第41話 男気なんて金持ちの道楽ですよ 貧乏人には必要ないんです

今はどうだか知らないが、2000年頃の簡易裁判所では、民事訴訟の半数以上を貸金請求が占めていた。

主として消費者金融・信販会社が延滞客相手に請求する訴訟だ。


私が20代中盤まで過ごした地方都市でも例外ではない。



2000年の*月*日。



地裁なら平社員が原告代理人として出廷するなど基本的には許されないが、簡裁なら問題ない。

そして、サラ金が『お金を払ってください』という裁判の殆どは簡裁で終結する。


**簡易裁判所の第***法廷の最奥には裁判官。その前には書記官が座っていた。

裁判官に向かって左側に原告席があり、3つ置かれた真ん中の椅子へ私は腰かけた。


先ほど別室で原告側である私、そして被告(債務者)と司法委員でまとめた和解案。それに目を落とし、裁判官は被告を見た。


「あなたは本当にこれでいいの?」


私の向かい側は被告席。延滞客が座っている。

「はい。自分がやった事ですから」

40代後半のタクシー運転手。毅然とした態度で裁判官を見て、そして頭を下げた。

貧相な風体で、タクシー会社の制服で出廷している。


「あなた、本当にこの内容わかってるの?」──裁判官は強い声音で返した後に、私を見た。

「この額は下げられないの? おかしいでしょう?」


当時の私は、消費者金融の仕事に就いて1年未満。経験不足は否定できない。


私は俯いた視線を上げた。

「……私には、相手側が支払うと言っている額を、自分から下げる事はできません」

それは精一杯の、私なりの誠意だった──だから、相手が金額を下げてくれと言ってくるなら検討する用意はある。

けどさ、言わねえんだから。私から額を下げますなんて言えるわけないだろう?

私は仕事で来てんだよ! わかってくれよ!


それを察したのかそうではないのか知らないが、改めて裁判官は被告へ視線を向ける。

「本当にあなたはこれでいいの?」


別室で司法委員・原告・被告がまとめた和解案に対して普通、裁判官は何も言わない。通常ただ、認めるだけだ。

傍聴人席に座っていた私の上司が手を挙げた──「裁判官! 待ってください!」

「外から声を出さないで!」裁判官が怒気をはらんだ声を上司に投げた。

ちなみに上司は自身の案件で来ているだけで、この訴訟とは何の関係も無い。

ただ、部下の私が対応に困っているように見えたので助け舟を出そうとしただけだ。和解総額を下げても良いと言おうとしたらしい。

当たり前だが傍聴人席から意見するのは無理がある。


誰にも聞こえる大きさでため息をついた裁判官は、傍聴人席へ向けた視線を強めた──「全員少し外に出てください!」


傍聴人席の全員が法廷外へ出る。本件とは何の関係も無い人々(といっても殆どが貸金業者と客だが)もだ。

普通、こんな事はない。


傍聴人がいなくなれば、せまい簡裁の法廷でも伽藍とする。


改めて裁判官が、ゆっくりと口を開いた。

「あなたは、本当に、これでいいの?」

被告──延滞客の答えは同じ。


裁判官は諭すような声を被告へ投げた。

「あのね、この額、本当に払うつもりですか?」


金額としては100万程度。簡裁での訴訟なのだから訴額140万円以下だ。

何億とかいう話ではない。


ただし後述するが、減額の余地は大いにあった。全く払わないという結論すらありえた。

それを、好き好んで消費者金融側が求める満額で支払うというのだ。確かに、裁判官としては理解不能だろう。


被告の答えはやはり同じ──「はい。自分がやった事ですから」


再度、大きなため息をつく裁判官。彼は、今度はひどく疲れた表情を私に向けた。

「何とかならないの?」


私は目を伏せて答えた。それは演技ではあったが、本音の行動でもあった。なんと言えば良いのか、よくわからなかったのだ。

「申し訳ありません。私にはやはり……相手側が支払うと言っている額を、自分から下げる事はできません」


裁判官が今までにない大きなため息を吐いた。たぶん、その場で明らかに最年少者である私に対してそれ以上何かを言う気も起きなかったのだろう。


和解は成立した。

『36%の遅延損害金(遅延利息)で膨らみまくった請求額を月々4万円払う』という和解。


一つの案件の回収の目途がついて良かった。当時は素直にそう思った。


今にして思う──被告に対して。


馬鹿じゃなかろうか。


金が払えなくて延滞し続けた男が、法廷に引きずり出された。

減額、もしくは払わなくてもよくなる請求に男らしく『全額払う』と答えている。


男らしい。男気見せたってやつだ──素晴らしい。


阿呆じゃなかろうか。



男気なんて金持ちが道楽でやってりゃいい。貧乏人には過ぎた趣味だ。違うか?



金持ちよりも貧乏人の方が気前が良いらしい。

気前の良い貧乏人はついつい人に、女の子に、奢ってしまう。

月収20万円の男が女の子との食事に使った2万円は、彼の月収の10%だ。

貧乏人にはいつまでたっても資産が蓄積されない。


けれども私はこれが悪い事だとは思っていない。

女の子と楽しく食事ができたなら、それはそれで良い思い出だろう。


では馬鹿な男気、くだらない潔さとは何なのか?

前述したこの裁判所での光景が、私にとっては『悪い男気』の見本だ。


私は小さな消費者金融で、初めてお金を回収する仕事を経験した。

地元である地方都市と近隣県を合わせて5店舗しかないサラ金。全社員は70名。

2019年現在にはもはや存在しない。


店舗は貸付と3ヵ月目の回収までを行う。

4か月目からは『相談室』と呼ばれる部署で担当する。定年間際の社員しかいない5人の部署。


1年を越える長期延滞客から『管理部』で対応する。

私は、回収だけを行うこの管理部に配属された。

20代前半から50代まで、男性14名+女性事務員2名の部署だった。


廃屋のようなビルの5階は管理部、4階は相談室。その建物の2階と3階には倉庫があった。

倉庫には、契約書と交渉履歴がファイリングされており、100件くらいづつが束になって箱詰めされていた。何百箱と並んでいる。

5分の1は、倒産した中小零細の消費者金融から買い叩いた──譲渡された債権。


管理部で働く14名の社員は、その箱を適当にもってくる。1箱につき2週間から1か月かけて督促していく。

当然殆どは回収できない。1箱から5件が回収に結びつけば御の字だ。

1箱への回収作業を終えたら、倉庫に戻して他の箱をもってくる。

戻した箱は、また半年~1年後くらいに誰かがチャレンジする。


月々返済させる事になったものは『定期』と呼ばれ、担当社員の手持ち案件となる。

一回で全額回収できれば、それはそれで彼のその月の成績となる。


社員は月に260万を回収せねばならない。それがノルマだった。


もしも月々10万円支払う『定期』を26件作れたなら、彼は何もしなくていい。

もちろん、そんな事は不可能に近いけれども。


定期を180万円分程度作っておき、80万円分を毎月どこからか回収してノルマ達成──というのが常だった。


回収の方法は、刑事罰にさえ問われなければ良い。そういう会社だった。

業界に黄昏の兆しが見え始めた頃だったし、翻せばそれは旧い取り立てをする人間がまだまだたくさんいたという事でもあった。客に対する怒鳴り声が四六時中響く部署だった。


どんな風に督促したのか?

電話や通知を送るのは当たり前だが、それだけでは回収できない。


長期延滞客の自宅近辺の地図を取り寄せ、104で周辺宅の電話番号を調べる。

周辺宅へ電話をかけ、そして対象の勤務先等を尋ねる。


町内会長宅へ電話して『**さん(長期延滞客)に、当社へ電話するよう伝えてください』と依頼もする。

こんな、ドブさらいのような事を延々としていたのである。

現在では絶対できない方法である。



督促でもっとも手軽な手法は、電話だ。それで払わせる事ができれば最もローコスト。

貸金請求訴訟(いわゆる裁判)、支払督促(郵便で行う裁判と思って下さい)を行って和解をして払わせるのは、手間がかかる。

裁判や支払督促で債務名義(強制執行可能な公文書と思って下さい)を取得し差押えをするなら、もっと手間がかかる。


ただし、難易度は逆だ。

電話で払わせる事がもっとも難しい。

今まで支払ってない延滞客を、口先だけで払わせるのである。


訴訟を申立て、裁判所で和解するなら誰でもできる。

裁判所で会った債務者は大抵が大人しい。和解交渉は難しくない。


債務名義を取得して差押えするのはもはや事務作業だ。

何のスキルも必要としない。


ただし、何を差し押さえるのか?──は問題にはなる。

給料であれば債務者の勤務先を特定する必要がある。

銀行口座であれば支店まで特定する必要がある。

三菱UFJ銀行に口座をもっているからそれを差押えたい──といっても、支店までの特定が必要なのだ。


どうやって口座なんて特定する? 過去の履歴を見れば、貸付の際に顧客の口座へ送金した記録があったりする。そこを差し押さえるという手があるのだが、実際借金を残して生活している連中だ。銀行口座の差押えをしてカネになるという事は殆ど無い。


その点、給与の差押えは確実だ。債務者(延滞客)が働く会社は『第三債務者』という位置付けとなる。

税金等の控除後の給料(いわゆる手取り額)が44万円を越えない場合は『給与の4分の1』を債務者ではなく債権者(この場合、消費者金融)へ渡す義務が生じる。

手取りが44万円を超えるなら、33万円を残した部分を差押える事ができる。


どうやって勤務先を見つけるのか?

タクシーの運転手が相手なら比較的簡単である。彼らは会社を辞めても他社へ移るだけという事が多い。

だったら、電話帳で近隣の全タクシー会社へ電話すれば良い。

「****さんをお願いします」

いつかは──『今日は休みです』『今は勤務中で外にいます』という回答を得られるだろう。


そして給与差押は美味しい。なぜか?


逆の立場になって考えてみよう。もしあなたが給与差押えをされたとする。

会社からの視線は当然イタい。

昨日までは毎朝笑顔で挨拶してくれた経理のお姉さんの両の眼。それも、あなたを虫ケラを見るような目に変じてしまった。


なんとか、なんとか、差押えを取り下げてもらえないかと債権者(サラ金)へ話をしてみようと思わないだろうか?──まとまった額を払うから、取り下げてくれ。

或いは全額返済すれば当然取り下げられる。誰かに借金のお願いをがんばろうという気も起きるだろう。


仮にそうならなくても、給料から4分の1が天引きされて支払われる。

どちらにせよ給料の差押えができたなら、あとはカネが入ってくるのを待てば良い。


もちろん、差押えされたらすぐに退職する連中もいるが、それでも少しはカネが入る。


だから給与差押は美味しい。銀行口座は徒労に終わる事が多い。


もっとも、何でも商売のタネにする人はいる。

債務者の銀行口座を教えてくれる業者というのもある。

どうやって調べるのかは知らないが、そういう会社があるのである。



ともあれ、私はこの管理部で20代前半の2年間を過ごしてから、大手の消費者金融へ転職した。


先ほど、倒産した消費者金融から譲渡された契約書──と書いた。

貸金業者なのだから譲渡した場合には債務者への通知は必要なのだ。

私はこの会社でちゃんと通知をした書面を見た事がなかった。


断っておくが、決して違法性のある譲渡ではない。たぶん実際には譲渡の通知は送っている。しかしあまりに管理が杜撰で、その記録が紛失しているのだ。


それ程に杜撰なのだから、当然貸付は昭和のものが沢山ある。金利が50%などのものである。70%を超えるものもあった。


そんなの時効ではないのか? と思う人もいるだろう。

時効は借主(債務者)が主張して初めて成立する。

時効が日数的に成立していても、請求するのは問題ない。相手が時効の援用をしないなら、払ってもらって問題ない。

時効の援用をしているのにそれでも請求するのはダメだというだけだ。


因みに消費者金融会社相手の契約(金銭消費貸借契約)の時効成立の時間は5年。

最後の支払い或いは借入から『5年』経過すれば時効を援用できる。



では質問だ。


例えば平成1年1月1日に借入をした。平成6年2月2日に一度だけ返済を行った。

『現在』は平成10年3月3日である。時効は成立するか?


当時答えはYESでありNOだった。結構な争点であったのだ。

正直にいえば、今でも『正解』を知らない。

私は当時「裁判官次第」と認識していた。


なぜか?


平成1年から平成6年の返済までで5年を経過している。今が平成10年だから確かに最後の支払いから5年は経過していないが、『5年経過していた時期もあった』のである。

何かの間違いで平成6年2月2日に支払った、これは時効を中断するものではない、という論法で時効援用が認められたケースがあったと聞いていた。


貸金請求訴訟や、私の今の仕事である家賃保証会社の明渡訴訟にも共通するのだが、基本的に被告は来ない。

原告の主張がそのまま通るのが最も多い。

だから『争う』というケースは結構珍しいのだ。明渡訴訟の場合は争う必要もあるが、貸金請求の場合は時間の無駄だ。

争うような場合は取り下げる事もある。その後は放置だ。

時は金なり、なのだから。



ちなみに、私が個人的に貸したカネを「時効だから返しません」などといわれたら、もちろん往復ビンタくらいしたくなると思う。

しかし貸金業者(サラ金等)は、とかく法廷では弱者なのである。

そんな理屈通るの? という論法で負けたりする。



普通の業者なら時効成立を止めるために訴訟や支払督促の法的手続きを取る。

訴訟を起こせば時効は中断する。債務名義を取得すれば時効の成立期間は10年延びる。

(支払います、という書面を書かせるのも時効中断の一つの方法だが、それは無効と判断される場合がある。サラ金がかわいそうな債務者へ無理やり書かせたと判断されるから)


ただ、その辺りも杜撰なのが昭和であり平成の序盤だ。イケイケで貸し付けて、ガンガン回収して、結局たくさんの会社が潰れた。

債権保全など何も考えてないケースが多々あった。


一体いつ貸し付けたんだ?──という債権ばかりに督促をする部署が我々『管理部』だった。

長期間支払ってない債権なら、時効を援用されるリスクはあるが、延滞金の分だけ額はデカい。



中小企業である私が働いていた会社。通常7社目くらいに借りにくる会社である。経営は厳しい。この部署が稼がねばその会社は倒産するとまで言われていた。

実際、店舗とは比較にならない程の高い利益率の部署だったと思う。



ところで、利息制限法や出資法という法律をご存じだろうか。

利息制限法では10万円以上100万円未満の貸付に対する利率は18%。

出資法の上限金利は29.2%だ(2000年6月以降。ただし現在の上限金利は20%)。


私が消費者金融で働き始めた頃、少なくとも訴訟では出資法金利(みなし弁済)での判決を取得できる時代が終わりつつあった。

裁判でも支払督促でも、貸付・借入の履歴を利息制限法の利率で計算し直す。

出資法金利では申立て自体を裁判所が受け付けてくれなくなっていた。


では質問だ。訴訟の場合利息制限法の金利で、いつの貸付に対しても計算し直すのか?

答えYESだ。

では、延滞をした場合は?


この『延滞発生時』から利率に差が生じる。

利息制限法は何度か改正されているからだ。


どういう意味か?

通常発生するのは利息だ。昭和29年以降なら10万円以上100万円未満の貸付に対する利率が18%。


延滞後に発生するものが『遅延損害金(遅延利息)』。

どちらも『利息』に違いはないが、利率が異なる。


借金をして裁判になるのである。当然『延滞』している。

2000年6月1日以前の貸付において、遅延損害金は36%(年利)を主張できた。

その利率で『判決』も取得できたのだ。


恐ろしい事だと思わないだろうか?


実際、年18%の金利でも高いのである。

もし年間利回り18%を謳う投資案件があれば、99.9%詐欺だ。

その倍。遅延損害金利率『36%』(年利)が公的に認められるのである。

(現在は法改正されたので遅延損害金の上限は20%になった)


あまり細かい話をしても仕方ないが、裁判で36%の遅延損害金が請求できる時代の貸付であれば、当然契約上の金利はもっと高い。

当時私が扱っていた案件では年利39.785%の契約書がもっとも多かったと思う。

(正確に言うなら、それよりもっと古い70%などの利率の契約は、扱おうにもさすがに請求相手が老人過ぎた。回収が困難なので放置していた)



私は決して交渉が上手ではない。今だって下手である。ただ当時、成績は良かった。

理由は単純で、他の連中は事務作業をあまりしたがらなかったが、私はそれが好きだったのだ。


事務作業とは何か? 訴状や支払督促を作る事──つまり法的手続きをする事だ。

今まで行ったこともなかった裁判所(簡裁だけど)の、それも法廷に原告として立つ事も楽しかった。


私は延々と訴訟を申し立て、判決を取得した。それから給料差押えを人の何倍も行った。

仕事先がわからない相手には、銀行口座や郵便局口座を差し押さえた。すぐのリターンにはつながらないが、『いつでも差押えができるんだよ』というメッセージだ。


給料差押えをすると、今まで全く連絡の取れなかった延滞客の方から電話をかけてくる。差押えを取り下げてほしい一心で『払わせて下さい』と言ってくる。そんな相手なら交渉能力など必要ない。


だから私は、結構成績が良かった。払わせてほしいと言ってくる人間からカネを回収しているのである。誰でもできる。


ただし手間がかかる。私は土日のどちらかは常に出社していた。労働時間は他の社員より多かった。当然サービス残業だ。

だけど、ゲームをしているようで面白いから良いと思っていた。


今なら絶対しない。



これは単なる間違いであるが、何の関係も無い債務者の父親の会社へ差押えをした事もある。近隣に聞き込みをした時、働いている会社がわかったので差押えをした。

私は債務者の勤務先だと思っていたが、実際にはその父親の勤め先だったのだ。

当然相手側の会社からは「債務者は働いてません」という回答が来る。

当たり前だ。債務者の父親が働いている会社なのだから。


それからすぐに父親から「息子(債務者)が悪いのはわかるけど、なんで俺の会社に差押えされるんだ。恥ずかしいだろう!」と怒鳴りこまれた。

「単なる間違いです。ところで息子さんは何処ですか?」──結局その父親が全額支払った。

そんな事があっても全く咎められない会社だった。


余談が過ぎた。最初の話に戻ろう。


なぜ冒頭の被告は、それほどまでに裁判官から「オマエ本当にこれ払うのか?」という目を向けられたのか。


・最終支払いからは5年経過していない。ただし、それ以前で支払ってない5年以上の期間が存在する。

・そのような請求なのだから、時効の援用を主張しても良い。

・そのような請求なのだから減額を申し出れば裁判官は職権で味方しても良い。


まあ、なんだ、少なくともこちらは法廷では弱者で、おまけにそれなりに負い目がある請求なのである。

2年前に誰かが数万円を支払させた事はあったが、それ以前には7年程度払ってない。時効の援用を主張されれば、認められる可能性は十分にあった。

(しかも2年前に『誰が払ったのか』すら、銀行振込なのだから証明は困難なのだ)



それを、延滞発生より36%の遅延損害金(遅延利息)を付けた満額を、月4万で払うという和解をしようというのである。

懈怠約款は2回(和解が解除になる不履行回数)。

当然、不履行されれば差押えも可能だ。


懈怠約款を1回にして、あえて支払い不履行をさせる。そして差押えに移行する、という小技も昔はあった。

しかし私が働き始めた頃は懈怠約款1回は認められなくなってきていた。債務者に厳しすぎるからだ。サラ金は明白に悪役だった。


私が働いていた会社は、普通は放置するような古い債権でも請求したし、基本的には減額もしなかった。

弁護士から指をさされて『この***という会社は本当にひどいんですよ!』と法廷内で罵られる同僚を見た事もある。


しかし違法な請求ではないのなら、相手が認めれば問題ない。裁判所で認められる。


法廷で私の向かい側に座った男がそうだったように。


彼は結局、4回ほど4万円を月々払って延滞。

私は差押えの手続きを取った。彼は働き続けていた。

私が他の消費者金融に転職する頃になってもまだ支払いは終わらず、タクシー会社は毎月彼の給料の4分の1を送金していた。


給料の4分の1をサラ金へ送金されるのである。それも36%の金利のついたカネの返済に。


男らしい事だ。そして馬鹿らしい。少なくともカネに関しての男気ならば──そんなもの、カネ持ちの道楽である。


貧乏人にはそんな男気など必要ない。

なのに貧乏人ほど無駄にカネを使いたがる。借金が多すぎて、負債が増える事に麻痺するのだ。


貸金業者にカネを払って、一体何が得られるのだ?


まったく、馬鹿げている。

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