第7幕「死と奴隷」
「ボクに……選ばせるだって!?」
予想外の提案に、落花は鳩が豆鉄砲を食ったように目をまん丸にする。そんなことをするなど、信じられない。何をいったい考えているのかと問いただそうとするが、その前に大きなため息が横から漏れてくる。
「はぁ~……。貴方はまたそんなバカなことを」
金髪の髪をサイドから後ろへ指先で流しながら、中学生どころか下手をすれば小学生にも見える碧眼の美少女はそう言った。
彼女が何者かわからないが、その意見にはまったく同意である。なんともバカげた提案であることはまちがいない。彼にとっては、無謀で無茶で無意味なはずだ。
「相手にエンディングカードを選ばすですって? その為に、こんな面倒なストーリーにしたわけ? だから、貴方はバカ弟子なのよ」
「でも、師匠……」
腕を組む美少女に、詠多朗が不敵に笑みを浮かべる。
「これって、抜群に面白い展開だと思いませんか?」
「……もう、まったく! 自分の運命や命がかかっているというのに、どうして貴方はいつも楽しそうなのかしら。そしていつも、わたしを楽しませてくれるのかしら?」
「その為に僕を拾ったことを忘れたんですか、師匠?」
「……バカ弟子の癖に生意気ですわね」
横で見ている落花に、2人の関係はわからない。特に謎なのは、師匠と呼ばれた少女だ。どうして彼女は、この場で会話に加われるのか。どうして師匠と呼ばれているのか。
だがしかし、今はそれより大切なことがある。それをまずは問いたださなければならない。
「……で、エンディングカードを選ばせるってどういうこと?」
「そのままの意味ですよ。まず1枚目……」
「――ちょっ!」
落花は思わず慌てて止めようとしてしまう。なにしろ、詠多朗は自分のエンディングカードの1枚を裏返し、こちらに内容を見せてきたのだ。エンディングカードを敵に見られれば、そこに結末が向かわないように対策をとられてしまう。だから、それだけは絶対に避けなければならないはずだ。
「結末は『こうして狂った彼女は自殺したのでした』というエンディング。むろん、この彼女とは、いろは、すなわち貴方になります。いろはは淑女になろうとがんばるのですが、その過程の辛さで精神的にまいってしまい……という感じでしょう。少し無理があり美しくないので、あまり使いたくないですね」
それなのに詠多朗は、カードの内容だけではなく、どういう流れにするつもりかまでつまびらかにしてきたのだ。
「あ、あんた……バカなの!?」
思わずもれる落花の非難にも、彼は苦笑だけで応じてやめることはしない。
彼は2枚目のエンディングカードもめくってみせる。
「2枚目は『彼(彼女)は呪いにより死んでしまったのでした』。これは使い方によりバッドですが、敵が死んだことにすればハッピーエンドとも言えます。対象は彼でも彼女でも使えますが、もちろんこれも対象は、いろはになります。この場合は、自分の醜い顔を見られた王様が、逃げたいろはを呪いで殺すことにします」
「……まさか、このカードを使えるようにするため、いろはを王様から離したの?」
「ええ。そうです。一応、これが一番狙っていたエンディングカードでした。これなら、このまま大したセンテンスも必要なしに使えますね」
平然と言ってのける詠多朗に、落花は少し戦慄が走る。わかってはいる。わかってはいるのだ。自分の運命をかけて、相手の運命を弄ぼうとする
「狂って自殺するか、呪われて死ぬか……どっちにしても、ゾッとする死に方でお断りだな」
「なら、3枚目のカードです」
最後のカードも裏返される。
「『彼(彼女)は、自分を愛してつくしてくれる奴隷を手にいれたのでした』というエンディングカード」
「……なっ、なんだそれっ!」
今までとは別の意味で衝撃的な内容に、落花は器用にも顔上半分を蒼白にしながら、下半分を赤面させて怒鳴ってしまった。
「まあ、いい趣味とは言えませんよね。実はこのエンディングカード、
「もしかして、女性と戦ったことがなかった?」
「いえ、ありましたよ。きれいな年上の女性もいましたね」
「じゃあ、なんで……」
「だから、趣味がいいとは言えないからです。もちろん、使わなければ勝てないなら使いましたが、幸いにして今までは勝てたので」
あまり使いたくないというカードを今回、わざわざ出してきた。落花が思いつく、その理由は2つ。
1つは、詠多朗が落花を気に入ったので、自分の奴隷にして自由にしたくなった。しかし、それならカードを見せる必要もないし、そもそもエンディングカードを選ばす必要もない。
ならば、もう1つの理由ということになる。そう考えてみれば、気がつくこともあった。このカードを使うための伏線は、しっかりと張られていたのだ。
「あんたが、このカードを使うなら……いろはは身分が低いことを気にしているので、幼馴染みの正妻である彼女と並ぶなど、申し訳なくてできない。だから、自分は愛されれば奴隷でもペットでもなんでもいいと、英雄に提案する。英雄は、いろはの希望を最終的に呑みこむ」
「はい。そんな流れですね」
「そしてあんたは、このカードが使えるようにするため、いろいろ流れを調整した。たとえば、いろはを妻にさせないために正妻を登場させた。妾とか奴隷とか、そういう相手を手にいれられてもおかしくないようにするため、英雄の身分をあげるようにボクを誘導した……」
「そんな感じです」
「……最悪なエンディング」
だが、落花はそう言いながらもわかっていた。見方を変えれば、すなわち3つの中では、これが最良のエンディングであるということを。
このエンディングを迎えれば、確かにいろは――落花は詠多朗のことを好きになり、つくすために奴隷のように仕えるのだろう。たぶん、その時は今の凉子のように、偽りの心から幸せな気分になれるのかもしれない。
しかし、それは少なくとも「すぐに死なない」という事だ。しばらくは、生きのびることができる。
(どうせ今のままなら1年も生きられない。奴隷になって命乞いするなんてバカらしい! それなら今、戦って死んだ方が……でも……)
落花は、この戦いを挑んだ動機を思いだす。本来は、凉子を助けるためだったはずだ。もし、ここで死んだらそれは叶わない。逆に、生き延びれはチャンスはある。
また、このエンディングカードは、英雄――詠多朗側に対して使われるカードである。自分(詠多朗)を対象にしてエンディングカードを使用して勝利した場合、敗者(落花)は
(いや、でもでも……奴隷になって、こいつにつくすってなったら……ボク、凉子さんのために戦えるのかな……)
負けた凉子は、変わってしまった。友人だと言ってくれた自分との関係を切り、今のご主人様とやらにつくすと言っていた。もしかしたら、自分もそうなってしまうのではないだろうか。この目の前の
「ああ、それからもうひとつ約束しておきましょう」
癖なのだろうか。詠多朗が、また黒縁眼鏡をクイッとあげなおす。
「その凉子さんとやらを倒した
「――えっ!?」
落花はまた、詠多朗に驚かされるのであった。
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※召喚主人公情報
(本作品は、下記作者様より主人公召喚許可、並びに登場作品の掲載許可をいただいております)
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