第148話「祭りの前に現れる念」


 ******

 

 ディルムンの会場となる地下帝国廃墟都市、いくつかのブロックで敷居が立てられ、それぞれがエリアの外観を彩っていた。

 

 複雑にいりくんでいるものの、それぞれの区画でショートカットが存在し、スタートフィールドに戻ってくる仕様である。

 

 区画では霊力で満たされたボス部屋があり、大きめのボディでそれらしさを醸し出すボス亡霊が待ち受けており。

 彼らが持っていたリソースで武器が作れたり、霊力スキルを習得したりする霊糸回路が手に入るのである。

 

 打ち合わせが進む中、ザジとねぱたが語り合う。

 

 「ザジ、アンタはすぐにやられんようにしーや、"オーヴァードエッジ"使う奴が出てきたらヤバいんやで! 」

 

 「姉さんこそ、"フィニッシュキック"使う奴が出てきたら大体の亡霊は直撃で即効倒される可能性が高いよ」

 

 二人はイベントボス役が決定している、スキルの強さから隠しダンジョンボスや特殊な隠しアイテムを守るボスに抜擢されている。

 隠しダンジョンボス役に任命されたザジは言う。

 

 「多分亡霊スキルはプレイヤー達が使ったらプレイヤーに合わせた性能になるって聞いたけど、姉さんのは威力が十分あるだろ、食らいたくないなー」

 

 「ふふふ(意味深な笑い)、で......ザジ? なんでオーヴァードエッジのスキル説明欄に(真)とか付けてるん? (笑)」

 

 会話の返しで言うねぱたの指摘に、ザジは弁明するかのように慌てて理由を返してきた。

 

 「しょ......しょうがないだろ! あのキングオブエッジとかも参加して、堂々大きな城の玉座でオーヴァードエッジを振り回すらしいんだから......」

 

 「「 自己顕示欲に負けてるやん!! 」」

 

 ザジ君も元は中二病真っ盛りの少年なのであった。

 続いてザジにねぱたは所属を確認する。

 

 「で......ザジは東軍なんやったっけ? ウチは西軍やけど」

 

 「うん、ちょっと嫌だけど、ラスボス役があのベクレム(キングオブエッジ)の東軍だ」

 

 東軍。西軍。

 

 プレイヤー拡散の為に亡霊側のラスボスは二人、設定上で対立する勢力として存在させて。

 どちらかの勢力に付いてボーナススキルを貰うも良し、中立を保って縛りプレイに徹するも良し。

 プレイヤーの遊ぶ形の選択肢には困らない仕様だ。

 

 「後はパトロンみたいな契約で、スキルを人にあげるのも出来るみたいやな......」

 

 ねぱたは亡霊側の利用規約を見ながらパトロンの仕様を模索する。

 身内優遇は出来ない為、渡せるスキルやアイテムもランクの低いモノが殆どだ。

 ザジは自身のスキルを見て言う。

 

 「俺は出来てファントムスラッシュ位しか渡せない、姉さんのファントムスキルの全部は強力過ぎて、通常以上のスキル相当になってるんだから、多分プレイヤーに渡せないね」

 

 「なんやてー、じゃあウチが渡せるスキルって......"猫だまし"位しかないやん! こんなん誰も貰わんやろ......」

 

 ザジが笑い、ねぱたの嘆きが響く。

 ディルムンと言う一大イベントに二人の会話が弾む、亡霊達のお祭りを全力で楽しむ準備が整っていた。

 

 (......)

 

 (みんな楽しそう......)

 

 地下帝国の全てが準備で活発に動いていて、それを眺めるユナはしんみり見ていた。

 

 「それなのに! 私はここから出れないなんて! なんでええええ! グギギギ! 」

 

 ユナは紀伊の居る宮殿に閉じ込められたと思える位、厳重に調査の為の診察を受けていたのである。

 

 「うるさいのです、さっさと札の状況を見るのですから儀式台に上がるのですよ! 」

 

 「は、はいいい!! 」

 

 ユナが儀式台に上がると、周囲に複数の紀伊が集まって融合していく。

 そして最終的に一つの紀伊になり、はっきりと強い霊力を出していた。

 

 「お待たせしたのです、情報の整理が出来たのです、では始めるのですユナさん」

 

 「はい、よろしくお願いします! 」

 

 今の紀伊は本体とも言える状態で、事前に分札を取り込み状況の整理を行っている模様。

 全く同じ少女の姿をしているが、若干着物の違いが見受けられるだけで本体と分札の見分けが付かない。

 

 「さて......まず札に干渉してみるですよ、札の中に込められた術者本来の意思に呼び掛けて、お前はなんなのかと問いただすのです。」

 「ついでに術者の尊顔も拝見させていただくのです、子孫か先祖でこのような札が作れるとすれば、自(おの)ずとどの一族か割れる筈なのです」

 

 その紀伊の言う顔が気になるユナ、内心この状況の犯人に一発ぶちかましたい思いがあった。

 紀伊が印を結ぶと霊力が燃える様に溢れて、ユナの札に流れ込む。

 

 「今......札の念を捕らえたのです、引き出してみるのですよ」

 

 こうして儀式による、札に込められた念との邂逅が始まった。

 

 「......」

 

 風と炎が吹き荒れる儀式台で、祈祷が済むと......

 いよいよユナの札が反応し、術をかけた人の念らしきモノの影が垣間見る。

 

 「 !! 」

 

 ユナの周囲を囲ったローソクの炎がユナの影を照らすと、うっすらそれははっきりと人影になった。

 

 「ユナさん、振り返えるでないのですよ......きっとこの影は貴方にみられたくないように背後に現れる念体です」

 

 「は......はいいい!! 」

 

 霊体のまま、カチカチに固まって強張るユナ。

 紀伊は札の念体に一体どういうつもりでこのような事をしているのかを訪ねる為に、念での対話を試みる。

 

 「このユナに付く札よ、報告に聞く未来の情景を見せたのは貴方なのですか?......貴方は一体何者なのですか? 」

 

 「......」

 

 札から出る影はユラリと揺れ、紀伊に囁くように耳打ちする。

 しばらくの時間、紀伊はその耳打ちの声を聞きこんだ。

 

 「......」

 

 「えっ......!?」

 

 紀伊は強張った顔で聞き、ユナの顔を見て、また影の声を聞き込む。

 

 「......なんと言う事なのです......」

 

 紀伊と影の念による会話は、進んでいる様だが、紀伊はその張り詰めた顔が緩む事はなかった。

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