月
「“花”は、どうして森を歩いていたの~?」
白い星のような青年が、ピカピカと光る瞳を向けた。
「別に理由なんてないよ。家がなくなっちゃったんだ」
なんでもないふうに、おれは答えた。星はふうんと、地面を三段跳びで愉快そうに歩いている。
「たぶんおれは、しぬタイミングを見逃されたんだよ」
「見逃された~?だれに~?」
「しらないけど、神とか?そんな感じのヤツ」
へえ。そういうと星は、いち、にの、さんで大きくジャンプする。くるりと空中で一回転すると、おれの前にトンと着地した。
「家がなくなる前はなにしてたの?」
「………」
視線が自然と右足に近い地面に向かった。星は、んふふ、と楽しそうな様子で笑っている。
「…王子、だよ」
「え~! 王子様~?」
星は凄いやあと、また空に跳ねる。前を遮っていた障害が無くなったので、おれはまた森を歩き始めた。
「あ~、そ~おいえば」
星は突然地面に降り立つと、持っていた鞄をゴソゴソとあさりだした。
「じゃ~ん! きっとキミ、こういうの似合うよね~!」
星が取り出したのは、花びらを模した髪留め。キラキラと光るそれに、おれは、顔をしかめる。
「どうしたの、それ」
「ちっちゃな星を探してるときに、森の中でみつけた~。きみ、王子だし、こういうの絶対ににあうよ~」
はいと渡されるが、受け取る気にはならない。
「いいよ。おれには似合わない。」
「え~、そうかなあ」
往生際の悪い星を無視して、おれは足を進める。後ろでぶつくさと文句を言う声が聞こえるが、かまう気はない。
パチン
「…ほ~ら。すごおく似合ってる~」
右後頭部に少しの衝撃と、星の声。ハッと右の頭を触ると、ツルリとした冷たさを感じる。
「外しちゃだめだよ。たぶんそれ、キミが持つやつだから」
「…………」
そのまま少し歩くと、開けた場所に、静かに佇む泉があった。暗くなってきたので、星もおれも、ここで一晩休むことにした。
白い花のような青年は、湖につま先を少しつけると、そのままズブズブと水の中に入っていった。泉の真ん中、一番深いところまで進むと、ふうと大きく息を吐く。肩まで水に浸かっているところで、閉じていた目をゆっくりと開くと、水面は月明かりを受け、大きな鏡に様変わりしていた。
「ほら、やっぱり似合わない」
白い花のような青年は、右の頭に付いている桜の花びらを撫で、ザパンと水の中に潜った。鏡は大きな波紋によってかき消されたが、すぐに元に戻り、月の姿を煌々と映し出すのだった。
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