性とは、差別とは。疑問にありふれた答えで満足しない女の子と、心を獲得するI/Fの男の子。
二人の"セイ"を描いた物語。
――被差別者、少数派のための世界を設けたらどうなるか。
業務量の少ない働きアリを取り除けば、生産率はあがりますね?
犯罪者を皆殺しにすれば優しい世界になりますね?
無宗教者を排除すれば、神を信じる者だけになりますね?
SFらしい理想郷の描き方、歪んだ歯車と認知、差別者を差別する側に回ることで欺瞞の目隠しをして社会を回す矛盾……。
大好物のテーマが詰まった作品です。決してセクサロイド的描写とか姉ショタだとかそんなものに釣られたわけではございません。
王道の理想郷≒ディストピアを二転三転させて独特の切り口で描いた本作。時折混ざる直訳めいた言葉、自分の存在意義を明確に認識しているが故の葛藤……大好物です。しいて言えばヒロインが年齢のわりに大人「すぎた」かな、とも思ったこと。
現代においても通じる思考、疑問。それに目をつむり耳をふさいで生きている人間は多いはず。そんな欺瞞に臆せず向き直る彼女の強さがとても魅力的な作品でした。
少し前にSNS上で投稿された「女性だけの街に住みたい」というとある女性の投稿が話題となり、活発な議論を呼んだことは記憶に新しい。
そんな出来事に着想を得て始まったというこの小説、元ネタだけにどんな出オチが待ち受けているだろうかと構えながら読み始めると何と見事な正統派SFだろうか!!
柔らかいながらも緻密に世界を構築するお馴染みの七瀬節と、女性の街から発展させた設定群、男性が拒絶された街で男性の姿を模して造られたアンドロイド「ファルス」である少年型ファルスのアダムと人間の少女アリスのボーイミーツガールはあなたを魅了して離さないだろう。この作品がどんな結末を迎えるか今から楽しみでしょうがない。ぜひとも七瀬夏扉が放つこのハイレベルなSFを体感して欲しい。
ボーイ・ミーツ・ガール、と同時にガール・ミーツ・ボーイ、或いは。
完結ありがとうございます。ひっそりと追っていた物語でした。読み終えて、もう1度読み返して、暫くの間ずっとぼうっとしていました。レビューが遅くなってしまい、申し訳ありません。これ程余韻に浸ることの出来る物語は久しぶりです。
語りかけてくるような、それでいてきっちりと描写のなされている文章、作り込まれた物語構成。何よりも、終わりの美しさ。流石だと思います。
他にも言いたくて堪らないのですが、読んでいただいた方が早いでしょう。
ひとりの少女と「少年」の行く末を、皆様も是非。
まず、素晴らしいです。
この物語はキャッチコピーこそ「え?」と思わせますが、中身は大真面目。もちろんキャッチコピーに出てくる「言葉」は何回も出てきます。ですが、それはこの物語の本質ではありません。
素晴らしいと思った点はいくつかあります。
一つ目は「男の子」と「女の子」もしくは「女の子」と「男の子」の出会いの物語が「男の子」視点で情感を込めて描かれていること。
二つ目は舞台設定。「女性だけの街」がSFという形で成り立つようきちんと設定されています。
その他にもあるのですが、これらを軸に美しいとさえ思わせる物語に仕上がっているのではないかと思います。
私のお勧めは一つ目が一番なのですが、「なぜ」「男の子」と「女の子」もしくは「女の子」と「男の子」の出会いの物語なのかは皆さんが読んで確かめてください。
男尊女卑社会をイメージした小説なら幾度か目にしましたが、女尊男卑社会をイメージした小説は中々御目に掛かりませんでした。
男性像に対する徹底的な差別と排他主義が横行する女性だけの花園。美しくも、どこか影と狂気を帯びている女性社会。
男性に似せて作り上げられた疑似人間は徹底的に管理され、束縛される姿は奴隷のソレと全く同じ。そして男女が交わらなくなった未来の姿を改めて強調しています。
女性だけの狭き世界の果てに待ち受けているものとは。そして真理を求める少女と、彼女に付いて行くと決めた少年が辿り着く答えは。
男女の境を深く掘り下げ、そして昇華させた新たなSFストーリー。ボーイ・ミーツ・ガールが好きな方も、この小説で新たな自分を発見出来るかもしれません。
ボーイ・ミーツ・ガールはよく言われる言葉ですが、ガール・ミーツ・ボーイとは中々言われないものです。
この物語の主人公は、自分が何者かを強く知りたいと願い求める女の子とそんな彼女に買い与えられた男性型の人工存在です。
人工とはいえ血と肉と遺伝子が与えられている訳で、人間とさして変わらないようにも見えます。
何を以て人とするのか。
何を以て女とするのか。
二人の関係は何処にたどり着くのか。
女だけの街はどうなる?
男だけの街はどうなる?
胸躍る始まりのシーンだけでも様々な問が胸の中に浮かんできます。楽しみですね。
そしてきっとそれらに対する答えはこの物語の主人公であろう少女達が解き明かしてくれるでしょう。
自ら答えを求める心を抑えきれぬ少女と、その少女についていくことを運命づけられた少年なのですから。