第89話「やり直しを要求する! 」


 

 そんな頭目が押さえる結界の綻び、その前ではザジ達キャンパーの亡霊犬"よしこ"と教団の亡霊三人の交戦が続いていた。

 

「糞! 犬の亡霊何て初めて見るぞ! 」

「何てすばしっこいんだ! ......ウワッ! 」

 

 よしこの尻尾に隠された武器「ファントム・テイルブレード」が展開され、敵を切り裂く!


 避ける、飛び掛かる、回転する、よしこの戦法に三人が翻弄されている。


 よしこの戦闘スタイルは正にヒットアンドウェイ、ボディは犬のしなやかさを全面に反映出来るように、大きく可動を増やした狼型のロボットプラモデル。


 その甲斐合ってか教団亡霊達の攻撃も追い付いていかず、かすり傷程度の射撃ダメージしか与えられない。

 

「犬の姉さん! 取って置きを撃ちます! 離れてて下さいよ! 」

 

 加えてサポートする憑依プレイヤーであるKIRIKU兄の射撃も相まって、想定よりもずっと苦戦していた。

 

「俺の切り札だ! 食らえ! 」

 

 個別に装填された弾頭を込めた、KIRIKU兄のバズーカ砲は目の前に居る教団亡霊に向けて、山なりの軌道で撃ち込まれた。

 

「プレイヤー無勢が! 霊力の差を思い知れ! ......ってなんだこれは! 」

 

 教団亡霊は憑依プレイヤーよりも霊力の総量が多い。

 強力なバリアを張ればあっさりプレイヤーの射撃は止められる、KIRIKU兄のバズーカ砲も例外ではなく。

 弾頭の爆発は直撃には程遠くバリアに阻まれ空中で炸裂。

 

 ......だが。

 

「何だ? バズーカの弾頭から液体が炸裂したぞ? 」

 

 バリアの上で謎の液体が広がる、バリアを解除すると広がった液体の一部が雨の様に降り注ぎ、プラモデルのボディパーツにこびりつく。

 

 ......

 

「 ! 」

 

 弾頭の液体を受けたのは真下にいた教団の亡霊イーブン。

 

 液体のこびりついたパーツに、霊力漏れの異常を感じとると、そっとボディの状態を確認した。

 

「 !? 」

 

 そこには......

 おおよそ見たことのない歪な亀裂がパーツに走っているではないか!

 そう......バズーカの弾頭にはエナメル溶剤が濃縮されて詰められていたのである。

 

「そのプラモデルのボディ、結構年期かかってるみたいじゃね? 」

「古いプラ材は割れるぜえええ! 」

 

 プラモデルのボディに"ケミカルクラック"が起こる。

 エナメル溶剤が年期の入ったプラモデルのABS樹脂にテンションを加え、小さな亀裂が走る。

 更にその亀裂に溶剤が染み込み重症化、修復不能なダメージになる。

 

「ぐあああああ! な、何だこれは! 」

 

 教団亡霊イーブンは、可動部分に致命的な亀裂が走りボディが半壊状態に。

 完全に戦闘不能に陥った。

 

「よっしゃあああ! 」

 

 KIRIKU兄の意外な大金星である、不器用な彼が塗装でやらかした経験を生かした、鬼畜の所業だ!

 

「ワオオン......(液体が怖くてトドメ刺しにいけない)ワオワオオン(しばらく援護は良いわ)」

 

 これにはよしこも触れたら例外では済まされないので、KIRIKU兄に自粛を要請。

 

「はい! 今すぐに自粛します、後プラモの神様ごめんなさい! 」

 

 KIRIKU兄は勝手に何かに謝りながら、後方に退避していった。

 

 ......

 

「うわ! 酷っ! 」

 

 ここで先程の戦闘に勝利し、よしこの支援に駆けつけ......。

 ケミカルクラックにドン引きする......ねぱたの姿があった。

 

「何でここにコイツが居るんだ! 」

 

 只でさえケミカルクラックで驚愕しているのに、ねぱたの加勢に更に驚く教団三人。

 

「残念やったな、下におったアンタ達のお仲間はぶっ飛ばしてやったで! 」

 

 荒ぶるねぱたの特撮フィギュアボディは、手に先程の戦いでの勝利の証である。

 キョウシロウの無限の刃を持っていた。

 

「そんな......! あの二人は何をしていたんだ! 」

 

 教団亡霊三人に戦慄が走る。

 にじり寄るのは百戦錬磨の亡霊ねぱたと、猛る霊犬よしこ。

 

 ジリジリと後ずさる教団亡霊三人は、結界の穴を背に追い詰められていた。

 

「上手いことザジの隙をついて"レストルーム送り"にしてくれた御礼は......」

 

「たっぷりせなアカンな! 」

 

「ワオオン!(お覚悟を! )」

 

 教団亡霊三人は徹底抗戦の構えを見せるが、明らかに状況が不利になっていたのである。

 

「ひいい! たっ助け......!」

 

 教団三人の一人ベーコンが動く、逃げようとしたのか躓いたのか。

 急にガクンと体勢が崩れる。

 

「今やあああ!」

 

 ねぱたが踏み込む......!

 奪ったキョウシロウの剣を振りかぶって、必殺の一撃食らわせようと振りかぶった!

 

「ハイファントム一刀流!」

 

 ねぱたが目の前にいたベーコンの、ドタマをカチ割ろうと振り下ろす!

 だがしかし!

 

「奥義! 王狼抜刀剣! ワオオン! 」

 

 よしこのサマーソルトからの中二強犬病抜刀剣が、滅茶苦茶カッコ良く......

 隣にいた残りの教団亡霊を下段から真っ二つ!

 

 包丁で切られる西瓜(スイカ)の如く、プラモデルのボディを両断したのだ!

 

 余りによしこの必殺の剣のカッコ良さに、ポカーンとしていたねぱた......

 

 中途半端に、教団亡霊ベーコンのプラモデルボディを叩き斬りながら、困った顔で言う。

 

「ハイファントム一刀流......やり直しできへん?」

 

「ワオオン(出来ません......)」

 

 よしこがしょうがなくツッコミを入れてくれた。

 

 ......

 

「ワオオンワン(随分簡単に倒せましたね)」

 

「いやちゃうねん、よしこ......」

 

 よしこの疑問にねぱたが答える。

 

「コイツら三人とも切られる前に、霊体がボディから抜け出してんねん、多分倒した訳ちゃう......」

 

 壊れたプラモデルのボディをつついてねぱたは語る。

 

「オリジナルボディすら、簡単に使い捨てられるトンでも集団なんや、まだバックに管理者がおるねん」

 

 よしこはため息をついて舟の霊体を眺めていた。

 

「......」

 

「ワオオン(舟の中に行きましょう......ねぱた)」

 

「せやな......このボディの持ち主も助けなアカンからな......」

 

 よしことねぱたは、結界の綻びを潜り、内部に侵入していった。

 

 

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