第4話 原初の海

肝臓がすっ飛んでいったり、股間がもげた後にまた生えてきたり、目玉が取れたり

スプラッタ映画もびっくりの衝撃的な経験をしながらワープ(という名の高速移動)を続けている

どのくらい時間がかかるのかエドに聞いてみると「この原初の海で時間の意味はあんまり無いけど、人間の体感時間的には5〜6時間程度じゃない?」とそっけなく返してきた

この空間があまりにも不思議なのでエドに質問をしたところ、原初の海という名前らしく

命が生まれていつか帰る場所、キラキラ光って見えるのは生まれかけの命だったり生まれ変わるために精神がくっついたり離れたり混ぜ合わさったりしているのだという

ありとあらゆる星や並行世界パラレルワールドの命もこの原初の海に帰ってくる、それが原初の海だ



「っていう割には僕以外の姿が見えないけど」

「それはアンタにセンスが無いからよ、私みたいな水先案内人にはちゃんと姿が見えてるけど……修行をすればいつか見えるわ! まぁ、その前にアンタは転生するんだけど」



いわゆる霊感みたいなものだろうか

転生前で身体のアチコチが剥き出しのスプラッタ映画状態になっている姿はあまり見たくないが、霊感が強い幽霊がいたらショックでひっくり返りそうだ

何せ皮膚も無し、目玉も無くて、肝臓が抜けていて、腕は筋肉が作られかけで骨が見えている状態だ

表現規制が強い国では映すことが出来ないだろう



「……どうせ暇なんだし寝てたら?」

「えっ眠れるの?」

「幽霊なんかはほぼ寝っぱなしの生活よ、だってやる事ないし」

「へえ……」


身体のパーツがあちこち欠損していて正直落ち着かないが、痛みはないし寝られはしそうだ



「ベッドをマテリアライズするからちょっと待っててね」

「マテリアライズ?」

「情報のみになっている物質を具現化する魔法、神様の使者にとっては基本みたいな魔法よ」

「虫にしては凄いもの使うんだな」

「虫じゃないって」



エドは聞いたこともない言語をブツブツと呟くと何もない空間に光の紋様が現れる

その紋様が少しずつ上に浮かび上がりベッドがブロックが積み重なっていくように形成されていく



「あの地面……というか空間に浮かび上がっていた紋様が情報化したベッドでそれを物質として再構築してるの」

「へえ……」

「原初の海なんていう複雑な空間に最適化させるのを簡単にやってのける私って凄いでしょ?」

「魔法について詳しくないというか、魔法の概念が無い世界の人間からしたら凄過ぎてよく分からない」

「あっそう……」



よく考えたら地球は科学が発達していて、ほぼ全ての人間が才能の有無に関わらずスイッチ一つで魔法のようなものを行使している星だ

そんな星の生まれに魔法を見せたところで「凄いや!」以外の感想なんて出てこないだろう



「ベッドで寝るのはいいけど汚さないでね」

「無理言うなよ」



———————



「飛鳥、飛鳥」

「……母さん?」

なんだろう、よく見えない

「そんな歳じゃないわよ」

そういえば死んだんだっけ、なんだか身体の勝手が違うような

腕とか内臓とか目玉とか吹き飛んだんだ、だから勝手が違うのか

目を開ける感覚を思い出し、意識を開く

……と、目の前に毒々しい髪色のグロテスクな妖精っぽい神の使いがいた

「……おはよう、クソ虫」

「もはや悪役が言い放つ悪口」

「エドだっけ、名前」

「エルディーナ!! エドはあんたがつけたニックネーム」

ベッドから身体を起こす、どうやら腕とか内臓とかは交換完了したらしい

が、眠っていたベッドは殺人現場のように血塗れになっていた

「……酷いな」

「洗わないとね」

「洗って落ちる汚れかこれ」

「そういう魔法があるの、体液や皮脂と素材を切り離す魔法が」

「凄いな魔法」

「凄いのは魔法じゃなくて私だけどね、常人には無理よ。 きっと私がクリーニング屋を開いたらクリーニング業界で天下を取るわね」

偉そうに踏ん反り返るエド、スケールの大きい話をしているのか小さい話をしているのか判断に困る

もし彼女が人間なのだとしたらスケールが大きく感じるが魔法について天才的で何でも出来るのだというならクリーニング業界で革命を起こしている場合ではない

……というか、地球のクリーニング屋は洗剤の調合でかんでも落としてしまう技術があるのだが

何せうん十年前の墨汁のシミを綺麗さっぱりにしてしまうのだ

そうやって考えると地球のクリーニング屋も大概チートって奴に思える



「それで、着いたの?」

「ああ、うん。 マルチユニバース地点J-372 通称『惑星ラーセオス』ね」

エドが指先をパチンと鳴らすと、大気圏外から見た惑星が眼前に映し出される

「これが惑星ラーセオス?」

「そうそう、綺麗なもんでしょ」

海の色がエメラルドグリーンで、気候によるものなのか大陸は色とりどり

海も光の具合なのかグラデーションがかかっている

確かに色は綺麗だが、実際はどうなんだろう

行ってみないとわからないか……



「繰り返しになるけど、自殺しても無駄だからね」

「不慮の事故で死んだら?」

「またやり直しね」

「魔王ってのを倒すか、寿命で死ぬしか消滅する手段が無い……か」



今は考えても仕方がない

取り敢えず、行ってみるか

「じゃあ、頼むよ」

「はいはーい」


続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます