第78話「憑依玩具戦線、第三幕」


「うああああ! 」

 

 プレイヤー達の叫び声が響く、拡大しながら襲いかかる荒れ狂う暴風の刃。

 しなる霊糸のロープにまとわりついた横向きの暴砂刃の竜巻が、縄跳びの如く幾重にも振り回されて、本体らしきマネキン人形を守るかの様に周回する。

 

 航空攻撃で先行していた変形プラモデルのプレイヤーが、この竜巻縄の初動に対応出来ず、吸い込まれる様に引き寄せられる。

 ディザスター(災害)ムービーの被害者のシーンに似た、一瞬「あっ......」っと止まった時間を体験した後に、なす統べなく竜巻に吸い込まれ......

 激しい音と共に、プラモデルのボディが瞬く間に胴体だけの「ダルマ」になると、更に無惨にも吸い込まれ、粉々に砕かれていった。

 

 「こちらの戦力、損害1を確認! 」

 

 観測していたスナイパーのプレイヤーから報告が入る、初めての損害報告は戦線に衝撃を与えた。

 

「不味いのう......ワシら奴らの囮に引っ掛かったのかも知れんぞ......」

 

 頭目はこの状況、突撃を勧降した事を後悔し落胆する、それを見るザジはこう言い放った。

 

「いや攻撃は続行だ、アレが囮であるならあんな厳重なバリアなんて張らない、きっと側近とかの本体に近い存在だよ」

 

 ザジの脳裏に浮かぶのは以前の巨大霊体戦での一場面。

 "霊国の主"と呼ばれた一人の亡霊が、側近の槍に打ち砕かれると言う最期......

 あの様に独立した忠心の高い個別の霊体が、あのマネキンに該当する可能性を感じていた。

 

「出来る限りの接敵だ! ソレしか無い! 」

 

 ここで接近による攻撃の提案を切り出しているのはダニエルだ、初めての損害の発生に攻撃の手が緩むと見た様である。

 

「今しがた我々プレイヤーがボディが破壊されても奴に取り込まれ無いように......即座プレイヤーの霊体だけがスマホに移る様に霊体保全機構を最大強化に設定してきた! 」

「これで我々だけは損害がでても気にならない! 今こそ犠牲を恐れず接近するんだ! マネキンに取り付けばあの竜巻のロープに巻き込まれる事はない! 」

 

 アプリの限定解除の際に、ダニエルは憑依時間とスキルの解放以外にも手を打っていた様。

 

 先に自分達の安全性を強化し、恐怖を取り除いてこの状況の打破を行うと言う強い意思を感じ取れる。

 

「むむむ......、やるしか無いのう」

 

 頭目もここまでダニエルのお膳立てが揃っている現状に、再度突撃の合図を行わざる終えない様子。

 

「下の地上攻撃隊に保全機構の説明を伝えてほしいのじゃ、彼らに囮をやって貰いたいんじゃが......」

 

 頭目は伝令出来そうなプレイヤーに伝言を託す、スナイパーのプレイヤーが霊糸で直接通信を行う。

 

「通達があった......地上班は作戦の要望に答えてくれるらしい、陽動が成功したら俺達で突撃しよう......」

 

 スナイパーのプレイヤーの伝言を聞いたザジが、頭目に次の突撃の参加を進言する。

 

「よし! 今ならまだマネキンが船の巨大霊体に辿り着く前に間に合う......」

 

 一泊置いて、頭目はヴァリアント・ドーマンの腕を振り上げ合図の準備をする。

 

「地上部隊! 対空攻撃開始! 」

 

 振り下ろされるヴァリアント・ドーマンの腕、その合図が地上部隊に通達されると、戦車模型や陸戦タイプのプレイヤー達による全力攻撃が開始される。

 

「ありったけの弾幕でお出迎えをしろ! 残弾は惜しむな! 」

 

 地上部隊では指揮をしている戦車のプレイヤーが猛る様に攻撃を促す!

 その言葉通りの全力弾幕がマネキンに目掛けて撃ち込まれる!

 

「射ち切ったら各自散開! 」

 

 地上部隊は徐々に攻撃の矢弾を撃ち尽くして行く......マネキンの周囲はバリアが張られ攻撃が弾かれるのだが、耐えきれずにボディの一部に着弾が確認された。

 

「反撃が来るぞ!」

 

 縄跳びがしなるように、砂刃の竜巻を巻き付けた太い霊糸が、マネキンを攻撃した地上部隊を凪ぎ払わんと襲いかかる!

 

 その威力たるはその場の全プレイヤーの度肝を抜くほどで、竜巻はコンクリートの床を抉る様に食い込み。

 巻き付けたガラスの暴砂刃は、周囲の看板や自動販売機等をボロボロに壊していく!

 

 逃げ切れない地上部隊が、成す術もなく凪ぎ払われ、損害は既に前線の維持を困難にしていく。

 

 だがそれは正しく囮としての役割を十分に果たした。

 最も警戒すべき障害だった暴砂刃の縄竜巻が地上に振り下ろされ、勢いを失うのを確認すると......

 

「行くぞ御主ら! 突撃じゃ! ワシに続け! 」

 


「「おおおおおおおお!! 」」

 

 号令と共にビルの縁から落下するように飛び込む玩具に憑依したプレイヤー達、憑依玩具戦線の最後の突撃が始まったのだ。

 先行で一撃を加えていた第一陣も、待機していた場所から再び参戦し飛び込むという、正に総攻撃。

 遅れて飛び込む騎士型ロボットやヴァリアント・ドーマン。

 ザジと頭目も参加する全力攻撃である!

 

「式神パック後鬼(ごき)スピードスター! ドッキングじゃ! 」

 

 霊糸で誘導された式神ストライカーパック、後鬼スピードスターがヴァリアント・ドーマンの後脚部を覆う様に合体する!

 更に折り畳まれていたパーツが展開されると、下半身が翼の様なブースターパーツで埋め尽くされ。

 背部に重接続された式神鳳の霊力が拡大される形となる。

 

「 キイイイイ! 」

 

 マネキンの中の亡霊達が飛び込んでくる戦線本隊に反応し、鳥のような攻撃的な威嚇の声を発する。

 

 マネキンがまるで糸で操られるパペットを思われる動きを見せると......

 頭や肩、膝や腹が鳩時計の様にパカッと開き、鳥の骨の人形達が嘴(クチバシ)を開けて、中から尖った爪や小石、小さな歯等を矢弾にして発射し、ザジ達玩具戦線に応戦を始めてくる!

 

「やはり単体では非力じゃな! 今こそ押しきるんじゃ! 」

 

 後鬼スピードスターの背部から、陰陽師の札の様なプレート状のパーツが飛び出すと。

 霊糸で操られて盾のように展開し防御の形状を取る。

 マネキンから発射された矢弾を受け流して防御すると、再び元の翼の様に形状を変える。

 

「今の内にマネキンの足元の綱渡りの縄を切るんじゃ! 」

 

「応ッ! 行くぞ! 」

 

 追従してきたザジの騎士ロボットボディが大剣のパーツを手に装備して構えると、霊力がほとぼしり過剰な刃が形成される!

 

「ハイ・ファントム・オーヴァードエッジ! 」

 

 ザジがオーヴァードエッジを展開すると、マネキンを狙わず先のレールの様に伸びている霊糸の縄に剣を突き立てた!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る