文学とライトノベルの境界を侵してゆく物語

カクヨムを乱読していると、たまにどうしようもなく惹きつけられる物語に出会います。
作者の個性がクッキリとしていて、それでいて物語として面白く、また一緒に想像し、考えさせるような物語。
これはまさにそんな物語でした。

タイトルにもあるように、ライトノベルそのものが一つのテーマ。
その存在を浮かび上がらせるために文学、ファンタジー、SFといったギミックで話が描かれていきます。
幻想文学の雰囲気もたっぷりあるのですが、ここには確固とした現実感もあるのです。
そういうギミックを使い、変転していく物語を追う中で、ライトノベルというジャンル、それがもたらすものに光が当てられます。
しかも話はそれだけでなく、ライトノベルがまた物語の鍵になっているという、凝りようです。

ちょっと例えが分かりづらいのですが、難しい話ではありません。
そこがすごいところでもあるのですが、語り口が軽やかで、物語世界にしっかりと引きずり込まれます。
可愛いキャラクターがいて、ラノベの主人公みたいな主人公がいて、幼馴染もいて、とにかく読みやすく楽しいのです。
で、読んでいくと構図そのものはラノベのテンプレート的なものであるということに気付くわけです。
この辺りのセンスがまた素晴らしいのです。

もっとも話はそれだけでなく、作者のもついろんな思想、世界のとらえ方、悪夢のような世界、想像力の源、などなど文学的モチーフもたくさん散りばめられています。
これは文章を書く人、物語を書く人であれば、多かれ少なかれモヤモヤと思っていたこと、それが形となって、言葉となって描かれています。
そう言ったものが混然一体となり、強力なモーターとなって物語を動かしてゆくのです。

まぁなんだか小難しい話をしてきたように思いますが、読みだせばあっという間に引き込まれます。
キャラクターの魅力に、物語の展開に、次が次が、とページをめくりたくなるでしょう。
そして独特で、ちょっと濃厚なこの物語世界のとりこになるコトと思います。

ぜひじっくりとこの物語を楽しんでほしいと思います。
すごく力のある作品、おすすめです。

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