第5話 転生事故

「じゃあ、ここに入って。 私は後から行くから」

エドが魔法陣を展開すると、原初の海の空間に穴が開く

奥を覗いてみると水彩絵の具を水に垂らして模様を作ったマーブリングのような空間が広がっている



「エド虫」

「はいはい」

「入っていい空間なのか、ここ」

「今更でしょ、身体がバラバラになる以上に怖いことある?」



確かに

言われてみれば腕や大事なところが吹き飛んで、全身の皮が剥けるだなんて経験より怖いことなんて無いだろう

例えこの空間がどんなに毒々しくても、きっと身体がボロボロになる事も無いだろう

意を決して飛び込もうとしたら


「早よ行け!!」


ドスン!!

と、身体を吹っ飛ばされる

エドのドロップキックだ、ドロップキックだと気付いたのは空間に身体がすっぽりハマった頃

いや、虫としては規格外の大きさだが高校生としては標準的な体格の飛鳥を吹き飛ばせるような威力は出せないはず

一体どういう……



「あっ服!!」

「服!? 服ってなん……!!」



空間が閉じた

「服って!? いや、まさか」

今、服を着ていない

服どころか下着すら身につけていない

転生って一から……エドの口ぶりだと赤ん坊からやり直す訳ではないはずだ

だとしたら、服を着ていないまま転生した場合速攻で不審者として突き出されて人生終了だ

また、人生をやり直して転生し直す事になってしまうだろう

「エド!! エド!! 聞こえていないのか!?」

返事は帰ってこない、それどころかこのマーブリングみたいな毒々しい空間の『流れ』に流されていく

「全裸は無しだぞ!! 人として!!」

そう叫んだ瞬間、足が何かに引っ張られる

「ちょっ」

身体がもの凄い勢いで落下していく感覚、昔川で溺れかけた時に似ている

どんなにもがいても身体が前に進まない、身体が流されて言うことを聞かない

「助けっ……!!」



「欠陥品だよお前は、生きる価値もないクズだ」



「……!!」

違う、僕は欠陥品なんかじゃない

僕は失敗なんかじゃない

誰か、僕を……



———————



「勇者様……どうか、私を……」

薄茶色がかった髪に青い瞳、柔和な顔立ちに優しい笑顔

高くもなく低くもない綺麗な声

普段の優しげな雰囲気とは裏腹に誰かを守るために振るう剣は勇猛で荒々しくも正確で無駄が無い

「ああ、勇者様どうか私を……」



ジリリリリリリ!!



目覚まし時計が激しくベルを打ち鳴らす

時間は朝の6時、陽は昇っている

シェスカ・オルドヴィンにとって今日は特別な日だ

窓際に置かれた目覚まし時計を手に取り、スイッチを切りベルを止める

「まだ6時……? もう6時!!」

そう、今日はシェスカが憧れている勇者様が町を旅立つ日だ

勇者を守護する者として日々修行を積んできた、そして去年とうとう守護者として選ばれたのだ

急いで街の聖堂に向かわなければ、朝の9時には旅立つのだから

街の聖堂まで30分もかからないとはいえ、勇者様は7時には着くだろうから待たせる訳にはいかない

シェスカはベッドから降りてネグリジェを脱ぎ捨て、ブラジャーを身につけようとする

が、突然見知らぬ男の声が部屋に響き渡った



「俺は、欠陥品じゃ、無い!!」

「ひゃあ!?」

「俺は欠陥品なんかじゃ……あれ? ここは、そうか。 あのマーブリング空間から抜け出したのか。 ここ、どこだろう」

「え? えっ?」



見知らぬ男はシェスカの勉強机のすぐそばにいたのか、立ち上がり部屋を見渡す

しかも、全裸だ

全裸というのだから、下着一つ身につけていない

一糸纏わぬ、まさに全裸だ

「あっ」

目が合った

「ち、ちん……不審者ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

シェスカは叫んだ、全身全霊を振り絞って

16歳の乙女が言ってはいけない単語を精一杯回避しながら


続く

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