第24話 さいきょー

※負けイベント回です。ギャグをねじ込む隙間なんて無かったり。私の心の中でのセルレオン戦のBGMはセルリアンのテーマです。



「ライオン、皆、すまない……」


 ヘラジカは皆が吹き飛ばされても、一人戦い続けた。ここまで粘ることが出来たのは、ライオン型セルリアン……セルレオンの攻撃の癖が、ライオンに酷似していたからだ。


 猛スピードながらもヘラジカは彼女の動きを捉え、嵐のごとき一撃を武器(ハート付きステッキ)によって防ぐ。


────しかし、そこまでだった。無尽蔵のスタミナを持つセルレオンに、少しずつ反応が遅れ始める。受け損ねた攻撃が体を掠め、ヘラジカのサンドスターを削っていく。


 セルレオンがヘラジカの右側に回り込み、止まる。ヘラジカはそこから爪による一撃が来ると思い、ステッキを横に構え防ぐ姿勢を取る。

 

 しかし、来たのは強靭な足による蹴り上げであった。ステッキが蹴り飛ばされ、遠くへと飛んでいく。


「しまっ……!」


 その言葉を最後まで言えることは無かった。腹に強烈な蹴りを受け、ヘラジカは吹き飛ばされる。そして、そのまま意識を失ってしまった。



────────────────────────────


「…………リカオン、お疲れ様。結構苦戦したみたいだな。私? 勿論余裕だったさ」


 ヒグマは、熊手を肩に担ぎふぅ、と息を吐き出した。


「勝利した秘訣? 今回のはパワーでごり押ししただけだからな。私のウリはパワーだ。だから、戦略を組むまでもない奴は力押しで何とかしている」


「リカオンのウリ? 色々あるだろうけど……私が教えても仕方がないな、自分で見付けないと。ピンチの時に、頼れる長所を探しておかないとな」


「私は対セルリアンなら“さいきょー“の自信が有るけど、フレンズ同士で戦ったら……ライオンかヘラジカが“さいきょー“だと思うぞ。何でかって? あいつらは合戦とかいう模擬戦を繰り返して、フレンズ同士の戦いかたを体に叩き込んでいるからだよ」


「まぁ今日一緒にセルリアン退治してあいつらの強さも分かったろう? リカオンもまだまだ強くならないと…………何? ヘラジカとライオンが立ち聞きしてる? お、お前らぁ! 趣味悪いぞ! 今多少誉めてたけど油断したらいつセルリアンに………………」


────────────────────────────



「ヘラジカ様、ヘラジカ様! 起きてくだサイ!!」


 シロサイに激しく揺さぶられて、ヘラジカは目を覚ます。


「ここは……皆は……?」


「無事ですわ。ハシビロコウと二人で本拠地でヘラジカ様の帰りを待っていたら、ライオンの様なセルリアンが来て、何だかヤバそうだったので逃げてきましたの。そしたら皆さん倒れていて……」


「今セルリアンの様子も見てきたよ。本拠地の真ん中で丸まって寝てるみたい…… セルリアンって、寝るのかな?」


 ハシビロコウもシロサイの隣に着地しながら、偵察した情報を報告する。


「私達を襲ったにも関わらず、だれもかがやきを奪われていない…… どういうことだ?」


 ヘラジカは戦ってみたから分かるが、本当にかがやきを奪うつもりだったら、倒れた後に一瞬で済ませられる、そんな気がするほど強かった。


 以前皆で倒した大型セルリアンは、大型だからこそ力を合わせることが有効であった。

 しかしセルレオンに皆で挑んでも確固撃破されるだけである。群れで立ち向かえない脅威があるとは、考えたことも無かった。


「“さいきょー“……か…… 私が負けるなら、この島の誰もあのセルリアンを倒せないのか…………?」


 先ほどの夢での話を思い出す。あるいは、ライオンと組めば勝てるかも知れない。しかし、彼女もすぐには動けない。ライオンが復活するまで放っておいて、犠牲者が出ないとも限らない。


「どうする……どうすればいい……」


 ヘラジカの頭の中でぐるぐる思考が回る。思えば、こんなに何かを考えたことは無かったかもしれない。しかし、どれだけ考えてもいい答えは見付からなかった。思考の泥沼にはまりかけたその時、立っている何者かに声をかけられた。


「残念だけれど、知恵を絞るのはあなたじゃないわ」


 ヘラジカは顔を上げる。そこには、自称名探偵が、いつも通りの笑顔(どや顔)でこちらを見ていた。


「私はジャパリパーク1の名探偵、アミメキリンよ! あなたが勝つ方法、私が推理してあげるわ!!」



 まぁつまり、アミメキリンは一撃で吹き飛ばされたので勝てないことを悟り、頭脳を使う側にシフトしたわけである。




「で、アミメキリンさんどうするんですか?」


「いやそれはこれから考えるけど…… というかつなぎ! あなたも考えるの!」


「うーん、そうですね…… 何のヒントも無いのでどうしようも……」


「それもそうね。少し調査をしましょう。私は現場、あなたはここに残って調べてちょうだい」




たたかいのげんば



「……まぁ、一瞬でやられちゃったから手がかりも何も無いかも知れないけど……」


 アミメキリンはキョロキョロと見回すが特に大きな手がかりは無いように見える。


 諦めかけたその時、視界の端に何かがうつる。そこまで歩いていき、拾い上げるとそれはヘラジカが使っていたステッキ(ハート付き)であった。


「結局折れちゃっているわね…… 真ん中で大きく……でもその前にも何度かこれで攻撃を凌いだのね。あちこちに細かい傷が……」


 つまりは、何回か攻撃を防いだが最後にこのステッキを吹っ飛ばされてその後素手では抵抗出来ずやられてしまったのだ。


 ヘラジカは自分が歯が立たないと落ち込んでいたが、そもそも攻撃が見えなかったアミメキリン達とは雲泥の差であった。




ライオン・ヘラジカれんごー軍たいざいちてん



「ヘラジカ様お腹痛そうですぅ……」


 ヘラジカはセルレオンに蹴られたお腹が少しアザになってしまっていた。少しすればサンドスターで治るが、打ち身は切り傷より治りが遅いのだ。


「おくすりぬっちゃうですよー」


 アルマジロは軟膏を取り出す。けもマはおくすりも売ってる。マジで色々揃う。


「こうやってヘラジカ様のお腹撫でると結構柔らか……」


 鍛えているとはいえ絞っている訳ではないので、程よいプニプニ感が気持ちよい。


「ほっぺももちもちですわ」


 そこは関係ない。


「ヘラジカ、良くあのセルリアンの攻撃受けてこの程度ですんだよね」


 ハシビロコウの言葉を受け、ヘラジカは苦々しげに呟く。


「まともにあの力で蹴り抜かれていたら厳しかっただろうな。きっと手加減されたんだろう。私の毛皮は多少守ってくれるが限度というものもあるからな……」



 つなぎは、静かにそのやり取りを傍観していた。そして、おもむろに手元の本のページをめくり読み始める。


 マンガで分かるライオンのつよさのひみつだ。内容はタイリクオオカミがへいげんの面々に取材してライオンの事を聞いてるものだった。


オーロックス

大将はパワーもスピードもあってすげぇ


オリックス

大将はさいきょーです!


ツキノワグマ

大将あんま私と訓練してくれないんだよね……何でかな?


 ……あまり参考にならなさそうだ。ちなみに全編ひらがなである。


 つなぎは読む必要無かったかな、と本を閉じようとしたが、ふと巻末の特別コーナーに目が止まる。


「キタキツネの“ガチでやりこむゲームだよ“のコーナー……」


 ゲーム、という単語に文明を感じ嬉しくなってつい読んでしまう。

 気になる内容は、けものクエスト全ボスレベル1攻略という、マジのやり込みであった。

 ありとあらゆる技と装備を駆使し、敵の行動とパラメータを詳細に分析した結果から来る攻略は、もう何か凄いとしか言い様が無かった。


「ん……?」


 何となく引っ掛かる所があった。無理ゲーに思えるこの状況と、重なる所があるのではないか、と。




 そうして二人は各々の調査の結果を報告し合い、やがて一つの解決策が見え始めた。


「アミメキリンさん、倒し方、推理出来ましたか?」


「ええ、つなぎから貰った情報で、大体は……ね。最後の推理のキーワードは……」


 アミメキリンはステッキ先端のハートをもぎって、机に置いた。


「可愛いは作れるけれど、それ以外も作れるってところかしらね!」

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