第37話 家賃保証会社はこれ以上どうやって同業他社と差別化するのか?
小説を書くのは難しい。心底、思い知った。
もちろん私は『フランス書院文庫官能大賞』に応募するために小説を書いたのだ。
生まれて初めて書いたのだ。
小説を書くという事がこんなに難しいとは知らなかった。小説家、恐るべしだ。
因みに私は官能小説を一冊も読んだ事がない。なのに書いた。
この蛮行。
私が仕事で受けているストレスの程度を察して頂ければ幸いである。
お願いだよ官能小説の神様!せめて一次通過はさせておくれよ!
ところで、私は官能小説を読んだ事がないのだが、皆さんは『全国賃貸住宅新聞』という業界紙を手に取った事はあるだろうか?
賃貸住宅業界の業界紙……明日廃刊したとしても、日本人の1%も気付かないのではないか。
不動産業界、家賃保証業界、マンション経営などの業界紙。
一体どれだけの人が読んでいるのか私は知らない。
読んだ事がないクセに断言するが、官能小説の方が面白いのは間違いない。
ただ、2019年5月27日号の記事には興味をひかれた。
『市場のゆくえ 家賃債務保証』というタイトル。2面に渡る記事。
見出しは『競争加熱、経営戦略に差』
記事本文は『「市場のトップラインが見えてきた」「これまでのような成長は見込めない」』という文章から始まる。
次いで家賃保証会社の利用率。
全国平均95%。保証会社必須の割合は首都圏77%、関西82.5%、と書いてある。
データ元は日本賃貸住宅管理協会が2018年に公表した短観。対象は同協会会員だ。
本当に95%も利用されているのかよ……と思うが、対象が会員だけなら、そうなのかもしれない。
1面目の図表には上場企業4社(ジェイリース・Casa・あんしん保証・イントラスト)の売上推移、キャッシュフローおよび現金・現金同等物の残高推移。
この売上高には注意が必要だ。
4社の中で最大の売上はCasa。しかし、家賃保証会社全社でみるなら、非上場の日本セーフティや全保連、そしてオリエントコーポレーションの子会社オリコフォレントインシュアの方が間違いなく上である。
もちろん、企業の優劣は売上高で決まるわけではないのだろう。が、最大の売上高がどこかというなら、上場4社はトップ3にも入らない。
たぶん最大の売上高は日本セーフティ。2018年の売上高は150億円。
ただ、記事には家賃保証事業を含む『決済・保証事業』でオリコフォレントインシュアには158億円の売上があった(2017年?)と書いてある。
だからもしかしたら最大の売上はオリコフォレントインシュア──売上は非公開なので推測しかできないが──かもしれない。
それでも、売上高トップが150億円。それで成長は鈍化するという。
どれだけ小さな業界なのか。
全保証会社を束ねても、JTのタバコの売上高(日本国内)を上回る事は今後もないのではないか。
もちろん民法改正が『追い風』と見る向きもある。
今後日本の人口は減少する。しかし、未婚率が更に上昇すれば、独居老人が増えれば、移民がたくさんやってくれば……単身世帯が増える。
短期的には、人口の減少速度と同時並行で契約対象が減るとはいいきれない。
ただ、当たり前だがファミリーより単身世帯の住む住居の方が家賃は安い。
家賃保証会社の収益は保証料しかない。
それは契約時にもらう保証料と、翌年からもらう年間保証料だ。
契約時の保証料は家賃の50~80%が相場。
(信販会社系列だともっと安い場合もある)
年間保証料は1年で1万円程度だ。
※年間保証料がない契約や、月額保証料のものもある。
家賃が安くなれば当然売上は減る。
日本はたぶん、これからますます貧しくなる。
高い家賃が払える人は増え続けるか?そうはならないだろう。
家賃保証業界全体が隆盛する余地があるとは私には思えない。
1面目の記事右下には『不動産会社が家賃保証会社を選ぶ理由、条件』。
全国賃貸住宅新聞が調べたものと書いてある。
1位 倒産リスクの低い会社だから
2位 サービスの内容が充実している
3位 審査が通りやすい
4位 サービスがわかりやすい
5位 キックバックの金額が多い
6位 グループ会社だから
7位 家主が希望するから
キックバックの金額が多いのは大切だよね、とは思う。私が不動産会社サイドなら重視するだろう。
ただ、これをあまりに望めば保証会社の財務は悪化する。給料も安くなる。働いている人のモラルも低下する。
つまり、1位『倒産リスクの低さ』と5位『キックバックの金額が多い』は相反する。だが、まあ、どうとはいうまい。
利己的に生きている。人も企業も。それは悪い事ではない。珍しい事ですらない。
私が記事で一番興味を惹かれたのはリード部分。
『各社のサービスが充実し、商品の差別化が難しくなるなか、家賃以外の保証や別事業で収益をあげる会社もでてきている。』
そうなのだ。
家賃保証という商品は、少なくとも保証額という点ではこれ以上の差別化は困難である。
例えば居住用賃貸物件で『家賃24ヶ月分まで保証』を『50ヶ月分まで保証』に変えるとしよう。
意味がない。
そもそも「24ヶ月分保証しましたからおしまいです」なんて事が普通、無い。
その前に明渡訴訟をする。訴訟費用は居住用賃貸物件なら大抵は家賃保証会社が負担する。
仮に24ヶ月放っておいてそれでおしまいの方が、家賃保証会社の負担が少ないとしても、だ。
※事業用賃貸物件の場合はちょっと違うケースもある筈だ。例えば訴訟費用は一定額までしか負担しないとか、明渡訴訟はせず一定期間のみ賃料保証して終了とか。
不良入居者を置いていかれた不動産会社や家主が困る。
訴訟や交渉で『終わらせ』なければ、以後その商品を使ってもらえなくなるだろう。
もちろん、いろいろ理由をつけて──それは家主や不動産会社に非がある場合もある──保証を打ち切る事を行う保証会社もあるとは思う。しかし、多数ではない。
原状回復費用の保証は、限度がある、青天井で保証するなら儲けが消し飛ぶ。消耗戦だ。
保証額ではたぶん差別化はできない。だから、家賃保証と『既存の何か』を組み合わせる。
イントラストは入居者が加入する火災保険募集業務を支援していると記事にある。
エルズサポートは、屋内死亡事故に対応した商品が好評とも記載されている。
事故後の空室期間の賃料や原状回復費用をある程度保障するプランだ。
ただし、孤独死等で事故物件になった場合の保険の付帯した商品。
これは既に珍しいものではない。
クレディセゾンは、カード会員はポイントを家賃に充当できるそうだ。
各社色々考えて他社との差別化を図っている。既存の「何か」と組み合わせる。
保証会社が他社と差別化するには他に何を組み合わせればいいのだろう?
この場合、不動産会社・家主向けのサービスなのか、入居者向けのものかの2方向あると思う。
当然だがどこも、不動産会社・家主(賃貸人)に向けたサービスを充実させている。
結局、家賃保証会社を選ぶのは賃貸人側だからだ。入居者(賃借人)側ではない。
保証内容の充実、キックバックの額などがそれだ。入居者には全く関係ない。
前述した孤独死・自殺をした場合に補償される保険がついた商品などその最たるものだ。
孤独死や自殺した人間に、後の事など関係無い。全く、賃貸人のダメージ軽減のための商品である。
賃貸人側へ向けたサービスは各社が考えている。
では、入居者(賃借人)側へのサービスはどうだろう。
外国語対応というサービスは、いまや珍しくない。
別に外国語を話せる社員を雇う必要はない。
通訳サービスと契約すれば事足りる。
電話で顧客、保証会社社員、通訳会社社員の3者で会話できる。
これは外国語しか話せない入居者にはとても助かるとは思うが、注意すべき点がある。
入居者が契約時以外に保証会社と話す事など、延滞でもしないとそうそう無い。
つまり、延滞しない外国人にはあまり関係がないのだ。
記事に記載されているエルズサポートの『音声ガイダンスを使った、見守りサービス』。
これがどういうものなのかよくわからないが、対象は当然老人だろう。
ターゲットは絞られる。
家賃保証会社が不動産会社の『下請け』から脱するなら、決定的な入居者向けサービスを出すしかないと思う。不動産会社・家主(賃貸人)向けサービスの拡充だけを考えるなら、いつまでたっても下請けだ。
保証料というカネを負担し、間違いなく最も重要なのに、ほぼ無視されている感すらある入居者(賃借人)。
彼ら彼女らに向けたサービスを打ち出せたなら、もしかしたら家賃保証会社は賃貸人と対等以上になれるのかもしれない。
それは何だろう?
延滞がないままに退去すれば次回の契約料を割引する?
──『割引』は消耗戦だからなあ……。
電力会社と提携して、電気料金を安くする?
──不動産会社も同様のサービス有り。
転居を希望する時に次の賃貸物件を探すサービス?
──これは、不動産会社にも喜ばれると思う。ただしわざわざ保証会社へ物件探しを頼む人はいるのか?そのメリットは?
孤独死して親族とも縁が切れている場合、葬儀をしてあげる?
──法律的に可能なのか、そもそも孤独死するような人間がそんなもの喜ぶか?
契約者だけの交流サイトを作る?
──孤独なオッサンなら利用するかもしれないが、たぶん、そこにいるのは同じ孤独なオッサンだ。そして、孤独なオッサンは孤独なオッサンと知りたいとは、全く希望していない。
婚活サイトを作る?少なくとも過去延滞がない人だけ会員になれるサイト。
──なんか、想像するだけで、悲しいかも……。
契約者だけが格安で食べられる食堂を作る。
──単身世帯には有用かもしれない。しかし、各都道府県の最大の駅の近くくらいにしか作れないだろうから、サービスを受けられる人と受けられない人に差が出る。
ベトナムやミャンマーに駐在し、現地の人が日本に住む際の部屋を探してあげる。
──VRを使えば内見せずともそれなりに部屋や周辺の実際を説明できるとは思う。しかし、いわゆる技能実習生ならたぶん受け入れ先の企業が部屋を用意しているのだろうしなあ。
保証料以外のカネを取れるサービスがキーだとは思うのだが、それは何だろう?
自らの想像力の貧困に悲しくなる。何か無いもんですかね?
しかし、私は家賃保証会社の管理(回収)担当者。
商品開発なんて頭良い人がやる仕事とは無縁である。
だからまた、6月も5月と同じように働こう。
それにしても、『フランス書院文庫官能大賞』──記憶にある限り初めて書いた小説。
応募したのだから少しくらいは誰かに読んではもらえるのだろう。嬉しいなあ!
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