第35話 後日談 絶命カウントダウン(第33話)

あなたは誰かに看取られて自宅や病院のベッドで死ねるかもしれない。

しかし、もしかしたらあなたの親、兄弟、姉妹はそうではないかもしれない。


その連絡は唐突にやってくる。


連絡してきた人間が、あなたに何かの請求をしてきたら?

その際、払わねばならないのか、どうなのかを今回書いておく。


結論を先に書く。気分がのらないなら、払う義務の無いカネは払っちゃいけない。



2017年*月*日より12日後。東京都E市。

79歳。Y。男性。単身者の場合。



男女の警察官が、Yの亡骸を確認した20分後。

今度は刑事課から2名、警察官がやってきた。


一人が室内で見つけた通帳を、女性の警察官に渡していた。そして記帳してくるように依頼する。

事件性を一応確認するのだろう。死後2週間は経過しているので、例えば3日前に引き出しがあれば何かしらの事件だ。


もちろん、事件性があるケースだとはその場にいる誰一人として思ってない。

(実際何の事件性もなかった)


私は男性警察官にスマホを渡していた。電話の向こうは福祉課の職員。


警官はYの身内の情報を知りたがっていた。私や不動産管理会社は、Yの親族に関する情報を持っていない。

賃貸借契約書に記載された緊急連絡先は友人とやらだった。電話番号は既に使用されていない。


市役所が把握していたのは、姉。ただし住所はわかるが電話番号は不明。

生活保護費支給の可否を判断する際に福祉課から通知を送ったが反応は無かったそうだ。

Yも縁が切れていると申告していたという。



だが、警察なら何とかして連絡を取るだろう。DNA鑑定が必要な場合もあるから、誰かしら親族を見つけてくると思う。

親族に連絡が取れたら私にも電話するよう伝えてほしいと警官に依頼する。


さすがは日本の警察。本当に優秀だ。

それから5日後には姉から連絡があった。

既に遺体は葬儀社に渡しているという。


以前彼女はYを探した事があるという。

そして7年程前に埼玉県で発見し面倒を見た。しかしすぐに行方不明になった。


Yもいい大人、というか既に当時も老人である。

それ以来、もう諦めて探してもいないし関わろうともしていないとの事だった。


Yは以前結婚していたし娘もいた。ただし遥か昔に離婚してからはYと娘に接点は無い。

家財道具などは全て処分してほしいというのが姉と、今回の件で彼女が連絡を取った娘からの希望だ。当然、相続放棄する。



しきりに姉は今回の件で彼女らに何らかの支払いが発生するのかを気にしていた。

それはそうだろう。部屋で亡くなっていたのだ。原状回復にいくら発生するのか、それを何の関係もない自分たちに請求されたらたまらない。


当社は請求しないしそもそも払う必要もないと説明する。


もちろん、普通の親子、兄弟姉妹の関係ならこんな事にはならない。

自分の親が、子供が亡くなったら、部屋の片付けは自分たちで行う。

出来る範囲で支払いもするだろう。

普通の関係なら、そうだ。私だったらそうする。



ただ、あくまで今回は孤独死でしかも親類縁者とは疎遠どころか縁が切れているケース。

この場合、延滞している家賃を払うなんて事はあまりないし、部屋を片付けてもくれない。



連帯保証人なら話は別だが、契約上無関係でも払わねばならない場合もある。それは単純に、死亡した人間の財産を相続するかどうかだ。相続放棄するなら、払う必要など無い。



まあ、賃貸物件に住んでいて家賃保証会社と契約しているお客である。

その上で延滞もあり孤独死するような人間には財産など無いのが普通だ。

相続するという答えは、一度しか聞いた事が無い。

(店舗などの事業用物件の契約をしている法人や個人ならまた話は変わるが)



家庭裁判所でもらえる相続放棄を受理された書面のコピーを送れば終わり。



しかし口頭だけでも特にそれ以上追わないとも思う。

実際問題として、書面を送ってこなくても相続放棄はしているだろうからだ。

時間の無駄なのだ。



じゃあ実際は相続しているのに、消費者金融や家賃保証会社に相続放棄してますと嘘ついたらどうなるのか?


何千万も貸付している場合や不動産等の担保を取っている場合は知らない。


ただ、消費者金融(不動産担保ローンの場合は除くが)や家賃保証会社の場合なら、相続放棄の書面が送られてくるまでは放置しているのではないかと思う。


請求はしない。ただ放置しているだけ。

もちろん、貸倒処理をした上でだが。



もしかしたら、相続放棄したと嘘ついて、実は何かしら財産を相続している場合もあるのかなあと考えた。


いやいや、冷静になれ。家賃の滞納をした上で孤独死。親類縁者とも縁が切れている。

そんな場合は、財産なんてやはりあるわけないなと、思う。



もしあなたに失踪した道楽親父や放蕩息子、沙汰の限りを尽くして音信不通になった兄弟姉妹がいたとしよう。

ある日突然、彼或いは彼女が死亡したという連絡が届く。


全て完全に何もしないで通せば、火葬などは役所がしてくれる。

が、仮にも血縁なのだから、葬儀くらいはするかもしれない。


だが部屋の片付け、残された債務の処理まではさすがに嫌だ……。相当高額な場合もある。



故人が家賃保証会社と契約しているのなら、相続放棄している事と、家財道具など一切は処分しても関知しないと伝えると、事務的にやってくれると思う。



相続放棄しているのなら、まったく何も対応しなくても良くは、ある。しかし、処分しなければならない不動産管理会社や家賃保証会社としては、話をスムーズに進めたい。

だから遺族からの一言が欲しいので、連絡はちゃんとしてくれると嬉しい。

(法的に厳密、原則論を言うのなら、孤独死して遺族から見放された人間の部屋を賃貸人・不動産会社・保証会社が片付ける場合は、相続人と連絡が取れないのなら、彼らに対して明渡訴訟→強制執行をしなければならない。もちろん通常カネと時間の無駄である)


家賃保証会社も含めた不動産業界は、コンプライアンス的に問題のある会社もまだまだ存在する。


支払う必要もないカネは、請求されても払う必要はないし払ってはいけない。


もちろん、気分的、道義的に故人が滞納していた家賃を払うというのはあるだろう。

しかしそうでないなら、払う必要もないカネは払っちゃいけない。

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