第54話 歌え集えよけもハーモニー

※ライブ回です。そして作者の黒歴史回です。もうだめギャグも盛り込めないし歌詞もうまく作れないし…………また作者の自己満足に付き合わせて申し訳無いのです。でもここ好き大事。



前回のあらすじ


轟く叫びを耳にして、帰ってきたぞ、帰ってきたぞ! アーミメーキーリーン!

そして止まらないプリンセス達の暴走に、アミメキリンは口喧嘩による精神攻撃を仕掛けることを提案する。こんな戦術ばっか使うから前科が増えるのだ。



 つなぎは一人高台の上にマイクを立っていた。イワビー達VSプリンセス達のライブバトルならぬスキャンダルバトルは白熱してきてどんどんお互いの距離が近くなっているので、高台にはもう誰もいなかったのだ。なおスキャンダルバトルは当分終わらない模様。


「み、皆さんこんにちはー! きょ、今日はお日柄もよく……」


「そんな前口上はいいから、歌いなさい早く!」


 下からヤジを飛ばすアミメキリン。あ、野中藍さん誕生日おめでとうございます(更新日で2018年6月8日、アミメキリン役の野中さんの誕生日)!


「そ、そんなこと言われてもいきなり歌うのはハードル高くて……ほら、カラオケの一曲目の感じですよ!」


「カラオケが何か分からないけど歌うもの決まってるんだから早くうたいなさーい!!」


 バンバンと台を叩くヤジメキリン。


「わ、わかりました! ええっと、それでは聞いてくださーい!!」


 伴奏も何も無い中、つなぎは記憶の中の歌を歌い始める。





 アデリーです。つなぎさん達がどこかへ向かわれたのをみて、つい後を追いかけてきてしまいました。

 一人で来たはずなのに、いつの間にかヒゲッペとキングも一緒です。多分二人とも私を追いかけてきたんですね、人気者は辛いです……


 という冗談は置いておいて、今つなぎさんが歌っているのは、私達のデビュー曲になるはずだったものです。なんで歌えるんですか!?


 ただ問題はそこではないです。フルルさん達のダンスならフレンズ達を引き寄せる事が出来ましたが、つなぎさんのアカペラの歌では、フレンズ達に全く響いていません。


 恐らく、虚ろなフレンズ達はPPPファンで、ぼーっとしてても記憶の底ではPPPの歌を覚えているんです。だから……全く知らない歌ではイマイチ響いてこないんです。ましてや、つなぎさんには悪いですが、音程ビブラート強弱こぶしリズムそしてなによりぃぃぃぃぃ熱意が足りませんね。


「二人とも……私は、今がチャンスだと思います。イワビーさん達がプリンセスさんとコウテイさんを引き付けてくれている今なら、私の拙い歌でもフレンズ達を取り戻せるかもしれません」


「まぁ待て、アデリー。急いては事を仕損じるぞ?…………私がなぜアイドルをやろうと思ったか、話したことがあったか?」


「唐突ですけど、そう言えば無いですね……」


「そうだったよな。恥ずかしいから言わないんだが、この先どうなるか分からないし折角だから話しておくか」





 私は、本当に昔セルリアンハンターをしていたんだ。ヒグマ達と一緒に巨大なセルリアンを倒したこともあった。全盛期は水陸の総合力なら最強だろうと噂されたこともあった。

 だが、ある日……


「引退!? 私が?」


「わかってくれ、キング…… この前から突然、ときたま長時間気絶してしまうだろう? その状態じゃ、一緒にセルリアン退治には、行けない」


 ヒグマは申し訳なさそうに声を絞り出して言う。


「キングさん…… 仲間を失う辛さは、ご理解されていると思います。私達も貴方を失いたくは無いんです。ごめんなさい……」


 キンシコウも俯いたままであった。実力が伴わなければハンターをしてはいけない、それは暗黙の了解でもあった。


「新しいメンバーも見つけたんだ。リカオンっていってな、まだまだ未熟だが鍛えればきっと伸びるやつなんだ……代わりと言ってはなんだが、こいつをみっちり鍛えてくれないか? やっぱりお前ほど強いやつは中々…………キング?」


 後からヒグマに聞いたが、リカオンの指導役兼後方支援として動いて貰いたいと考えていたらしい。しかし私は話を最後まで聞かず、呆然とその場を後にしていたんだ。


 その時私はこう考えていた。特別驚いた時に起こる長時間の気絶。それが原因で私はセルリアンハンターを解雇された。ヒグマ達は何も間違っていない。

 重大な事故につながる前に対処する。当然だ。突然動けなくなるお荷物を抱えたまま戦っていけるほど、甘い世界じゃないからな。



「だが………今まで戦ってきてばっかだったのに、これからどうすればいいんだ……」


 これまで全力で頑張ってきたのに、いきなり必要ないと言われてしまった……何だか、自分自身を否定された気がしてとても、悲しくなったんだ。


「あ、あれ……涙が……何でだろう。ちゃんと納得しているのに……ぐすっ……くそっ……止まれ、止まれよ……」


 涙って止め方がわからないもんでな、たまたま見付けた洞穴に籠って、しばらくジャパリまんだけ食べて、一人こっそりと泣いている日が続いて…………気がつけば、数ヵ月ほど経っていたんだ。


 ある日、なんだか普段と比べて遠くからやけにやかましい音がするな、と思って何となく出掛けてみた。


 そしたら、PPPライブが丁度やっててな。そこで私そっくりの姿で踊るコウテイを見たんだ。


 ────素晴らしい歌とダンスだった。そして、その時、それが不思議と自分の姿に見えて……


「ハンターじゃない、私……? 他の事を、やっても、いい……のか……?」


 


「そして何となく楽器の店に行って、あの日アデリーにばったり会ったって訳だ。中々どうして運命的じゃないか、ちょっと恥ずかしいから今まで内緒にしてたけどな」


「……ちょっと以外です。キングさんがそんな挫折を経験してたなんて、あとロマンチストだったんですね」


「わかってても指摘しないでくれそこは…… さて、せっかくだからヒゲッペ、お前も教えてくれよ!」


「ん? ああ……」


 体操座りをしていたヒゲッペは、足を崩してあぐらをかき、頬杖をついて話始める。


「……私は、もっと単純な理由だ。イワビーに負けたくない、それだけだった」




「へっへー! また俺の勝ちだな!」


 私とイワビーはみずべちほーの大分北の方で暮らしてたんだ。

 やることが無いもんだから二人で色んなこと競争しててよ……大抵、あいつが勝ってたんだ。


 私はアイツと遊ぶのが楽しかった。でも、あいつは違ったんだ。新しい刺激を求めてた。


「おーい! イワビー、遊ぼうぜ!」


「ん、おう」


「どうしたんだよ? 何か心ここにあらずって感じだな」


「あー、今さ、ロイヤルペンギンのプリンセスってやつが来て、私と一緒にアイドルやらないかって誘われたんだ」


「…………アイドル?なんだそれ?」


「なんか、皆の前で歌って踊るんだってさ。それで、楽しんでもらうんだって」


「? よくわかんねぇな……まぁ、やんないだろ?そんなよく分からないもの」


「んー、まぁそうだな……よし、今日はかけっこで競争するか!」

「よっしゃ、今度こそ勝つからな!!」


 

 ずっと変わらず遊んでいられると思ったけど、そんな訳無かった。あいつにとって私と遊ぶことはもう飽き飽きだったんだよ。


「おい! イワビーしばらく顔をみせず何してたんだよ! 暇だったんだぞ私は! 今日こそ遊んでもらうぞ! かけっこか? 早食い競争か?」


「なぁ、ヒゲッペ……」


「何だ?」


「俺、やっぱりアイドルやってみるよ」 


「な……!? あんなのやらねーって言ってたじゃねーか!?」


「やっぱりさ……新しいこと、やってみたいんだ。心の中でさ、ずっと、ロックって言葉が響いてきて……それが何なのか確かめてーんだ! ここでずっと過ごしているだけじゃ、俺はダメなんだよ!!」


「何だよそれ……! だったら私はどうでもいいってか!? 私と遊んだことは無駄だって言うのかよ!!」 


「そんな事言ってないだろ! でも、やりたいんだ!!」


「…………そうか、勝手にしろ!」


「あ! 待てよヒゲッペ!」


 私はヘソを曲げて数日イワビーに会わずにいて、気が付いたらアイツは居なくなってた。


 しばらくしてPPPライブ開催の知らせが入るようになって、こっそり見に行って、アイドルって思ったものと違って結構すごいもので、アイツが惹かれたっていうのも分かったんだ。


 でも、楽しそうに踊る様子を見るに連れ、なんか負けず嫌いな所が出てしまって……


「だったら、ロックよりもすんごいものを見つけてやるよ!! アイドルでだって、勝負してやんよ!」


 そんでロックに対抗するために図書館で色々調べて、メタルについて知って……



「そんな感じでなぁなぁでやって来て、今ここにいるって訳なんだが……アイドルなんて、やるつもりなかったんだけどな。今日だってやっぱり歌うつもりなんて無かったしな。分不相応だよ私には」



「イワビーさん大好きなのは分かりました……歌うつもり無いのは良いですけど、だったらなんでベース背負ってきてるんですか?」


「うっ」


 怯んだヒゲッペにキングが追撃をする。


「なんだったら自分だけでも歌ってやろう、という魂胆見え見えだな」


 しかし、その様子をはたから見ていたアデリーはもうひとつの事も知っていた。


「ドラム一式風呂敷に包んで持ってきてたキングさんには言われたくありません」


「いやそれは置いといたらまた盗まれるかもしれないと思って……そういうアデリーもギター持ってるじゃないか!」


「私はこの子と一緒じゃないと落ち着かないんです」


 ぎゅっとギターを抱き締めるアデリー。


「嘘付けこの前練習しようって言って外行ったとき思いっきり忘れてきてただろ!?」


「それは結構前の話ですから!」


 強く言うアデリーになにおう!と反応する二人。口喧嘩が始まるかと思われたところだったが、ふいにアデリーがふっと表情を緩めて笑った。



「なんでしょうね……私達ペンギンは、アイドルってものに惹きつけられるようになってるんですかね?」


「悔しいけどアイドルバカのあいつらに影響された……それだけじゃねえのか?」


 ヒゲッペは背負っていたケースの中からベースを取り出して言った。


「この歌にも、下手だけどやってやるんだって想いをこめた筈なのに……ちょっとへたれすぎていたかもな。私らしくもない」


 キングは草むらの中に隠していたドラムを取り出しながらため息をつく。


 二人はそれきり何も言わなかった。ただ、楽器を持ってじっとアデリーを見つめている。


 そんな視線に頷くと、静かに言った。


「行きます、か」


「……おう!」

「そうだな!」



「…………はぁ、はぁ、いくら歌っても効果無いですよアミメキリンさん、流石にそろそろ喉に限界が……」


「…………いや、大丈夫よ。もう彼女達が来たから」




「ぽっと出でいきなり私達の歌を歌われて、黙っているわけにはいかないですね!」


 アミメキリンの言葉の瞬間、つなぎの横に、3人が姿を現す。


「アデリーペンギンの、アデリー!! 他に説明すべきことはありません!」


「ヒゲペンギンの、ヒゲッペ!! イヤホンはアクセサリー、飾りみたいなもんだ! お前らの声はバッチリ聞こえてるからな!」


「キングペンギンのキングだ! コウテイと間違えることだけは、勘弁してくれよ?」



「私達3人合わせて、メタルアイドルバンド“UPPP“! 可愛いダンスは無いけれど、本気の歌と演奏を見せてやりますよ!」


 虚ろな目のフレンズ達に向かい、アデリーが指を指してそう宣言する。


「ぼーっとしてやりたくないことをやらされてるそこのお前達! フレンズなんだろ!? 心を失ってどーするよ!!」


「だんまりきめこむのもいいが……言わなければ伝わらないぞ? 言えないって言うのなら…………」


「「「引き出させてやる、その気持ち!!」」」


 その言葉を合図に、3人の楽器が激しい音色を奏でだす。


「呆けてないでください、つなぎさん。まだ私だけじゃ叫ぶ勇気がないですから……一緒に!!」


「……はい!」



「Peak Partner Purpose!!(最高の仲間の目的)」



『私には絶対できないんだろうって──この思いを閉ざしてた


失った物は取り戻せないんだろうって 隣にいる友達が泣いてた


考えることさえ出来なかったあの頃との軋轢が 抱いた気持ちをすり減らす』



「思った通りね、彼女達の歌に惹かれてどんどんフレンズ達が……いやちょっと集まり過ぎ……のわぁっ!!」


 アミメキリンはフレンズの群れに飲み込まれて、消えた。

 でもライブは続く。




『進む先は見えない 何があるかも分からない


だけどこの気持ち抱えたまま、潰れることだけはしたく無い!




だから


Shout soul beast!! 叫べ心の限り!


ヒトでケモノなワタシタチ この想いもホンノウさ!



Let's say "Like"!!  好きの快感がある!


一度知ったらやめられない イワシはオサシミがバツグンさ!



勿論批評も受け付けております

でも正直どうするかは決めてます!



熱いけど消えてしまう想い

限られているこの時間

だから下手でも私達は歌い叫ぶ!



おあいにくさま、多忙なんです

なんでやりたいことやってます

だってやりたくないこと、やってる暇なんて……ないから!!』



 いつのまにか、歌に惹かれたフレンズ達の目に野生解放の光が灯っていた。そして、歌に合わせて手を振り上げて応援する。


「これが新アイドルユニットUPPPの力……ですよー」


 思わず遠目に見ていたジャイアントパンダがポロリともらす。


「けもハーモニー…… フレンズたちが集い起こす奇跡。本気で歌を、アイドルを愛する心の叫びがサンドスター・ロウを浄化しているって訳だナ、しっしっしっ……雛鳥達にしては上出来だ」


「え? だ、誰?……って誰もいない、気のせいですよー?」


 ライブは白熱し、野生解放による熱狂は止まらない。彼女達が全力で歌い上げたその時─────立っている者はいなかった。



 アミメキリンは後にこう語る。


「アデリー達の歌は良かったのだけど、つなぎが調子こいてマイク持ってトキモードで全力シャウトしたから、皆意識失ったのよ、多分」


 ここ好きは大事だが、全力シャウトは場を選んだ方が良い、アミメキリンはそう締め括ったのだった。


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