第67話 とあるデッカい不動産会社さんたちよ、いくらなんでも怠慢過ぎないか?

 稀に『家賃保証会社の社員』匿名座談会とかいう記事が、それなりにちゃんとした媒体に掲載されている事がある。延滞客について触れられている事もある。しかし個別具体的な経験談を書いているものは読んだ記憶がない。そもそも記事の絶対数が少ない。


 こんなマイナー業界、関心のある方も希少だからだろう。


 そういう記事で、彼らが不動産会社や家主を批判しているものは少ないと思う。私の記憶には無い。せいぜい『不動産業界はテック化が遅れている』とか、そんなものだ。私が今回の話題にあげたいのはそんな上等なものじゃない。『アイツら(不動産会社)、職業倫理とかないのかよ』といったものの事だ。

 そんなものを語っている事はないように思う。当然だ。いくら匿名だろうと、不動産会社も家主も取引先なんだもの。媒体が不動産関連のものなら広告の問題もあるのだろう。


 だから今回は、そういうものを書いてみようと思う。悪口……のつもりはない。愚痴みたいなものだ。

 

 私は家賃保証会社で管理(回収)担当者をしている。その前は10年くらい消費者金融で管理(回収)担当者だった。

 ずっと『お金を払ってください』という仕事をしている。蔑まれる仕事なのだろう。

 家賃保証会社の仕事には、お金の回収に加えて延滞客に部屋を『退去してもらう』事も加わる。が、メインは遅れた家賃を支払ってもらう事。


 いくつかパターンがあるのだが、一番古典的というか最も基本的な、延滞時に家賃保証会社が不動産会社・家主へ提供する『仕組み』を説明する。


 賃貸物件の契約者は本来、契約で決まった日までに家主や物件を管理する不動産会社へ家賃を支払わねばならない。例えば5月分の家賃なら4月27日とか4月末とか。


 延滞発生。


 家主・不動産会社は『契約者が延滞したので代わりに弁済してください』と家賃保証会社へ連絡してくる。

 家賃保証会社は、例えば5月の末日などの契約で決まっている送金日に彼らへ、契約者の代わりに支払う。契約者から延滞した家賃を回収しているのなら、それをそのまま送金するだけだ。


 契約者へ『延滞している家賃』の督促を開始するのは家主・不動産会社から連絡が来てから。それ以前には延滞の事実を知りようがないのだから。

 5月5日とか、5月10日とか、それはマチマチ。


 当然だが延滞した家賃を契約者から送金日までに回収できていなくても、家主・不動産会社へ決まった日に送金する。その仕組みが家賃保証会社の商品の基本のキ。

 家賃保証会社が委託した企業が、契約者の口座から家賃の引落しを担っている契約もある。家賃の支払いをそもそも家主・不動産会社ではなく最初から家賃保証会社へ行う契約だ。けれども、最も基本的なものは前述した基本のキのものだと考えて良い。


 大規模な不動産会社になればなるほど、家賃保証会社に延滞の連絡をする手順をキッチリ決めている筈だ。例えば毎月5日時点で延滞しているものを家賃保証会社へ連絡するとか。

 個人家主だって何らかの基準日を決めて、自分なりのルーチンを作っているのだろう。


 では5月7日に延滞客から不動産会社・家主へ、遅れた家賃が振り込まれてきた。不動産会社・家主はどうすればいいのか? 家賃保証会社は督促を開始している──簡単だ。『延滞していた家賃の支払いがありました』と家賃保証会社へ連絡すれば良い。それだけ、それだけだ。


 管理(回収)業務において、ここに非効率が発生する余地がある。契約者にとってはとんだ不可解な状況が発生する理由がある。『支払っているのに請求される』


 小規模な不動産会社や個人家主の少なくない割合が、この連絡をしてこない。しかし個人家主や小さな不動産会社なら、そう毎日毎日は入金のチェックもできないだろうから、仕方ない部分もあるとは思う。

 半面『契約者がそちらに7日に支払ったと言っています』と問い合わせれば、それなりにすぐに答えてくれる。

 大規模な不動産会社はさすがにそういうものもルーチン化しているのだろう。毎日入金チェックをしていて、延滞したものが入っていればすぐに連絡してくる業者もある。が、全く連絡してこない。こちらからの問い合わせすらも随時には受け付けない不動産会社もある。

 それもそれなりにデカい、管理戸数も多い不動産会社でだ。


 契約者から延滞した家賃を5月7日に受け取っているのに5月15日になっても連絡してこない。延滞客とコンタクトを取った際に『5月7日に不動産会社に支払った』と言われたから問い合わせても、回答が全然来ない。

 結局支払いが行われていればまだ良いのだが、2週間経過してから来た回答が『支払いはありません』だったりすれば、当然だが2週間の時間のロスである。

 自転車操業にもなっていないような経済的に破綻した生活をしている延滞客の場合、ほんの少しはあったカネすらも使い果たしている。


 いや、それは家賃保証会社の『回収』の事情だ。大変だ。本当に愚痴を書いてしまった。そんなんでどうする。


 こちらから不動産会社に問い合わせるのは、延滞客から『5月7日に支払った』という回答を得たからだ。コンタクトの取れない客には督促を継続し続けている。

 延滞客は程度の差こそあれコンタクトが取りづらい。この『5月7日に支払った』という回答を得るのに1週間電話を架け続ける場合も多々ある。

 仮に本当に支払われている場合、不動産会社にとっては1週間程度遅れたかもしれないが、確かに支払いを受けている状態だ。延滞は解消しているのだ。にもかかわらず、家賃保証会社へ連絡してこない。


 その状態で家賃保証会社から督促の電話やメールが来続けるのは、契約者にとって不思議なものだろうし、我々にとっても意味がない。人、時間、カネ、全ての資源の無駄遣いだ。(延滞客がさっさと我々に、不動産会社へ支払済みだと教えてくれれば良くもあるのだが、彼らはそれなりの割合でコンタクトが取りづらい)


 不動産会社は家賃保証会社へ『契約者が支払ってないから弁済してくれ』と請求しているのだ。不動産会社は請求を取消して当然の状態なのだ。

 家賃保証会社の口座にお金が入っているわけではない。家賃保証会社は不動産会社へ問い合わせて回答をもらうか、不動産会社から連絡をしてこないと『本当に支払ったのか』がわかる筈もない。


 前述した通りこの、全く連絡も回答もない不動産会社がいくつかある。名前くらいは聞いた事のあるレベルや、それ以上の企業でだ。


 一体、契約者の事をどう考えているのだろうと不思議に思う。ちゃんと、遅れながらも払ってきているのに、家賃保証会社から契約者へ督促は継続されているのである。これを放置して全く改善しない。  

 この傾向は、どちらかといえば管理よりも仲介に力を入れた不動産会社に多い。ここ最近そういう感じ……なのではない。10年以上改善しておらず、更にレスポンスが遅くなっている企業もある。テクノロジーが発達した今日の方がどう考えても処理は迅速にできる筈なのに、だ。


 そういう企業のサイトで『お客様の笑顔を見る時が一番の喜び』なんていう記載を見ると、『厚顔無恥』という言葉が脳裏を過る。『気でも狂ってんのか』と思う。


 確かに数日延滞はしている。だから家賃保証会社へ連絡が来る。けれども、遅れながらも支払ってきているし、そもそも『契約者が支払わないから弁済してくれ』という請求を取消すのはそういう問題じゃないだろう? 不当利得でも受けようという気なのか?


 不当利得と書いたので他の話を続ける。


 通常の賃貸借契約なら『解約の〇カ月前に通知をしてください』と定められている。

 仮に急な転勤が決まって7日後に部屋を解約し退去するとしても、通知から〇ヶ月分の家賃は払わねばならないというものだ。

 問題のある契約ではない。通常通り入居し、退去するのなら、法外な値段でもなければ支払って当然だし、そもそも契約時に説明されている。払わない方がおかしい。


 しかし、延滞が重なって部屋を貸主から『解除』されたものに関してはそうではない。


 極端な話をしよう。その方がわかりやすいと思う。

 

 延滞が3カ月溜まって明渡訴訟が提起された。当然、賃貸借契約は解除されている。この場合『家賃』は発生しない。名目は『賃料相当損害金』と呼ぶ、家賃と同額の損害金が発生している状態だ。(『賃料相当損害金』は一般的には家賃と同額。契約書に損害金は家賃の2倍と書いてあれば請求できるという解釈もあるが、法的にはともかくあまり一般的ではない)


 5月15日に強制執行が行われるとする。或いは交渉によって5月1日に契約者自身の意思で退去するとする。

 強制執行完了、または契約者自身が退去し部屋の荷物もなくなって明渡が終了した状態。不動産会社が、この状態から更に〇ヶ月分の家賃を請求しようとするケースがある。


 賃貸借契約の『解除』は、延滞が原因とはいえ形式的には貸主から行われているのだ。通常の『解約』時のような『退去の連絡から〇ヶ月分の家賃』など、請求できる理由がない。

 それなのに往々にして不動産会社の社員が我々に言ってくる──『解約の連絡から〇ヶ月分の家賃をもらうのが当然なので』

 通常の状態じゃないんだよ。延滞して、部屋の契約は解除されている状態なのだ。


 この状態ではそれが発生するのがおかしいのだから、保証するわけではない。


 ”第45話『The hidden decision』”で少し触れたが、原状回復費用を保証する家賃保証会社の商品は多い。問題は『その金額が本当に発生しているのか』家賃保証会社にはよくわからない点だ。全社が全社そうではないかもしれないが、正当な名目が整っていれば家賃保証会社は保証上限額までは支払う。(補足すると、仮に法外な原状回復費用を請求されているにせよ、即座に契約者が不動産会社へ支払っているのなら、家賃保証会社に『契約者の代わりに払ってください。保証してください』という請求が来る事はない。保証会社へ連絡が来るものはあくまで『請求したけど払ってもらえなかったもの』だ)


 これが、どう考えても『こんな金額、本当に発生しているの?』という請求がまま、ある。


 不動産会社の連中は、正当でもなく名目も立たないようなものをまさか請求していないだろうな? 一部の不動産会社に対して、私はこの疑いを捨てきれない。


 私は不動産会社へ所属した経験はない。家賃保証会社も、自分が働いている会社と、知人が働く2社程度の話を知っているだけだ。だからここでは『疑いが捨てきれない』という表現に留めておく。



※2021年5月12日、『短期(早期)解約違約金』に関して完全にミスがありましたので修正しました。

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