第85話「クマが来る! 」


 無駄にジグザグにうねり、狙いを定めると一直線で飛び込むピンク色の衝撃!

 

「ハイ!」

 

「スピリットおおおおお! 」

 

「熊手・ボンバーああああああああああああ! 」

 

 ラリアットで飛び込むクマ(?)のヌイグルミ!

 

 そう......ユナだ!

 

 我らが一応の、ヒロイン主人公(クマ)だ。

 

 振り上げた腕のパーツに硬い手甲のアーマーが付いており、何故かトゲトゲしい軽金属を張り付けていて。

 

 スズハのプラモデルボディの喉元を捕らえ。

 

 その場から......

 

 かっ拐う様にザジの眼前から、スズハをボディごとラリアットで運び、横切ったのである!

 

「ちょっとお! 今クマが通りますよおおおお! 」

 

「 ! 」

 

 戸惑うスズハ、突然の介入者ならぬ介入クマは。

 スズハに大変憤慨しており、大いに怒りて曰く。

 

「何が! 」

 

「二依子さんの! 」

 

「最愛の友人じゃあああ! ワレエエエエ! 」

 

 怒濤の勢いで結界の綻びから突き放されるスズハ、ユナのクマには拡張ブースターがつけられており。

 機動性をアップしたフルアーマークマになっていた。

 

「な、何なのよ! このクマ! 」

 

 不意討ちのラリアットからバリアを張って抜け出したスズハ、赤いプラモデルボディは少しダメージが通った様で、装甲が一部剥がれ落ちていた。

 

「二依子さんの真のマイフレンド! それが私よ! 」

 

 ドヤ顔で結界から外れた場所の自販機の上で煽るユナ。

 敵の重要人物を引き剥がし、かつタイマンに持ち込む勇気は称賛に値する。

 ただし勝てればの話だ......

 

「五月蝿い! 小賢しい"ただの生き霊"め!」

「私が二依子を天国に連れていく! 」

 

 スズハはユナの言葉に憎悪の念を抱く、悪霊にも見えるその様がユナにも響き渡るが......

 

「だったら、私は二依子さんを再びポゼ部の部室に連れ戻す! 絶対に! 」

 

 ユナにも意地があった、二依子の友達という只一つの概念が、今のユナのクマを突き動かす。

 

「やれるものならやって見なさい! 」

 

 スズハが槍を構えて飛び上がる!

 

「 ! 」

 

 ここで初めてユナの「策」に気が付いた。

 

「これはまさか! 」

 

 そう......鳥の方舟からの霊力補助が途切れて居るのだ!

 つまり戦うにしても飛ぶだけで霊力を消費し、スキルを繰り出しても激しい消費の現実に晒されるのである。

 

「そう! 気が付いた? 」

 

 誇らしげなニチャア顔のユナが、自身がラリアットで吹き飛ばした距離について語る。

 

「ザジ君達の方舟と違って、方舟周囲での霊力補助だけかと思ってたけど、何故か霊糸で貴方が方舟と繋がってたのを見えちゃった......」

「これは貴方だけ、方舟から距離を離しても補助が受けられる"カラクリ"だと思ったから......」

 

「ちょんぎって! かなりの距離を撥ね飛ばして(スマッシュ)してあげたわ! 」

 

 ユナが語る事実を突き付けられたスズハは大変憤慨の様子、仲間にも隠していた秘密のカラクリを知られた事に怒りを露にして狂乱する!

 

「うああああああああ! 何て事を! するのよ! 」

「許さない! お前は許さない! バ ラ バ ラ にしてやる! 」

 

 憎悪の念が霊体を歪める、霊的堆積物が泡か煙のようにボディから吹き出す、怨霊とはこう言うモノだとその姿で語る。

 

「ヒエ......(誰か助けに来てくれないかなあ......)」

 

 ユナはさんざ啖呵切っといてこの有り様であった。

 

 ******

 

 視点はザジに映る。

 

 ユナの乱入とスズハのドロップアウトにより、状況に混乱が走っていた。

 

「今の内に船の内部に......グッ! 」

 

 霊力が再びボディを動かせる程度に回復したザジだが、やはり胸部の損傷が大きすぎる。

 激しく霊力が漏れを起こし、出血の激しい大怪我を負った様な状態で、ヨロヨロと起き上がる。

 

 (不味い......満足に戦う所じゃない)

 

 ボディからのフィードバックは亡霊特有のダメージ。

 尻尾切り可能な手足ならともかく胴体への大きな損傷は、装甲部分から先の逃げ場が無くてダメージコントロールが出来ない。

 

 (逃げるにしても霊力が居る、動くと出血するように霊力が漏れを起こす、万事休すだ! )

 

 そして目の前にはまだ天国教団のメンバーが三人残っており、今はスズハの身を案じて混乱している様だがいつこちらを攻撃してくるか解らない。

 

「不味いぞ......ヒドランさんが......」

 

「ベーコンさん......落ち着いて、まずはアイツを......」

 

「イーブンさんは......」

 

 教団三人の会話が聞こえる、ザジはその会話でふと思い当たる節を感じた。

 

 (コイツら、名前の呼び名もネットの繋がりのまま亡霊になったのか)

 

 ザジ達も同様にコードネームで呼びあってる亡霊団だ、自分達との境遇と重なる。

 

「俺がやる! 二人は補助を......」

 

 教団の一人でイーブンと名乗った男の亡霊は、スズハの念を受け継ぎ、ザジにトドメを刺そうとライフルの様な武器を振りかざす。

 

「ぐうう! 」

 

 苦しみながらザジが回避の行動を取る、ライフルから射出されたニードルは、肩や膝の装甲に突き刺さる。

 

「 ! 」

 

 細かいブースターによる回避と、押さえられないバリアで致命傷は無い。

 だが吹き飛ぶ様に背後に下がってしまった為、足場になっていた結界から落下してしまった。

 

「逃がすか!」

 

 教団の三人のメンバーは追撃するため、再び火魂の機雷を飛ばす。

 

 次々ザジに向かって飛ぶ火魂。

 

「回避が......出来ない! 」

 

 霊力漏れを胸から起こしているザジ、火魂の機雷に囲まれ万事休す!

 

 (まだ......)

 

 (まだ二依子を助けてない!)

 

 (こんな所で!)

 

 だが無情にも火魂の機雷は、ザジを取り囲み爆発せんと光っていた。

 

「 !!! 」

 

 駆け抜ける衝撃!

 

 それは遥か彼方よりやって来た!

 

「ザジイイイイイイイイ!! 」

 

 それは飛び込む様に割り込んできて、ザジのプラモデルボディの背中にドッキング!

 

 そう......小型ドローンだ!

 ドローンのボディが発光し、スキルで霊力が収束、ザジのボディに力を与える。

 

「ハイ・ファントム!」

 

「オーヴァー・ドライブ!」

 

 ザジのボディを包み込む強大なバリアを形成し、火魂の機雷の爆発を弾く!

 

「間一髪! 間に合ったぜ! ザジ! 大丈夫かー? 」

 

 そこに現れたドローンの亡霊、それはザジ達のキャンパーメンバーで。

 

 「永遠の付属品! 」こと......

 

 "フォッカー"である!

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