第112話「消えかけ合う戦い」


「 二依子は俺が!! 」

 

「 助けるんだあああ!! 」

 

 ザジが霊力を振り、過剰な刃(オーヴァードエッジ)が加速する!

 その霊力の勢いはシラのボディを突き抜けて、大きく空間が波打った!

 

 「「 ぐあああアアアアアアアア!! 」」

 

 渾身の一撃のダメージが、シラの霊体にまで届いたのか、激しく叫びを上げる様子が見れとれる。

 

 突き刺さったプラモデルの剣は、大きくシラの人体模型ボディを切り裂いており......

 

 (この手応え......!)

 

 ザジにはボディを貫通する剣の手応えを得ていた。

 

「討ち取ったぞ! ......シラ......! 」

 

 シラ達教団亡霊のボディにあると言う......

 霊体を繋ぎ止めるオリジナルボディにする、データカードが破損したのが確認されたのだ!

 

「ザジ! もういい! 早くボディに戻れ! 」

 

 フォッカーが叫ぶ!

 

 それもその筈。

 

 ザジの霊体は最早維持が出来るかどうか、ギリギリの状況である。

 対してシラもデータカードの破損により、ボディから霊力が吹き出し、大量に霊力漏れを起こしている。

 

 更に後方から叫ぶ声があった。

 

「そんな......シラ! 早く舟の中に入るんだ、霊体が崩れるぞ! 」

 

 ダメージで悶えるシラに、声を上げて教団亡霊のポリマーが語りかけていた。

 

 その言葉の通り......

 

 シラはボディが破壊されたにも関わらず、漏れでる自身の霊力を舟の霊体の補助霊力で補い......

 

 無理矢理その場に止まり続けているのだ!

 

「「 オオオオオオオオ!! 」」

 

 断末魔にも聞こえる霊体の叫びが木霊する!

 

「コイツ......まだボディに残ってやがる! 」

 

 その様子に驚愕しているフォッカー、だが事は一刻を争う事態がすぐそばにあった。

 

 「「 フォッカーさあああん!! 」」

 

「ウオッ! なんだこのデカイ声? ユナちゃんか? 」

 

 フォッカーがビックリする程の大音量アラームのような、霊声が聞こえる!

 

 飛行船ドローンからの、ユナの悲痛な叫びだ!

 

「フォッカーさん! 早く! ザジ君が! 」

 

「「 ボディに戻さないと消えちゃう!! 」」

 

 そう、そんなシラの変貌も感じ取る事なく、ザジは霊体のまま横たわっていたのだ!

 

 (駄目だ、もう動けない......ボディから離れて)

 

 (パーツの一部に無理に取り憑いたのは、霊体の負担が大きすぎて......)

 

 (もう......ボディまで戻る力が......)

 

 (無い......)

 

 

 

 崩れるザジの霊体の前に、急遽フォッカーが勢い付けて飛び込む!

 

 朦朧とするザジに、フォッカーが腕を斬られた方のプラモデルボディを。

 

 ドローンが軟着陸しながら押し込んで来たのだ!

 

 フォッカーは、ザジに必死に懇願する!

 

「おい! 早くボディに取り憑け! ザジ! 」

「二依子ちゃん助けるんだろうが! 」

 

 「「 ここで消えたりするんじゃねえ!! 」」

 

 

 叫ぶフォッカーの亡霊としての未練が、大きく揺さぶられる。

 忘れていた家族(残してきたもの)を思い出させる。

 ザジの姿に、ある日の残してきた弟の姿を重ねてしまう。

 

 そして霊体にダメージを受ける事を承知で、取り憑いたドローンから霊体を乗りだし......

 

 

「ほらっ! ......早く戻るんだよ! 」

 

 

 霊体のままザジを担ぎ込む。

 

 フォッカーは崩れる霊体に耐えながら、ザジを霊体ごとプラモデル本体のボディに押し込んだ!

 

「ハイ・ファントム! オーヴァー・ドライブ! 」

 

 すかさずドローンに戻ったフォッカー、自らの霊力スキルでザジのオリジナルボディと連結。

 霊力を共有することでザジの霊体の崩壊を防ぐ。

 

「まだ意志は壊れてないな! ザジ、応答しろ! 」

 

 するとボロボロのプラモデルの中から、ザジの霊体が弱々しく返答した。

 

「すま......ない、フォッカー......恩に切るよ」

 

「意識はあるなら、立ち止まるな、二依子ちゃんは目の前だろ......」

 

 ザジの応答に安堵のため息を付くフォッカー、そして前方を視差する。

 

「......」

 

 そこに居るのは、しばらく悶えていたが何故か停止したシラが居る。

 

 ダメージが酷いのか動ける様子はない。

 

 (トドメは必要だろうか? )

 

 一瞬ザジが考える、ここで打ち倒すべきだろうか?

 

 (いや......もう十分じゃないのか? )

 

「チャンスだザジ! 今の内に急ぐぞ! 二依子ちゃん助けてこんな所、すぐさまズラかるからな! 」

 

 トドメに迷うザジにフォッカーが即効性ある行動、つまり二依子救出を提案する。

 

「行こう! フォッカー......」

 

 シラを無視し、二人三脚状態の二人の目の前に在るもの、それはドーム状のサーバー。

 二依子の霊体を捕らえ、"扉"の鍵にするという装置だ。

 

「二依子......」

 

 フォッカーとザジは残る霊力でこれを破壊すべく、立ち上がった。

 

「彦名札の準備は良いか? ザジ! 」

 

 二依子の救出は、ただ装置の破壊では達成出来ない。

 

 二依子の肉体と霊体の軛が崩壊仕掛かっているので、解放しても二依子は物言わぬ浮遊霊になってしまう。

 そして肉体は霊体が戻らないまま、死亡する可能性があるのだ。

 

 つまり、一時的に霊体を亡霊(ザジ)達の様な"器"に保存して、何らかの方法で肉体に定着させる様にする必要がある。

 

 「彦名札」は......

 

 それら全てが可能な骨董品(アーティファクト)なのだ。

 

「装置に攻撃してくれフォッカー! 彦名札に二依子を引き込む! 」

 

「よし! 行くぞ! 」

 

 ザジの準備が整った、バックパックに隠してあった彦名札に、ザジが霊力を通して二依子を迎える準備を行う。

 

 元々小さな紙片である彦名札だからこそ、プラモデルのバックパックに仕舞い込めるのである。

 (幸い少し大きめのサイズのプラモデルであったため、バックパックに余裕があった)

 

「ボディはボロボロにやられたけど、札自体のダメージは無い、使えるぞ! 」

 

 ザジのボディがしゃがみこむと、バックパックパーツが開いて、二依子の霊体を受け入れる準備を開始した。

 

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