第64話 凍土に眠る、愛と哀しみ

※約2週間ぶりの更新となり、大変申し訳ありません…………

 今回のお話は伏線がてんこ盛り回です。過去回想のように書こうと思いましたが、オリキャラのみしか出てこない話はどうなんだと悩みこんな形になりました。すさまじく読みづらいですが、お付き合い頂ければ幸いです。

 どうしても読みづらければ一番最後に今回のお話の一番大事なところが書いてありますよ!!





 アミメキリンはミクロフレンズに関する解説音声なるものを聞いていた。

 ズ・ティは少し気分が悪いらしく別の部屋で寝ている。


 何でこんな映像を見ているかというと、つなぎが今、コールドスリープしている二人に関する、過去の記録が書かれた資料を読んでいるからである。その間の暇潰し兼情報収集なのであった。



『私が発見したミクロフレンズは、非常に分解、増殖力が高い。元の細菌等と比べて分解力は数千倍、増殖力も数十倍にのぼる。

しかし、増殖するためには加工した非常に細かいサンドスターが必要である。通常のサンドスターでもほんの僅か増殖するものの、大増殖には人の手が必要である』



 つらつらと流れる内容は、アミメキリンにはいまいち理解できない。


「そもそも私、微生物ってものもさっきつなぎに教えてもらって初めて知ったんだけれど……」


 フレンズにとって未知の領域とも言えるミクロの世界。しかし見えずとも凄く多くの生き物がどこにでもいるのだとつなぎは語っていた。あと納豆食べたいとも言っていたがよくわからなかった。


 別のモニターではミクロフレンズが働いている様子が映像で流れている。あっという間にブドウがワインに、米が日本酒に変わったりしているがこれもアミメキリンにはよくわからなかった。


「結局ミクロフレンズが何の役に立つのかさっぱりね。お酒って美味しいのかしら……?」


 部屋の端に置いてあった白ワインを手にしながらアミメキリンは呟く。99と書かれた数字は製造年月日であろうか?


「ねえつなぎそっちはどう? 何か分かった?」


 資料を読んでいるつなぎの背中に呼び掛けるが、反応がない。


「つなぎ……?」


 アミメキリンがその顔を覗き込むと、つなぎはとても険しい顔をしていた。


「いや顔しかめ過ぎでしょ……大丈夫?」


 つなぎはちらりとアミメキリンの方に目線をやりながら答える。


「アミメキリンさん、僕には……二人を解凍するべきか、正直判断がつきません」


「何言ってるの? ズ・ティも待っているわ、早く再会させてあげないと」


「おかしいと思いませんでしたか? ズ・ティさんだけ残して二人だけフリーズドライ……ズ・ティさんはその理由を知らず毛皮を集めるなんて方法で二人を溶かそうとしていたんです」


「そういえば……」


 言われてみると妙なことだらけである。


 つなぎは一冊の日記帳を取り出す。


「ここに書かれていました。過去に彼女たちに起こったことが。ちょっと長いですが、聞いていただけませんか。アミメキリンさんの意見も聞きたいんです」


 アミメキリンが頷くと、つなぎは日記帳の途中のページを開き読み始めた。そこに書かれていたのは、あるパーク所属の研究員の、数奇な運命を辿る物語であった。



────────────────────────────


 いつかはこうなるだろうと思っていた。


 元々、私達の部所が開発していた技術はグレーゾーンも良いところだった。ジャパリパーク内部の透明化が進むにつれて、煙たがられることは。

 だが、私はこんなこともあろうかと根回しをして新たな研究場所を用意しておいたのだ。

 何人かいた私の助手からも一人、着いてきてくれるといった。男だがまぁ良いだろう、自分だけよりはましだ。さあ、いざ新天地へ!!




 なんということだ。確かにここならヒトも来ないだろう。

 しかし、そもそも生存が厳しい環境を新天地と呼んで良いのだろうか。ゆきやまちほーで、私達はどう研究しろと。

 しかし文句は用意してもらった研究所についてからだ。


 歩くこと数時間、私達は目的地についた。研究所と書かれた立て札のある、ちっちゃなかまくらがあった。これは……嵌められた……



 嘆いていても仕方がない。とりあえず何処か拠点となる場所を探し、腰を落ち着けてから今後どうしようか考えよう。

 助手よ、食べ物はひとまずジャパリまんで大丈夫だ。あれはヒトに必要な栄養素もまんべんなく入っている。ラッキービーストから数個拝借して、拠点探しを始めよう!私達の未来のように、ゆきやまの空は快晴だ!





 めっちゃ吹雪いてきた、これは詰んだかもしれない。




「いやアホでしょ……とツッコミたいけどあんま馬鹿に出来ないわね」

「な、何のことだか……ええと、記録はここから二人のヒトがイエティに拾われるところへ飛びます」





 ここは死後の世界だろうか?私の事を天使みたいな目が見つめている。何処と無く良い匂いがする毛皮が毛布がわりに……はっ!?

 背中にあたるゴツゴツした感触と覚醒した頭から自分が確かに生きていることを実感する。

 いきなり起き上がったので驚いて逃げてしまった彼女が、恐らくたまたま私達を見つけて助けてくれたのだろう。


 一緒に助け出されていた助手と共に彼女の話を聞いた。

 彼女はここに姉と二人で住んでいるフレンズだと言う。おおきなキツネ耳と深い焦げ茶色のブレザー……だろうか。特徴的な姿だが、自分が何の動物か分かっていないようだ。

 今、姉が私達に食べさせる用のジャパリまんを取りに行ってくれているらしい。是非ともお礼を言わなくては。


 その姉とやらが帰ってきた。でかかった。



 改めて二人を見て、気が付く。狐と熊。同じフレンズ。どことなく不思議な雰囲気。これらの特徴から私にはこの二人が何のフレンズがお見通しだ。君達は……イエティだ!!なーんてね。

 ヒマラヤに伝わる中型のイエティ、ミーティと大型のイエティ、ズーティから二人にミ・ティ、ズ・ティと名前をつけた。

 短縮しただけ?分かっていないな、名前とは案外こういうものが良かったりするんだ。





 続きを読もうとするつなぎを遮り、アミメキリンは、ここまで読んだ疑問をぶつけた。


「ねぇ、この男とミ・ティ、ズ・ティは

分かるけれど、助手のヒトは……どうして今ここに眠っていないの?」


「それは、記録を読み進めれば分かります。……流れで二人はこの場所で研究を始めることになりました。男は後に虫、魚、ミクロフレンズにつながるサンドスターの加工の研究を、助手の方はサンドスターがフレンズの心に与える影響を研究し始めます」




 あの遭難から数ヵ月、私の研究は比較的上手くいっている。助手の方は……テーマがテーマだから成果がでないのも仕方がない。苛立っているのをズ・ティが慰める姿がよく見られる。



 そんな事よりミ・ティが可愛い。何してんの?と私が研究をしている横から覗き込んでくるその顔が、私の研究が上手くいったとき全力で喜んでくれるその姿が、苛立った助手にきつく当たられた時に私のもとへ慰めてもらいに来るその姿が…………可愛い、可愛過ぎる。



 夜中、ミ・ティがズ・ティにこっそり料理を教えていた。助手のことを少しでも元気付けたいと、ズ・ティは笑いながら言っていた。そうか、ズ・ティ。君は助手の事が……



 翌日、助手に言われた。自分はミ・ティの事が好きだ。しかしつい辛く当たってしまうと。はぁ?おまえ何言ってんの?





「男と助手はミ・ティが好き、ズ・ティは助手の事が好きだったのね。閉ざされた空間に男女二組、何も起こらないはずもなく……」


「ええ。しかし、ただの痴情のもつれなら良かったのですが」


「違うの?」


「話は、不味い方向に進んでいきます……」





 世紀の大発見だ! ミ・ティが納豆を自作しようとしたとき、より美味しくなるようにと納豆菌と一緒に加工したサンドスターの粉末を入れたところ、一晩で腐りきっていた。驚いて分析してみると、微生物のフレンズを見つけたのだ!

 これを発表すれば、私をこんな辺境に追いやった奴等を見返す事ができる、ありがとうミ・ティ! 君のおかげだ!

 ……勢い余って抱きついてしまった。ぶっ飛ばされるかと思ったが私が離れるまでじっとしていてくれた。離れたら逃げられてしまった。



 迂闊だった。この発見を祝うために奮発しようと食材の補充に出て、雪原の真っ直中でなんの準備も無しにセルリアンと遭遇してしまった。

 乗り物はセルリアンに攻撃されて壊れてしまったため使えない。これは……逃れることは出来ないだろう。


 私は諦めは良い方なので、目を瞑りその場に座りこんで最期の時を待っていた。しかし、もう駄目かと思われたその時もの凄い勢いで私の横を抜けセルリアンに飛びかかる影があった。

 影の正体はミ・ティだった。突然の事に腰を抜かしている私を尻目に傷だらけになりながらもセルリアンを倒してくれた。



 戦いのあと、私のためにその可愛い顔が傷だらけになってしまったことを謝ったらギャン泣きされた。もう二度と危ない事はしないでくれと。

 私はある意味世捨て人の様なものだから、そこまでして助けてくれなくても、と言ったら今度は怒られた。もの凄い剣幕でこう言われた。


”私が……悲しむっつってんだろっ! だって……お、お前の事がす、す、す……好きなんだから!!”


 愚かな私が気が付かなかっただけで、ずっと前から私達は両想いだったのだ。好きになったきっかけなんてなかった。強いて言えばありふれた日常の積み重ねだった。


 この日、私とミ・ティは結ばれた。




「これがリア獣とかいうやつかしら?」

「ごめんなさいアミメキリンさんもうちょっとでキリの良いところなんで」




 助手の様子がおかしい。何がと言われると何とも言えないが。

 私の大発見について伝えたが、おめでとうございますとだけ言って部屋に戻ってしまった。発見を喜んでいたのが少し嫌味になってしまっただろうか。後で謝らなければ……



 ズ・ティが夜中に私の研究室でゴソゴソしていた。助手の方の研究に足りない何かを探しているのだろうか。私が声をかけようとすると、慌てて飛び出していってしまった。




 二人が怪しい行動を見せた翌日、助手とズ・ティが消えた。私の研究結果の記録を持って。




「まずい方向って、こういう……」


「はい、二人がいちゃいちゃしている間に助手の計画は進んでいたんです」


「いちゃいちゃしたから助手は計画進めたんじゃ……?」


「………………ここからは最後まで一気に読みます」





 ミ・ティと共に二人を探す。すると、雪原に佇むズ・ティを見つけた。いや、彼女は氷で出来た熊手のハンマーを持ちながら私達の道を塞ぐように立っていた。

彼女は狂ったように笑って言う。


”うふふふふ……あの人と私だけの世界……邪魔させません”


 普段からは想像も出来ないほど激しい攻撃をしてくる彼女に、ミ・ティは手も足も出なかった。いや、姉妹なのだ。攻撃できるはずもない。呼び掛け続ける。ミ・ティは姉妹だから分かるといった。姉は何かに心を蝕まれていると。


 ミ・ティの言葉が届き、ズ・ティは矛を納めてくれた。いや、というよりもズ・ティが戦いの中で自らの心を取り戻してくれたようだった。

 彼女は助手によって何らかの方法で操られていたようだ。好きだった相手に利用されたと気づき、動揺するズ・ティ。しかし、それでも助手を止めないといけないと、私達に協力してくれると言ってくれた。

 しかし、そんな私達の間に割ってはいる声があった。助手であった。


 助手は、私の研究成果である虫のフレンズを、たくさん引き連れて現れた。その誰もが狂ったような笑い声をあげている。

 彼は言った。今ここで私達を消して、全ての功績を自分一人のものにすると。助手が手を振り上げ、私達を指し示すと、傍らの虫のフレンズ達が一斉に私達に向かって飛びかかってきた。



 ミ・ティもズ・ティも死力を尽くして闘った。

 虫のフレンズの強さは筆舌し難いものだったが、それでも食らいつき、二人は全ての虫のフレンズを倒しきる。

 もう降参しろと助手に叫びかけ、助手は分かった……といいながら立ち上がり、投降する────かに見せ掛けて、隠し持っていた銃でミ・ティを撃った。

 咄嗟に避けようとしたため急所は外れたが、ミ・ティはその場に倒れ込む。

 助手はそのままズ・ティにも銃口を向ける。当たりどころが悪ければフレンズでも死にかねないその武器。


 しかし、銃を向けようとする助手の右手を抑え込んだ。他ならぬ助手の左手であった。


 助手はじしんの右手を必死で抑えつけながら叫ぶ。自分の心は何かに蝕まれてしまい、もうコントロールが効かないと。今もミ・ティを撃ち抜いてしまった衝撃で、ほんの僅か正気に戻っているがすぐに戻る。今、俺を殺してくれと。

 ズ・ティはよろよろとハンマーを振り上げたが、やはり出来ないと首を降る。

助手はもう一度叫ぶ。もう数秒も持たない。自分で自分を撃つ余力はない、終わらせてくれ。

 助手の持つ銃が再びズ・ティを捉えようとし、引き金に指をかけ…………


 そして、ズ・ティはハンマーを降り下ろした。



 短くも激しい戦いは終わった。ミ・ティは酷い怪我を負ったが生きている。しかし、助手は……死んだ。


 ズ・ティは自分が手をかけた助手の亡骸を抱え、ひたすら渇いた笑いを繰り返していた。慰めようとするが、ミ・ティの声も、私の声も届かず、ひたすら助手の亡骸を抱き締めるだけである。彼の血で濡れることも構わずに。

 私は悟った。愛する人に手玉にとられ、それでも正しい行動を選び、最後に彼を殺してしまった優しいズ・ティの心は…………壊れてしまったのだ。



 悪いことは重なるものだ……


 あれだけ激しい戦闘をして銃声まで響いたのに、誰にも知られていない訳がなかった。

 この様子を、雪山滞在のパーク職員に見られてしまったのだ。


 悪気が無いとは言えミ・ティとズ・ティが人間に牙を向けたことを、上に報告されてしまう。そうしたら、ミ・ティもズ・ティも、私でさえどうなるか分からない。

 私はミ・ティと離れたくない。ズ・ティの心も治してあげたい。しかしどうすることもできない。どうすることもできない!!!!


 途方にくれていた時、私達の元にフレンズがやって来た。四神のうちの一人であった。戦いと死の気配を感じ取ったという彼女は、何があったのかと私に尋ねた。私は藁にもすがる想いで全てを話した。


 四神の彼女は言う。ひとつだけ思い付く解決策があると。

 私とミ・ティの存在を、皆の中にある記憶ごと封印し、自分達を知る人間が居なくなる遥か未来まで眠るのだ。

 ズ・ティの記憶から助手と私達の事を消せば、壊れた心の要因が無くなり元に戻るだろう。未来の世界であれば私とミ・ティが罪に問われることもなく幸せに過ごすことが出来るかもしれない……と。

 すぐには答えられないと言ったら、翌日答えを聞くといって去っていった。


 私とミ・ティは、近くにあった助手の秘密の研究室にて休むことにした。そこにはサンドスターと心に関する研究資料がたくさんあった。彼を狂わせたものは何なのか……読まずにはいられなかった。



 その夜、詳しくは記載しないが、四神以外に一人フレンズが訪ねてきた。ひどく焦った様子で、サンドスター・ロウのことを質問してくる彼女に、私が持てる知識と見解を話したところ、納得していたようであった。そして、ふと気が付くと消えてしまっていた。



 夜通しミ・ティとも話し合い、四神の提案を受け入れることにした。


 ズ・ティ、すまない。心優しい君に、私達はとても酷いことをしてしまった。それなのに、こんな逃げの選択肢を取ることを。

 許してくれとは言わない、君は全てを忘れ、一人で過ごしていくことになるだろう。

 願わくば、配偶者じゃなくてもいい、素敵な仲間が現れる事を……






 記録はそこで終わっている。つなぎは読み終わった日記帳をパタリと閉じ、こう言った。


「凍った二人を解凍する手順は別の資料に書かれていました。すぐにでも出来ます。……が、ズ・ティさんの記憶も二人を解凍したら恐らく戻ってしまう。────それは、再びズ・ティさんの心を壊してしまうことになる。僕には……どうするのが正解か分かりません……」

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