僕は消滅したいから旅をする

蒼海悠

第1話 僕の終わり

視界がユラユラと揺れている、まるで世界全体が陽炎のように揺らめいている

5階の自宅を出て7階建てのマンションの螺旋階段を登る、屋上には鍵がかかっていて出られないから目的地は7階の屋上手前のゲート

階段を一段ずつ踏み締めるように歩く、その度に息が熱く激しくなっていく

息が上がっている訳じゃない、疲れている訳でもない

血液が冷めていくような、寒気を感じるような

恐怖感と自分自身への憎悪と、世界そのものへの憎悪か

自分自身を終わらせようという意思と、命を繋ぎとめたいという本能がぶつかり合っているような……

ただ、それ自身を彼は分かっていなかった



死にたくない、助けてくれ



なんて彼の口からは発せられない

死ぬ事で救われるなら、ただそれでいい

どうせ生きていても何も変わらない、仮に自分自身が変わったとしても世界そのものが変わるわけじゃない



桜が舞い散る、美しい春の日の出来事だった

空が青く澄み渡り、暖かい陽光が街を照らす

これから始まる新生活に期待を膨らませる少年少女

変わらない日常を営む夫婦

小さな子供をあやす母

毎日がキラキラと輝いている幼子

静かな街を、小さなマンションの何気ない1日を一人の少年の慟哭が切り裂いた



人々は上を見上げた

上から悲鳴が聞こえてきた

悲鳴というべきか、叫び声というべきか

マンション中心の螺旋階段の手すりに少年が立っていた

「やめろ!! 早まるな!!」

若い男が叫んだ

「キャー!!」

若い女が悲鳴をあげ、顔を背けた



そうだ、これでいいんだ



陽炎のように少年の視界はユラユラと揺れている



これで、苦しみから解放される



澄み渡るような青さだった

空を飛んでいるような気分だった

まるで、自分の背中に翼が生えたような

手を伸ばしてみる

風が心地いい

そうだ、僕は……最初からこうしていれば



パァン!!



破裂音

モジャモジャと無造作に伸びた天然パーマ

グレーのパーカー

見開いた瞳

若い顔立ち

死んでいる



地面に叩きつけられた少年が、たった今死んだ



それを証明するように、少年の身体から血液がドクドクと溢れ出した

それを証明するように、少年の頭から飛び出した不気味なピンク色の脳漿が辺りに散らばっている

それを証明するように、少年の瞳から光が消えていく



辺りがザワザワとし始めた

警察を呼ぼう

救急車だ!!

見てはいけない!!

どうしよう、どうしよう



怒鳴り声、悲鳴、好奇の声

それらはもう、少年には届かなかった

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