一種だと思っていたらしい。それで手を使えないよう動物の皮で俺の手を隠していると言うわけだ。

 確かに、5歳児の俺は非力なのでこの拘束を解くことも出来ない。よく考えられている……マジ詰んだかもしれない。

 奴らの目的は、まだ分からないが身代金目当てだと信じたい。そうすれば少なくとも取引が終わるまでは俺達の命は保証されるからだ。


「貴方、土属性だったのね。情けないとは思っていたけど属性まで情けないのね」


 と、そこへ空気の読めないフラムがまた話しかけてくる。実は、不安だからそれを誤魔化す為に憎まれ口を叩いているのかもと、思おうとしたがそれを差し引いても少しムカッとくる。我ながら大人げないと思うがムカつくのだから仕方あるまい。


「……そういう貴女はどうなのですか?」


「私?私は勿論、炎!ですわ!誰もが羨む圧倒的な攻撃力と派手さを持つ至高の属性!まさに高貴な私にふさわしい属性ですわ!」


 ……なるほど、こいつのこの高慢ちきな性格と妙な自信は先天属性が炎というのもあるのか。まあ、この性格は親の育て方のせいもあるだろうがな。

 その後、フラムが度々話しかけてくるのを軽く流しながら脱出の方法が無いか模索していると見知った顔がやってくる。


「やあやあ、“アルバ様”ご機嫌は如何ですか?」


 いやらしい笑みを浮かべたアルマンドがいつものような口調で話しかけてくるが、なんともそれが白々しかった。


「……なんで俺を誘拐した?」


「おや、意外と冷静なんですね。やはり貴方は普通の子供と違うようだ」


「いいから答えろ」


「……まあ、これから死ぬのだからせめて死ぬ理由くらいは話しておいていいでしょうね」


 死ぬ その生々しい単語に俺は思わず息を呑むが周りもビビったようで、空気の読めない残念少女フラムでさえも黙ってしまった。


「まず、さらった理由ですがそれは貴方が土属性の才能を持っているからです」


 これは、誘拐されたときにもアルマンドが言っていたがどうしてなのかは気になっていた。


「単純に先天属性と言っても才能は人それぞれ。同じ炎属性でもろくに才能が無い奴と才能のあるものに分かれます。私たちはそういう才能のある子供が必要なんですよ。貴方に才能があるのは貴方の教師である私がよく分かってますからね」


 アルマンドは、そう言いながらも説明を続ける。


「次になぜ子供なのか?それは単純に成長すれば後天属性を覚えだすからです。あとは単純に誘拐しやすいから……ですかね。私たちが必要なのは先天属性のみを持っている子供。後天属性などという不純物が混ざると我らが神はお気に召さないんですよ。特に土属性は親の見栄もあるのでしょうが、貴方の様に土属性だけというのが中々居なくて難儀していたんですよ。貴方には感謝しています」


 我らが神、という単語が気になったがアルマンドは説明する自分に酔っているのか、なおも話を続ける。悪役っていうのは、なんで自分から悪事を全部ばらすのが好きなんだろうか……


「才能のある不純物の混じっていない子供を見つける為、私の他にも表向きは魔法の家庭教師として様々な家庭に入り込み目星を付けたら隙を見てさらう……というわけです」


「……そんな事を続けていたらいつかボロが出るんじゃないか?それに……なんで俺達みたいな身分の高い子供を狙う?」


 誤解しないでほしいが、別に身寄りのないスラムの子供を狙えとかそういう事を言っているわけではない。なぜわざわざリスクの高い方を選ぶのかが気になったのだ。


「ふふ、子供である貴方には想像もつかないかもしれませんが、世の中には貴方の知らない様な闇がある……という事です。それと、アルバ様がおっしゃりたいことも分かります。才能があるならば身寄りのないスラムの子供を狙えとおっしゃるのでしょう?」


 アルマンドは、そう言って不敵な笑みを浮かべる。


「もちろん、そういった子供も狙っています。しかし、才能があるかどうか分からないし、しかも属性もわざわざこちらで調べなければならない。そういった手間を考えれば同時進行で私の様な役目の人間も必要だと言うわけです」


「それで……結局お前たちは何で、目的はなんだ?」


「私たちの組織は『救済者グレイトフル・デッド』……この世界を救うのが目的です。我らが神は今眠りについていて様々な属性の魔力を大量に必要としています。故に貴方達をさらってきたのですよ」


 要はカルト教団が救済と称して大量虐殺をするっていうパターンか。それで後天属性を持たない才能のある子供を集めて生贄に捧げると……

 あれ?俺やばくね?魔法も封じられているし、何より多勢に無勢で勝てる要素が見当たらない。

 流石のフラムも怖くなったのか、俺の服の裾を掴んで震えている。


「さあ、説明も終わりです。子供を怖がらせるのは私の趣味ではありません。今から貴方達を楽にしてあげましょう。我らが神の一部になれることを光栄に思う事ですね」


 説明は終わりだと言わんばかりにアルマンドが合図をすると屈強な男たちが牢屋に入ってきて次々と子供たちを連れて行く。アルマンドの説明を聞いてすっかり怯えてしまった子供たちは泣き叫んで暴れるが大人の力に勝てるはずも無く抵抗虚しく連れて行かれる。

 先程まで気丈に振る舞っていたフラムもすっかり怯えてしまい、大人しく連れて行かれ、打開策が思いつかない俺もそのまま大人しく連れて行かれた。


 辿り着いた先は、祭壇になっており黒いフードをかぶった如何にも邪教徒風の奴らが並んでいて祭壇の中心には巨大な禍々しい姿の邪神像が鎮座していた。


「おお!我らが神『神聖なる邪悪 アグナキア』様!今、此処に居る無垢なる魂を生贄に捧げることで救済をお与えください!」


 邪教徒の一人が邪神像の前に座るとそのようなことを叫ぶ。


「さあ、一人ずつ生贄を!」


 邪教徒が合図をすると両側に控えていた黒ローブが一人ずつ子供を抱えていく。子供は金切り声を上げて暴れるがそれも無駄に終わり石の台座に乗せられ四肢を拘束される。

 そんな異常な光景を目を逸らしたいのになぜか逸らせず俺は黙って眺めていた。助けたいのに助けられない。そんな歯がゆい思いが俺の心を支配していた。


「今ここに救済を与えん!」


 黒ローブがナイフを両手に持ちあげ振り下ろそうとしたときにそれは起こった。

 突如、邪神像が爆発し壊れた壁から二つの人影が現れた。


「アルバアアアアアアアアアアア!どこだあああああああああああ!」


 人影の一人は、父さんでイケメンだった相貌を崩し鬼気迫った表情を浮かべていた。


「何者だ! お前ら!奴らを捕えろ!」


「やかましい! 無慈悲なる凍てつく刃よ 愚かなる存在を 蒼き棺に葬りたまえ 獄氷葬刃!」


 父さんは、すかさず詠唱を終えると地面から無数の巨大な氷の槍が現れ黒ローブを貫いていく。

 父さんは、俺に気づくと周りの黒ローブ共をなぎ倒し俺を抱きしめる。


「アルバ!大丈夫か!?ケガはないか!?まだ純潔か!?」


 心配しすぎて最後に変なことを口走っているが俺は聞かなかったことにして答える。


「はい、大丈夫です。それよりも……なんで僕の場所が?」


 俺の問いに父さんは、俺の拘束を外しながら笑顔で答える。


「そんなの俺の息子を愛する気持ちが天に通じて「私が見つけたんだよ!」……ちょっとくらいかっこつけさせてくれないかなあ」


 父さんが、何やら言おうとしたところで父さんの後ろからひょこっとアルディが現れる。


「私とアルバは繋がっているからどんなに離れていても見つけられるんだよ!」


 なるほど、アルディと契約してたお蔭で俺は助かったのか。世の中、何がプラスになるか分からないものである。


「あ、そういえばお母様は……?」


「……あっちだ」


 俺の問いに、父さんは何故か苦虫を噛み潰したような顔をして向こうを指さす。


「あんたらあああ!私の息子に手を出してタダで済むと思ってんじゃないでしょうねええええええええ!」


 母さんは、炎を全身に纏い逃げ惑う黒ローブを焼き尽くしていく。何あれ怖い。 メーちゃんとか言ってた子煩悩母さんは何処に行ったんだ。


「久々に見たなあ、あれ。通称、炎獄女帝……自分の魔力と体を炎に変換し敵を焼き尽くすメリエラの得意魔法……メリエラは、俺と結婚する前はあれで若くして王国騎士団第4騎士団長まで上り詰めたんだ。俺と結婚してからは子育てに専念したいって事で引退したけどな。当時は地獄の女王って二つ名で呼ばれてたんだぜ」


 父さんは、遠い目でそんな事を語る。あの、のほほん母さんがまさかそんな人物だったとは、流石の俺も予想していなかった。というか、二人がこんなに強ければ確かに護衛なんか要らないな。


「そういえば、お父様も強かったんですね」


「ん?まあ、メリエラに比べれば弱いけど一応魔法学園首席卒業だからな」


 父さんは、他の子供たちの拘束を解きながら何でもない様な事のように話す。

 『俺の両親がこんなに化け物じみた強さの訳が無い』そんなどっかのラノベみたいなタイトルが思いついたがそれも仕方のない事だと思いたい。

 そうこうしている内に母さんが、あらかた敵を焼き尽くしたところでそれは起こった。


「動くなあ!」


 声のした方を見ると、いつのまにか姿を消していたアルマンドがフラムを人質に取っていた。


「アルマンド!」


 父さんと母さんは憎らしげにアルマンドを睨んで叫ぶがアルマンドはヘラヘラした笑みを浮かべ話し出す。


「いやあ、流石は地獄の女王と氷帝と名高いお二人ですね。まさか、ものの数分でこの支部が壊滅させられるとは思っていませんでしたよ」


 アルマンドは、笑みを崩さずフラムにナイフを突きつけ話を続ける。


「だけど、私も此処で捕まるわけにも行かないんですよね。ここは見逃してもらいましょうか」


 父さんも母さんも人質が居るせいで手を出せずにただうなるしかなかった。フラムは、今にも泣きだしそうな表情をして恐怖で歯をカチカチと鳴らしていた。

 ……見捨てるわけにも、いかねえよなあ。くそ生意気なガキだが目の前の困っている奴を見捨てるほど俺も冷酷ではない。世界を救うとかそんな大それたことは考えないが救えるものは救いたいと思うくらいには正義感はあるつもりだ。


(……アルディ、聞こえるか?)


(なあに?)


 俺は、テレパシーでアルディにとある頼みごとをする。


(できるか?)


(できなくもないけど少し魔力が足りないかな。ここは嫌な魔力が充満してるから少しやりづらいんだ)


(なら、俺の魔力も使っていい。とりあえず、あいつの気を一瞬でも逸らせればそれでいい)


 俺の言葉にアルディは頷くと、人形ボディから飛び出て地面へと潜っていく。


「フラムを放せ!アルマンド!」


 俺は、時間を稼ぐべくアルマンドに向かって叫ぶ。


「それは出来ない相談ですなあ……彼女は私の大事な人質。私の命を守る盾なのです」


 やはり、こんな言葉だけじゃ無理か。と、そこへアルディから準備が出来たと連絡が入る。俺はタイミングを見計らいGOサインを出すと急に体が重くなる。おそらく、アルディが俺から魔力を徴収したのだろう。


「さて、長話は此処までにしてそろそろ逃げさせ……うぉ!?」


 アルマンドが方向を変えようとしたところで、いきなりアルマンドは体制を崩す。先程の戦いでアルマンドが立っていた所は土が露出しておりそこから土の手がアルマンドの足を掴んでいたのだ。


「フラム!今だ逃げろ!」


 アルマンドがバランスを崩したと同時に俺は走り出す。アルマンドがバランスを崩したことでフラムは逃げやすくなり、俺の声にハッとすると駆け出すが、恐怖のせいか足元がおぼつかず転んでしまう。父さんと母さんも同時に駆け出すがどこに隠れていたのか新手が現れると父さんと母さんを足止めしてしまう。あの両親ならばやられはしないだろうがどうしてもタイムラグが発生してしまう。


「このクソガキがぁ!!」


 アルマンドの仮面が外れ凶悪な顔になると転んだフラムにナイフを突き立てようとする。


(まずい!)


俺は、焦りながらも魔力が無くなったせいで体が思うように動かないが無理矢理動かしつつアルディに向かって叫ぶ。


「アルディ!」


 その声を聞いたアルディは意図を理解したのか再びアルマンドの足を引っ張る。その影響でアルマンドの動きが一瞬止まり、なんとか間に合った俺は立ち上がりかけていたフラムを突き飛ばす。

 瞬間、背中に激痛が走り頭にも何度か衝撃が走る。視界がぼやけ、周りの音も遠ざかり駆け寄ってくる父さんと母さんの必死な顔を最後に俺の意識はそこで途絶えたのだった。

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