わがヴィーン時代の一般的政治考察1

 私は今日、人間というものはまったく特殊な才能を持っている場合は別として一般に三十歳以前には政治にかかわるべきではないと確信している。なぜならこのころまでに大部分はまだ一般的な人としての土台が作られ、そのころ初めていろいろな政治問題を吟味し、それに対する独自の立場を決定しうるからだ。


 こうして基礎的な世界観を獲得し、そうすることによって個々の時事問題に対する自分の見方が確実になったあとで初めて、内面的に十分成熟した人間が国家の政治指導に参加すべきであり、してもよいのである。


 そうではない場合には本質的な問題において今までの彼らの立場を変えなければならないか、あるいはずっと以前に知性や信念が拒否したある観念でより良い知識や認識に反してまでも満足する危険が生じる。


 第一の理由は、これは彼ら個人にとって非常に苦しく、今や動揺しているので依然と同じように仲間たちがしっかり信じてついてくることをもはや当然のこととして期待できないからだ。だが、導かれている者たちにとっては指導者のこうした急変は途方にくれることを意味し、今まで戦ってきた者に対してある羞恥の感情を持つことも珍しくない。


 しかし第二の場合には特に今日われわれがしばしば見るようなことが生じる。指導者たちがもはや自分の語ったことを信じられなくなるにしたがって、彼らの弁論は空虚になり、浅薄になり、そして代わりに手段の選択においても卑劣になってくるのである。


 彼ら自身がもはや自分の政治的表明をまじめに保証しようと考えなくなっている間に(人間は自分自身が信じていないもののためには死なないものだ)、彼らの傾倒者への要求がこの状態につれて、ついには「政治家」になるために指導者として最後に残されたものを犠牲にするまでにいよいよ大きく、ますます図々しくなるのだ。すなわち、臆面もない厚かましさと恥知らずに発達した嘘の手腕が対になって無節操が唯一実際の節操であるような種の人間になってしまうのである。


 まじめな人間にとっては不幸なことだが、こういう人間が議会に来ると彼らにとって政治の本質というものはただ彼らの生活と彼らの家族を長く維持し続けるための英雄的闘争になるだけだということを人々ははじめから知っていなければならない。さらに妻子がこれに執着すればするほど、彼らはますます議席のために粘り強く戦うだろう。


 政治的本能をもっている他人はすべてそれだけですでに彼らの敵である。新しい運動が始まると、彼らは自分たちに起きるかもしれない終末の始まりではないかと邪推し、偉大な人物に出会うといつか脅迫されるのではないかと恐れるのだった。


 こういう種類の議会の南京虫についてはもっと徹底的に語ろう。


 三十歳でもまだ彼らの人生において学ばなければならないたくさんのものがあるに違いない。しかしそれは自分の世界観の補充であり、充填であるにすぎない。


 彼らの学習はもはや学びなおしではなく、習い足していくことになり、そして彼らの傾倒者たちは今まで彼らから誤って教えられてきたという重苦しい感情に苦しめられることがなく、むしろ逆に指導者の目に見える組織的な成長が彼らに満足感を与えるのだ。彼らの学習はただ彼ら自身の教説の深化を意味するだけだからである。だがこれが彼らの目には今までの観念が正しかったことの証拠になるのだ。


 自分の一般的世界観の土台が誤っていると認めるからこそ、それを捨てなければならない指導者は彼らの今までの欠点のある洞察を認めて結論を導き出す覚悟があってこそ立派な行動ができるのだ。


 そのような場合には少なくとも彼らは今後の政治の仕事での活動を断念しなければならないだろう。と言うのは、彼らはすでに一度基礎的認識において誤りに陥ったのだから、また再び誤りを犯すわけにはいかないからである。だが、いずれにせよ彼らは同市民の信頼を獲得したり、ましてそれを要求したりする権利を持っているわけではないのだ。


 もちろん、今日こういう立派な行動にふさわしい人がどんなに少ないかは、政治において「取引する」ことを使命とすることを感じている下種どもの愚劣さだけでも証明している。


 政治のために選ばれた者など、彼らの中には一人もいないのだ。


 私は今までたとえた人以上に政治に没頭したとしても、とにかく公的に行動することを差し控えてきた。ただきわめて少数の仲間の間で内心で動かされ、あるいは引き付けられたものについて語った。


 ごく狭い範囲でのこれらの話はそれ自体多くの貴重なものだった。すなわち、私は演説することはほとんど学ばなかったが、その代わりにしばしば計り知れないほど単純な観念や異論をもっている人々を知ったのである。


 その際、私は自己教育を続ける時間も可能性も失わずに勉強した。そのための機会は当時ヴィーンほど好都合なところはドイツにはなかったのだ。

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