第86話「もう付属品とは言わせない」


 「何だ! あのドローンは! 亡霊が入っているのか?! 」

 

 教団の亡霊三人の動揺が走る、ザジを仕留め損なった上に、予想外の増援によるフォローがザジを守る。

 

「待て、相手はただのドローンだ、手も足もない」

「飛び上がるのを阻止すればいい! 」

 

 三人はザジを牽引するフォッカーを取り囲もうと、上空と地上と遠距離射撃で作戦を展開する。

 

「ワオオオオオン! 」

 

 だがここで更なる増援のエントリー!

 フォッカーに続いて飛び込んで来る狼型のロボットプラモデル、フォッカーの相方犬霊の"よしこ"である。

 

「よしこ! ここは頼んだ! 」

 

 フォッカーの殿(しんがり)要請に従い、よしこは爪や牙を輝かせ教団の亡霊三体に立ちふさがる。

 

「ワオオン! (早くザジをレストルームに! )」

 

 いつもならふてぶてしく文句を漏らせる筈のよしこだが、ザジの容態を案じているのか真剣である。

 それどころか......

 

「グルウウウウウウ! (よくもウチの仲間を! )ワオオオオオオン!! (覚悟は出来てるんでしょうね!! ) 」

 

 それどころか怒り心頭で、顔はシワを寄せて黙れ小僧! と言わんばかりに激しく吠える!

 それだけ「方舟」の仲間意識が犬だけに強く主張されているようだ。

 

「犬の姉さん、俺も参戦するぜ! 弟返せ! 」

 

 続いてエントリーする憑依プレイヤー、ミリタリーチックなロボットプラモデルのKIRIKU兄弟のKIRIKU兄がよしこに連れられ現れる。

 バズーカを構え応戦の構えだ。

 

「よし! 一旦パルドの飛行船にザジを収容する」

 

 機を見たフォッカー、一気にザジを牽引して飛び上がった!

 

「糞! コイツら! 」

 

 教団三人の包囲網があっさり突破される。

 追いかけようとする三人によしこが襲いかかり、KIRIKU兄がフォローする。

 教団三人のザジを倒す絶好の機会はここで失われた。

 

「......く......くそ......」

 

 背後のフォッカーに連れられたザジは、胸の穴から漏れ出る霊力を押さえ、上空待機状態の飛行船ドローン"レストルーム号"に向けて飛ぶ。

 

「変な研究施設からこっちに来てみたら、充電中によしこの奴が変なプレイヤー連中にスカウトされるわでもう......」

 

 フォッカーは事情が飲み込め切れて無いものの、解らないままザジとねぱたの存在に気が付いて駆けつけたのである。

 

「下でへばってる、ねぱたの奴にはこれだ! はいパス! 」

 

 ドローンから投下される小さなパーツ、四角いクリアパーツのその物体は、ザジ達亡霊が使っているキューブ型霊力タンク箱だ。

 

「ちょ......! ウチだけフォローが適当ちゃう? 」

 

 逃げる一方だったねぱた、だが霊力キューブを見るや、リバウンドを制するかの如く、特撮ヒーロー特有の大ジャンプでキューブに飛び付いた!

 

「ナイスリバウン! ってお前それで十分! ザジはどうみてもヤベエんだから仕方ないだろ! 」

「俺達はレストルームに行くぞザジ! 」

 

 フォッカーはねぱたに助け船を届けた後に、一直線でレストルームの付いた飛行船ドローンに向けて飛ぶ。

 

「......」

 

「うう......」

 

 フォッカーに牽引されているザジは呻く様な声を小さく上げる。

 

「なんだ? ザジ、お前......悔しがって泣いてるのか? 」

 

 心配そうなフォッカーだが、顔を見るに悔しそうな顔をしているザジを見てまだ元気がある事に、安堵のため息をつく。

 ザジは泣きじゃくる顔を隠して語る。

 

「だって......だってよう、俺達はユナを助けるのが目標だろ? 逆に救われちゃあ意味無いじゃないか! 」

 

「そうだな」

 

 フォッカーの反応は素っ気ない、だが悔しさは十分に伝わっていた。

 ザジとフォッカーの会話は続く。

 

「こんな情けない事があるか...... 早く助けにいかないといけないのに! 」

 

「ああ......その通りだ、だから俺達はユナちゃんが人間に戻れるまでしっかり見届けような。」

 

 フォッカーはザジの気持ちを理解した上で、素っ気ないながらも......

 

 「お前はよくやってるよ、ユナちゃんもわかってる、だからちょっと休め」

 

 フォッカーはザジにそう言い聞かせて、落ち着かせた。

 

 ******

 

 別の結界の足場では、ねぱたと教団亡霊二人が交戦している。

 落ちてきた謎のキューブによって、急激に天下を取った武将の出で立ちに変わるねぱた。

 

「よっしゃ! かかってきーや! 」

 

 勇ましく腕組みする特撮フィギュアが凛々しく構える。

 とてもさっきまで逃げ回ってた状態だと思いもしないだろう。

 

「何だあの女の亡霊! 急に霊力が桁違いに増大したぞ! 」

 

 枯渇寸前の霊力が一気に半分以上まで潤って、艶々の肌にでもなった様なねぱた。

 ボディの特撮フィギュアの特徴である剣を構える。

 

 如何にも主役の特撮ヒーローのフィギュアであろう、銃や剣の武器が、はじめから標準装備されていた。

 

「剣か......この俺が相手をする」

 

 ねぱたを取り囲んでいた二人の教団亡霊の内、片方が鞘から金属で出来た剣を抜くと、正眼に構える。

 

 ここでねぱたは言う。

 

「ウチら亡霊の武器に鉄もプラモデルも意味無いで、強いて言えば全部金属で作った剣は重いだけや......」

 

 剣を構える教団の亡霊、その相方がねぱたを見て分析をしていた。

 

「キョウシロウさん、アイツの武器全部"フィギュアのパーツ"のままだ、何の加工もしていない! 」

 

 教団亡霊二人(キョウシロウと相方)がねぱたを嘲笑う。

 

「方舟からの霊力で無限に切れる俺の鉄の剣と、君の斬り付ける時だけ名刀になるダミーとでは勝負にならないだろう......」

 

 キョウシロウと呼ばれた教団の亡霊が、剣を振りかぶって言う。

 プラモデルの体で両手持ちが出来ても振り下ろすのは片手、当然可動の限界であり、人の動きの再現はいつだって限界がある。

 これらを踏まえて、ザジ達キャンパーメンバーはボディを浮遊回転することによる剣術を教わっている。

 つまりは師が存在するのだ!

 

「エエで! やったるわ!」

 

 (遥か昔に成仏した先生......)

 

 (亡霊五月人形の先生! )

 

 (今こそ先生の業、使わせてもらいます!)

 

 教団の亡霊キョウシロウの鉄の無限の霊刃に対し、特撮フィギュアの付属品の剣を構えるねぱた姿は......

 

 成仏した師匠が乗り移ったかのように、重なって見えた。(と言う......)

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