第83話「天国教団」


 赤いプラモデルに移った女性の亡霊、おさげが特徴の地味な印象の女性が取り憑いていた。

 

「何なんじゃと! 秋山青々花(アキヤマスズハ)とな? 」

 

 写真を見たことのある頭目が驚く。

 船の巨大霊体との戦いで、初めて意志のはっきりした霊体が現れたと思いきや。

 

 既に亡霊化しているその存在に「人為的」な何かを感じとる。

 

「ワシらはてっきり相手が巨大霊体そのものじゃと思い込んでおった、じゃがあのような乗船員(クルー)が居るようじゃと......」

 

「これではまるで"災害"ではなく"事件"じゃ! 」

 

 頭目が愕然としている内に、ザジはスズハに突撃。

 

 秋山青々花(以下スズハ)のボディである歪な赤いプラモデルに、ファントムスラッシュで強襲する。

 

「でやああ!」

 

「 ! 」

 

 パアンと音を立ててザジの一撃を受け流すスズハの赤いプラモデルは、装甲からボウガンの様な武器を出してザジに矢を見舞う!

 

「クッ! 」

 

 矢はザジのバリアに弾かれるが、数発の矢はバリアを抜けて装甲を掠める!

 

 スズハは微笑みを浮かべてザジに語る。

 

「ふふふ......以前に貴方がこのボディを破壊したのを覚えています? 二依子のプレゼントだったこのボディです! 」

 

 二年前に起こったという、二依子の事件のエピソードを思い出してくれたら幸いだ。

 ザジはその時に片っ端から二年前の二依子の仲間のボディを攻撃。

 結果、彼女の憑依アプリでのボディを破壊している。

 

「このボディも大分見た目が変わりましたが、元は二依子の作品です」

「私は亡霊になりましたが、このボディの"退魔"の力は健在なのですよ? 」

 

 背後に写るスズハの顔が歪む様に見える。

 

「お前が居るってことは何となく想像できてた、今すぐにも倒して二依子を解放してやる! 」

 

 ここでザジの宣戦布告、スズハは不敵な笑みを浮かべてザジに答える。

 

「あら? ......私だけだとお思いですか? 」

 

「は?」

 

 思いもよらぬ回答にザジが顔色を変えた。

 

「ええ" み ん な "居るんですよ? 」

 

 ザジはその妖艶な声に激しく動揺する。

 

「しまった! 菊名が危ないぞ! 」

 

 その言葉に、菊名の危機を察したザジは結界の綻びを潜ろうと、ファントムブースターを吹かして飛ぶ!

 だが行く手にはやはり赤いプラモデル。

 

「行かせないと言ったでしょう? 」

 

 火魂の機雷とスズハの妨害がザジを襲う。

 

「 !! 」

 

 そして更にスズハの後方に、新手の二依子の作品のボディを持つ亡霊が三体やってくる。

 

「みんなが来たわ......」

 

 スズハの声に応じてフワリと浮いた、プラモデルのボディの亡霊達がやってくる。

 

 彼等の背中には羽根の様な光る紋様が浮いており、ファントムブースター無しでも飛んでいる様である。

 

「ここは私達の"方舟"よ、船から供給される霊力がある以上、貴方達には"アウェイ"よ」

「さあ......何処まで戦えるかしら? 」

 

 それぞれのボディが"魔改造"された二依子の作品であり、船の巨大霊体から供給された霊力でブーストされた亡霊集団。

 

 「天国教団」

 

 正にナグルファルと同様に語られる、神話によく聞く死霊の魂の選定者。

 

 ヴァルキリーを思わせるその姿は、異様にも神々しくもその場に居たもの達の目に映った。

 

 

 

 ******

 

 船の巨大霊体内部。

 

 沼島ナックルの圧縮空気を使って菊名のフィギュアボディが、船の巨大霊体内部の通路を進む。

 

「何? あれ? 」

 

 明らかに中央部分にサーバーの気配を感じ取った菊名だが、光が差し込む場所が見えてくる。

 

「 !! 」

 

 光の先には大きな広間、アパートの一室位の空間が菊名の視界に飛び込んできた。

 

 フィギュアサイズの彼女には、アパートの一室であっても大広間であることには変わらず。

 むしろ内部の様子に戸惑いを隠せない。

 

「み、見つけた......」

 

 そう、彼女が降り立った場所。

 ドームの様な天井に歪な束の配線、ぶら下がっている沢山の携帯電話の基板。

 そして足元にはバラバラになった幾つものマネキンの残骸。

 

「ここがサーバールーム......」

 

 彼女には電子機器の知識は余り無い。

 だが周囲に張り巡らされた配線の先には大きな電源装置が鎮座しており、安定した電力でサーバーを維持していると見て良い。

 

「あれを破壊すれば! ......アストラルソード! 」

 

 菊名の霊力スキルが起動する。

 例え小さな斬撃であっても、物理透過のスキルならば基板であっても綺麗に切り払える。

 そう思った菊名は剣を取って電源装置に襲いかかった......が!

 

 急遽強烈な霊力スキルによる衝撃が、菊名のフィギュアを襲う!

 

 「うわあああああ!」

 

 吹き飛ぶ菊名のフィギュア、沼島ナックルが盾になったのかダメージは薄い。

 

「な、何? 、誰の攻撃! 」

 

 戸惑う菊名の前に、プラモデルのボディの男の亡霊が姿を現せる。

 羽根の様な紋様を背負ったそのプラモデルのボディの男が、菊名のフィギュアの前に立ちふさがる。

 

「こんなところまで入り込む何て、君は僕達の邪魔をするつもりなんだね」

 

 菊名の前にいる亡霊、彼の顔に菊名は覚えがあった。

 

「貴方......まさか二依子センパイの二年前の仲間! 」

 

「そうさ、二依子ちゃんには悪いことをしたかな? 」

 

 男はそう言うと菊名のフィギュアのボディに、ライフルの様な武器を突きつける。

 

「終わりだ。」

 

「 !! 」

 

 二年前の事件。

 

 菊名は愛華と共に事件を調べた経緯がある。

 老人ホームで聞いたお婆ちゃんのお話。

 孫が天国教とか言う不思議な信仰宗教にハマって、自殺までしていたこと。

 その可哀想な顔が脳裏に浮かび上がる。

 

 「......」

 

 突きつけられたライフルは霊力がかなり込められており、菊名の霊力では、まず防御出来ない。

 

 そして今にも撃ち抜かれそうな瞬間、菊名は彼に"有ること"を伝えた。

 

「貴方のお婆ちゃん、悲しんでいたわ......」

 

「......!! 」

 

 

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