第56話 生活保護の担当職員さん、それは誰のための仕事なの?

 **県 A市。

 40代女性Bと小中学生の子供(男子)2人、計3人の母子家庭。収入は生活保護のみ。家賃滞納は5か月分。Bとはまったく連絡が取れない。何度も部屋を訪問したが、居るのは子供のみ。

 解決を図るため、明渡訴訟が必要と判断。訴訟を提起して1週間が経過。


 その状況で──私は福祉課のBの担当職員と話をした。

正直にいえば、これまで3度はその女性担当者と話をしたが、意味がなかった。個人情報保護を盾に、一切の会話を拒否したからだ。これまで私の依頼は2点あった。『Bに連絡をくれと伝えてほしい』『家賃を払ってないから、生活保護の住宅扶助(家賃)分は支給を止めるべき』。

 入居の時に、生活保護を受給している事を示す書類のコピーは取得している。『受給していないわけがない』のだ。だから『そんな被保護者はいません』という回答ではなく、単なる会話拒否なのだ。更に言えば、3カ月前に電話を取り次いでもらう際に、私はBの担当がこの女性職員である事を電話口の人間に聞いていた。


 生活保護を受給中である事は、契約時に連絡先として申告されたBの妹からも聞いている。延滞2か月目までは妹もBと連絡が取れていたのだが、現時点では電話にも出ないという。もちろん、嘘かもしれないが。

 Bの妹は、住宅扶助はパチンコや子供のゲーム代に使っているようだと言っていた。実際、Bの郵便受けにはパチンコ屋からのDMがたくさん届いてはいた。


 声からして若い女性職員は、やはり『一切何もお話しするつもりはありません』という口調で電話に出た。Bに対して明渡訴訟が提起されたと告げる。『何も答えられません』の一点張り。別にかまわない。もうBから連絡が欲しいとも思わない。『単なる延滞』が原因の明渡訴訟だ。時間が解決してくれる。

 しかし、どうにも、この女性の拒絶の声音がアタマに来た。だから上司を出してくれと伝える。絶対に、この状況で住宅扶助(家賃)を支給し続けるのはおかしい。


 電話口に出てきた上司とやらは男性だった。女性以上に酷薄な口調。何も回答できないの一点張り。

 驚くべき事に『仮に延滞して訴訟になっていたとしても、保護の支給を止める事はあり得ない。それが法律だ』と主張した。『それがA市の考えだ』とも。

 生活保護制度は『住宅扶助を家賃として使ってないのが明白で、明渡訴訟まで起こされていてもそれでも支給し続ける』──などという制度ではない。

 今回の場合なら自治体が返還を求めてもおかしくないケースだ。少なくとも福祉課はBと面談し、家賃を支払うよう指導はせねばならない。

 生活保護費が適正に使われるよう指導する事は福祉課の仕事の一つでもある筈だ。生活保護費を支給してハイ、オシマイでは絶対に無い。


 私が『少なくとも住宅扶助の支給は止めろ』というのは、もちろんそのカネを他の事に使っているのはおかしいという単純な指摘である。これは一個人としての感想でもあるが、同時に、住宅扶助がなくなれば『退去せねばならない』『住み続けてもメリットがない』とBに理解させる意味もある。何せ現時点では本来家賃として支払うべき住宅扶助を丸々別の事に使えているのだ。こんな美味しい状況は無い。

 その『美味しさ』を断つのは家賃保証会社の管理(回収)担当者としての仕事でもある。


 男性職員とは、部下の女性よりも更に会話が成立しなかった。『何も回答できない』『仮に被保護者だとして絶対に支給を止めない』『それが国の制度であり市の考えだ』と繰り返すのだ。録音してネットで公開したら間違いなく大炎上すると思う。電話を終えた後、時間の無駄だった事を反省した。


 『住宅扶助を止めろ』というのは、Bのためでもある事を説明したが、まったく聞き入れてももらえなかった。Bのためでもあるとは、どういう事か?


 住宅扶助が支給され続けている限り、Bは退去しないだろう。不当利得だが、Bには『家賃分』のメリットが確かにあるからだ。まさかそれを貯金しているなどという事はあるまい。そういう人間ではないからこそ、生活保護を受けているのに明渡訴訟を起こされているのだ。


 Bが支払っていない家賃は家賃保証会社が賃貸人へ弁済する。それは当然にBが保証会社へ背負った負債となる。退去しても消えてなくなるわけではない。居住し続ける限りどんどん負債は大きくなる。であればさっさと退去した方がBの負債は軽く済む。


 確かに、明渡訴訟を提起された──『不正に住宅扶助を使用』している状況で、福祉課へ転居を希望しても、常識的に考えてストレートには認められないと思う。一旦はどこかの施設に入るなりせねばならないだろう。それでも、不正に住宅扶助分のカネを使い続け、負債を膨らまし続けるよりは、誰にとっても、B自身にとってすらも、マシではないだろうか?


 結局、答弁書も出ずに明渡訴訟の判決は下り、強制執行まで進んだ。執行前日にBの部屋を見たが、呑気に布団が干してあった。

 何時が強制執行日なのかは、執行官催告(執行官が部屋に赴き、室内に『*月*日が強制執行日です』という紙を貼る)を経ているのだから、文盲でもなければ理解できる。

 ちなみに執行官催告では、Bはおらず子供2人だけだった。Bは何処に行ったのか執行補助者が尋ねると『買い物かパチンコ』と答えた。


 強制執行日には誰もいなかった。荷物を多少運び出した感はあったが、それでも家財道具の殆どは残っていた。

 住宅扶助を家賃として使わず強制執行を受ける状況でも、福祉課は転居費用を支出したかもしれない。自治体にもよるがその可能性はゼロではない。何処に行ったのかはわからない。

 今頃は転居先で新たなスタートを切るつもりかもしれない。だがBには家賃11か月分と原状回復費用の負債は存在する。保証契約終了後の請求を担当する部署は追跡をスタートさせる。場合によっては回収のみを業とする他社へ債権を売る。


 生活保護しか収入のない人間にとって、それは絶望的な負債ではないのか?

 保証契約が終了しているのだから、今までよりも冷たい対応になるかもしれない。私の個人的な感情としても、Bに対してはそうであってほしいと思う。A市の福祉課職員に対しての八つ当たり的な意味もある。私は血の通った、感情のある、不完全な人間だ。

 ああ、冷たく対応してほしいね。


 さっさと福祉課が支給を止めていれば、もっと負債は軽くて済んだかもしれないのに。

 私との会話を拒否し続けた福祉課職員。強制執行まで進んでも住宅扶助を支給し続けたA市福祉課。それは本当にBのために良い事だったのか?

 

 ほぼ間違いなくB一家のお先は真っ暗だぞ。

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