第41話 番外編 ある日のアミメキリン探偵事務所

※3000PV達成です! 読者の皆さんほんっっとうにありがとうございます!

今回は3000PV記念のお話です。本編とは全く関係ない、爽やか風早起きを目指して上手く書けなかったお話です。読み飛ばして頂いても構いません。


※出てくる馬の名前はフィクションです。






 ここはどこのちほーにあるかは秘密なアミメキリン探偵事務所。窓からはろっじが見える。その辺やん。


 今日も自分達では解決出来ない事件を抱え、フレンズ達がやってくる。




「アミメキリンさんって、実は結構足速いですよね?」


 届いた色々な郵便物を確認しながらアミメキリンに語りかけるのは、この探偵事務所の秘書兼助手のヒトのフレンズ、皆からは、つなぎと呼ばれている。


「速いって言っても元が大型草食獣だから少し速いだけで、本当に速いフレンズと比べたら全然敵わないわよ」


 アミメキリンは睫毛のお手入れ中であった。この間オオカミ先生に綺麗な睫毛だね……(イケボ)と囁かれ、それ以来気にしているのだ。


「そうですか…… 僕では参加しても勝てないのでアミメキリンさんならワンチャン…… と思ったんですが」


 つなぎがそういって差し出したのは、とあるイベントのチラシである。



第一回 一番はっやーいフレンズを決めるレース開催!!


誰でも参加自由! 足に自信のあるフレンズあつまれ~!



「なんと優勝商品はジャパリまん1000個ですよ! 夢のジャパリまん風呂にだって入れますし、このおんぼろ探偵事務所も建て直せますよ!」


「そこは建て直しの案が先に出て欲しかったところだし、ジャパリまん風呂は絶対後悔するから止めておきなさい!」


 風呂に入った瞬間にジャパリまんが潰れて阿鼻叫喚の地獄絵図になることが容易に想像できる。


「でも誰が速いかってのは気になるわね……見学には行こうかしら?」


「どーせ暇ですしね」


「つなぎ、あなたねぇ……」


 言い合いしている二人の傍ら、事務所の扉がぎぃ、と軋みながら開く。実に二週間ぶりの依頼客の来店であった。


「あ、こんにちは! アミメキリン探偵事務所へようこそ」


 あいさつするつなぎに対して、彼女もあいさつを返す。


「こんにちは、私はサラブレッドのあおかげだ。ここで、様々な悩み相談が出来ると聞いてきたのだが……」


「ええそうよ! このアミメキリン探偵事務所では様々な事件の捜査や浮気調査、その他色々な仕事に対応しているわ! 勿論、悩み相談も……ね?」


 浮気調査はコモドドラゴンからしか依頼が来ないし、事件なんて滅多に起きないので、実質お悩み相談が主な仕事なのである。


「それは良かった! 実は、相談したいことがあって。くりげやしろげに相談してもそれは無理だと言われたけど……でも、どうしても気になることがあるんだ!」


「本当に無理な事は出来ないけど、どんな事でも話だけは聞くわ、何でも話してちょーだい!」


 無料とは言っていないが。


「なら、遠慮なく……私の心の中には、他のフレンズ達よりも強く、親への誇り、先祖代々受け継いできた血統の誇りがあるんだ」


 通常、フレンズは親への記憶、興味等はあまり持ち合わせていない。野生の中で生きているころはそんな余裕はないし、フレンズになったその瞬間から第二の生が始まるためである。


 しかし、競馬という世界に生きてきた彼女にとって、血統は特別な意味があるようだ。


「競馬場の中で、こんな物を見つけてね。それ以来、ずっと気になって、レースにも全く集中出来ず勝てなくなってしまった……」


 あおかげが取り出したのは、いわゆる血統書であった。彼女自身のことについて記載されているのだろう。


「私の両親はどんな馬だったんだろう? 強かったのだろうか? 無理だとは分かっているが……もう死んでしまった両親に、一度で良いから会いたいんだ」




「良いんですか? アミメキリンさん、あんな難題を引き受けてしまって」


「確かに本物には会わせてあげられないけど、でもそれに近い体験ならなんとか…… ちょっとあるフレンズの所に行ってくるから、つなぎ、あなたはとしょかんであおかげの両親の事について何でも良いから手がかりを見つけてちょうだい」


「ええ……? 残ってますかね……?」




 としょかん



「やっぱり無いですよね…… 博士と助手も留守だし」


 つなぎは、としょかんの机の一部でぐったりとしていた。片っ端から本を漁ったが、どの本にも、競馬について書かれた本はあるものの馬の一頭一頭を詳しく紹介した本は見当たらなかった。


「何か他に手がかりは……」


 パソコンが使えるつなぎは保存されてる画像も検索してみたが、見つからなかった。もうあまり探すところがない。


 うなだれる彼女の事を慰めるように、としょかんの中にそよ風が吹き、窓に吊り下げられていた風鈴がなった。


「…………音?」


 その時、頭に一つの可能性が浮かんだ。本が無くても、競馬であればあの形で記録が残っているかもしれない。早速、あおかげから借りた血統書を頼りに探し始める。


「─────あった。結構あっさり……」



 事務所に戻ると、アミメキリンも戻っていた。なぜかカラスの羽まみれである。交渉は難航したものの何とか成功した、とのことだった。




「アミメキリン、両親に会える算段がついたというこは本当か!?」


 翌日、アミメキリンはあおかげをろっじへと呼び出し、とある場所へと案内していた。


「ええ、ここよ」


 アミメキリンがろっじのとある部屋のドアをあける。その部屋には、機械が一つと寝るためのベッドが一つあるだけであった。


「私の両親は……?」


「あおかげ、このベッドで寝てみてくれないかしら。そうすれば、きっとあなたの願いを叶えてあげることが出来るわ」


「…………? 何だか分からないが、寝てみればいいんだね?」


 あおかげはベッドに横になる。アミメキリンはそれを確認し、機械のスイッチを入れ出口へと向かう。


「おやすみ、いい夢を……」


 部屋を出る直前、アミメキリンはそう言い残す。

 直後、強烈な眠気に苛まれ深い眠りへ落ちていった。




 気がついた時、あおかげは柵に囲まれたボックスの様な場所にいた。柵は胸の高さ程度にあるだけでしゃがめば潜り抜けられそうだが、その必要は無かった。

 自動的に柵が開かれる。その瞬間、あおかげの耳に、割れんばかりの歓声が響く。


「ここは……私達がいつも競争している、あの……?」


 自分がいつもの場所で聞く、幻聴の様な歓声。それが、今は幻ではなくここにあった。ここは、競馬場。自分は今、レースの開始されるその場所に立っていた。


 あおかげはボックスの中から一歩外に出る。その瞬間、彼女の脇を2頭の馬が駆け抜けていく。


「あっ!?」


 つられて、彼女も走り出す。何となく分かった。今猛烈な速度で走るあの馬達が、自分の両親だと。


「待ってくれ! 父さん! 母さん!」


 追い付く為全力で走る。しかし、スタートが遅れたからか、中々追い付けない。次第にレースは白熱し始め、少しずつスピードが上がっていく。


 疾駆する背中は遥か遠く、流れていく景色は流星のようだ。走る前にはあれだけ自分の心を打った在りし日の観客達の喧騒も、今は耳に入らない。


 あの背中に追い付きたい。あの背中に並びたい。

 全力で走り、全力で追いかけている。苦しい、心臓が爆発しそうで、筋肉が悲鳴をあげている。気を抜けば、置いていかれそうだ。


 手を伸ばして、お願い、止まってくれと叫ぶことも出来る。もしかして、聞き届けて止まってくれるかもしれない。ほんのわずかな可能性だが、すがることも出来る。



 しかし、自分の体が、心が、走る足を止めさせないのだ。私は、どこまでも競走馬なのだから。


 気がついた。私は、会いたかったのではない。一緒に走りたかったのだ。自分に走る為の強靭な体を授けてくれた、きっと強かった父と母をレースで感じたかったのだと。


「だったら……!」


 何としても追い付かねばならない。途中でまた抜かれてもいい。一度だけでも追い付き、その強さを間近で感じたい。 


 心臓が爆発しそう? まだ爆発していないじゃないか。筋肉が悲鳴をあげている? 悲鳴さえ上がらなくなってもいい────追い付くんだ。


 あおかげの速度がさらに上がる。レースへ極限まで集中し、それ以外は全て切り捨てる。あれほど遠かった背中が、どんどん近づいてくる。


 馬の目は、顔の横にある。追い抜く瞬間、走る二頭にはあおかげの姿がはっきりと見えた。


 フレンズはヒトと同じだから、目は前に付いている。あおかげは、追い抜く瞬間二頭の顔をしっかり見ることは出来なかった。


 今振り替えれば、走る姿が正面から見える。会いたいと言っていた両親の姿が。でも、そんなつもりは無かった。もう、ゴールしか見ない。


 あと、もう少し。コースは直線に差し掛かる。後ろから追い上げてくる音は聞こえない。最高速のまま、しっかりと地面を踏み締め、そして……ぶっちぎりの差でゴールした。堂々の1着だ。



 その瞬間、競馬場の景色が歪み始める。空間が、ピンク色に溶けていく。


 突然訪れた異様な光景に、あおかげは走り終わって息も切れかけているにも関わらず思わず叫ぶ。


「はぁ、はぁ……父さん! 母さん!」


 しかし、緊迫感のあるあおかげとは裏腹に、聞こえてきたのはやさしい声であった。


「あおかげは、速いなぁ」

「私達も時代を作った名馬のつもりだったのに……こんなに大差で負けちゃった」


 後ろからした声に、振り返る。しかし、どこまでもピンク色の景色が広がっているだけであった。声は、耳元に直接響いている。


「走ることは好きかい?」

「一緒に走って楽しい子はいる?」


「────はい、好きです。そして、たくさんいます」


「それは良かった……なら、そろそろ戻らないとな」

「最後に、もう一度私達に、あなたの走りを見せてちょうだい?」


 ピンク色の空間の中に、あおかげの足下から黄金の直線が延びる。空間の彼方、輝く白い光の元へと続いている。


「──────はっ!」


 あおかげは、走り始めた。消えていた歓声が、再び聞こえ始める。

 懐かしい気配がどんどん離れていく。白の光がどんどん強くなる。そして─────




「結局、あれで良かったんですか?」


 つなぎは、部屋の片付けをしながらアミメキリンに問う。


 あおかげは夢から覚めると、ありがとうとだけ残して部屋を後にした。その顔が眠る前と何か変わっているか、つなぎは良く分からなかった。


「上手くいっていれば、ね。誰もあおかげの父親と母親の姿は知らないわ。もし知っているとしたら、本人の心だけ。そう思わない?」


アミメキリンは、部屋の端に歩いていき、自動的に切れたラジカセのスイッチを入れる。そこからは、録音された競馬の音声中継が流れ始めた。

 としょかん中をひっくり返してようやく見つけたあおかげの両親に関する唯一の手がかり。連勝続きだったシャドーインパクトを、ブルーストレートが打ち破ったレースの音声記録だ。レースは大波乱、観客の割れんばかりの大歓声で、実況の声がかき消されかけているほどの大盛り上がりだ。


「ねぇ、つなぎ。こんどの一番はっやーいフレンズを決めるレース、誰が勝つか予想して勝負しましょうか?」


「それであおかげさんが勝つって言うんですよね? ズルいですよ!」


「でも色んなフレンズが出るのよ! もっと速いフレンズがいるかもしれないわ! それに、賭けてこその臨場感ってものもあるかなって、この録音聞いてて思っちゃったのよね」


「そうですか…… わかりましたよ! その代わり、当日! レース当日に誰が出るのか見てから予想します! アミメキリンさんは、あおかげから変えちゃダメですからね!」



 レースが開催されるのは3日後。誰が勝っても、熱狂と臨場感に包まれた素晴らしいものになる予感がしていた。

 だってそこには走るフレンズだけじゃなく応援するフレンズもたくさんいるのだから。




番外編 ある日のアミメキリン探偵事務所 完

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