第156話「アイドルとのっぺらぼう」


 ******

 

 地下帝国の裏路地をザジが歩く。

 目的はシラの姿をした霊体投影ボディを追っての事だ。

 

 「何処に行った......シラ! 出てこい! 居るのは解ってるぞ!! 」

 

 シラらしき存在を追ってきたザジ、ボディはガールプラモデルのままであり。

 武器としてステージ用のマイクスタンド型大剣を構える。

 

 暗闇に紛れて隠れる様に消えたシラらしき存在は、ザジを確認するなり姿を表し、問いかけてきた。

 

 「ほう......私を"シラ"と読んだか? 」

 「君は久遠坂シラの知り合いか? 」

 

 シラらしき存在はザジに問いただす。

 ザジはそのシラらしき存在の問いに驚く、相手はシラとは違うようだ。

 

 「知り合い? ......どういう意味だ、アンタはシラじゃないのか?! 」

 

 現れたシラを移す霊体投影ボディ。

 だがそのシラの姿は表情を動かせる気配もなく、ただのカモフラージュとして投影されているにしか過ぎなかった。

 彼はこう言う。

 

 「確かにバレては仕方ないな、ボディの現状は......まるで立体映像状態だ......これでは、いつボロが出ても仕方ない」

 「だが私の本来の姿は少々目立つので、この場所では彼の姿を使わせて欲しい、君には気を悪くするかも知れないが......」

 

 「目立つ? 」

 

 彼の返答に何か含みを覚えるザジ、すると彼は本来の姿を見せようと、霊体投影を解きはじめた。

 

 「 !!? 」

 

 ザジは驚愕する。

 そう......彼には顔が無かった......。

 

 目もなければ鼻もない。

 

 口がある様だが、何かしゃべる為に取って付けた様にも感じ取れる。

 そして電源マークのような印が顔の中央に張り付き、顔の代わりと言わんばかりにイメージを主張していた。

 

 「のっぺらぼう!! マジでのっぺらぼうだ! 」

 

 ザジはマジマジとその顔のない霊体を見る......

 余りの正体不明ぶりに興味津々で見ていた。

 

 「生前に何があってそんな姿になるんだ? いや......もしかして人間じゃなくて妖怪の方ですか? 」

 

 めちゃくちゃガン見しているザジだが、その視線の先の"のっぺら霊体"は恥ずかしそうに頭を掻いて再びシラの姿に戻った。

 

 「いやあ......お恥ずかしい、少々特集な存在でして、姿を借りなければならないんですよ......お嬢さん」

 「私は見ての通り霊体を感じても認識する"霊体の目"が無いんです、私が物理的に見えてるのはその可鈴なボディとボヤけたあなたの霊体の気配だけです」

 

 ......ザジはその"お嬢さん"という言葉に思考が停止する。

 そして考えた......

 

 (どうしよう......この変な人、俺を完全に女の子だと認識してる(汗))

 (たまたまボディがガールプラモデルだから、霊体が見えないと性別の判別なんて出来ないのかな? )

 (うーん......ボディの入手先を聞きたいけど、性別を偽ったままにしておくのは良くない......だけど)

 

 ザジはとにかく情報が欲しい一心で、考えに考えた結果......

 

 「いえ......霊体の事ですもの、人それぞれ不憫な事もありますわ......ホホホ (高めのハスキー声演技) 」

 

 ......"見た目を裏切らない"事で、交渉を円滑にすることにした。

 彼はザジの言葉に感銘を受けている様子。

 

 「いやあ、とても理解のある女性(ひと)だ、奇抜な服装パーツのボディをお持ちのようで、何か活動をされているのですか? 」

 

 「え、ええ......アイドルを少々......(大汗) 」

 

 まさかここにおいて二依子が送ったアイドル衣装と、ダンスレッスン、ボイストレーニングが役に立つと思っても見なかったザジだが......

 アイドルを名乗る事になるとは、更に思っても見なかった。

 

「の......のっぺらぼうさんは、一体何しにこの地下帝国に要らしたんですか? (高めのハスキー声)」

 

 のっぺらぼうの彼は、再びシラの姿で会釈をすると......

 

 「流石にのっぺらぼうのままですと、お互いに呼びにくいではありませんか? 」

 「正式に名のりましょう......私の名前は......」


 

 「 アンキャナーです 」

 

 

 そう......ここでまさかのサテライトからの使者、アンキャナーの登場である。

 ≪本体≫ではなく≪分体≫を作って送り込んだ様子。

 

 そして、いきなり名乗られるザジ。

 しどろもどろになりながら、返事を返すのに戸惑っている。

 

 (名前!? そんなの考えてないよ! ザジのままだったらどうなんだ!? 男ってバレるのか!? ......こ、こうなったら最後の手段!! )

 

 「俺......じゃない、私の名前は......名前は......」

 

 「 ザジ子です! (ヤケクソ感) 」

 

 アンキャナーは、シラの顔で笑顔を作って紳士的に会釈する。

 

 「私はここを"見に来た"んですよ、流石にすぐ入れるとは思って無かったんですが、シラの姿を借りた際に顔を知った方が居まして入国出来たんです」

 「霊体投影ボディの製作工場の方々には、シラを名乗ったら色々な情報をくれました」

 

 アンキャナーは感動している様だ。

 きっと彼は霊体同士の交流経験、そのものが浅いのであろう。

 ザジ(子)は目的を聞いて言う。

 

 「見学だけなんですか? 警備隊にボディごと排除されるリスクもありますよ? 」

 

 アンキャナーは地下帝国を見上げて語った。

 

 「最初はこの国のトップに会うつもりだったんですが、シラの姿は悪く知られているらしく」

 「帝との謁見は諦めようと思ってまして、代わりに街を出来るだけ見て回っている所存です。」

 

 「そ、そうなんですか? もうすぐお祭りなんで色々見て回ると良いですよ? 」

 

 アンキャナーの目的を聞くザジ子、何とかしてボディの入手先の話を聞き出そうと思っていたが難しい。


 そしてアンキャナーはザジ子に問いかけてきた。

 

 「お祭り......アイドルとお祭りというのは、やはりライブをするんですか? 」

 

 「え、ええステージで歌って踊ります、見に来て下さいね(高めのハスキー声と営業スマイル)」

 

 ザジ子は完全に、アイドルになりきりつつあった。

 

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