第67話「死霊船(ナグルファル)」
二依子は早速アルバムを出してくる、そしてそこに載っている一人の女性の顔写真を指差した。
「秋山青々花(スズハ)……彼女の事を調べてるんだね、頭目さんは」
「おお!コレじゃコレ、この女じゃ」
頭目はスマホでアルバムの顔写真を撮り、宗家に送っていた。
「天国教とか言う団体がおってな、二年前に集団入滅しておる、自殺と言うことで処理されとるが……」
「亡霊になっている……のか」
ザジが頭目の回答に割り入る、二年前の事件には二依子共々関係が在るので議論は迅速に行いたい様だ。
ここで部室のドアが開く。
「センパイお早うございます、あれ?」
「日奈代センパイお早うございます……ってこの人は!」
部室に顔を出してきた菊名と愛華が頭目の存在に気付く、目を輝かせて頭目の周囲に囲う。
「校内の侵入者とか言ってたのって頭目さんなんだ、こうして良く見ると美人ですねー」
愛華はマジマジと舐めるように頭目を視ていた、菊名は嫌な顔をして言う。
「で?何でここに居るわけ?」
「……」
二依子は二人にこれまでの経緯を語る。
「センパイが匿ったの?色々聞き出したいから?」
菊名が呆れた顔で両手を広げるジェスチャー。
「センパイが聞き出したいのってやっぱり、事件がらみなんですよね」
愛華も何やらスマホを出してスクリーンショットを出してきた。
「センパイには黙ってましたけど、私達二人で当時のネットの痕跡や新聞記事を漁ったりしてたんですよ」
菊名も喜んで参加したらしく、メモを出して見せてきた。
「事件に関与していた人の近所で、興味深いが聞けたんだから」
「それはワシも興味があるのう、頼りにして良いか?」
頭目はその聞き込みに興味を持ったらしい。
「事件で居なくなった人のお婆ちゃんが老人ホームで語ってくれたわ、相当前から宗教団体の様な事をしていたようね」
「お婆ちゃん事件がショックだったのに、調べてるって言ったらすぐに色々教えてくれたの、天国が近いとか死んでも辛くない事があるとか妄言を語っていたそうよ」
菊名は老人に語りかける才能に恵まれているらしい、そう言う将来へのスキルを活かした情報源は皆の興味深い事ばかりだった。
「……で、その秋山青々花さんの事なんですけどやっぱり″ヒドランジアの色″でチーム登録しているのは本人のようですね」
愛華がネットでの情報とまとめて説明を始める。
「バトルで姿を現してるけど、雨合羽で全身隠してて顔もチラリとしか見えないそうです、亡くなられてるそうなんですが生きてたと言う可能性も示唆されます」
「青々花(スズハ)……」
二依子は面持ちが暗い、死を偽装されたと言う事実がもどかしい。
ここで頭目が聞き出す。
「二依子と言ったな、秋山青々花の死は直接確認したのか?」
二依子が返答する。
「家族の方から死んだのを聞かされた……確か家じゃなくて見つかりにくい山奥で死んでいたと言ってました」
「なら家族による偽装も在りうるのう……確定ではないが」
愛華はここで情報の整理を始める。
「まとめますね」
「まず、二年前の事件、引きこもり気味だったセンパイがネットで知り合った秋山青々花と仲良くなり″旧憑依アプリ″で遊び、ネットで遊び仲間を増やす」
ホワイトボードで愛華がペンを握りまとめ出した、解りやすく人物名を区分けして書き出す。
「ここでの当時の旧アプリの使用者は現実逃避目的が多く、開発者もその目的で作ったと開発ブログで書かれてました」
「そんな中、集団自殺を行う企画者がいたと言う書き込みがSNSで上がり宗教染みた行動が確認されてます」
この話に二依子が反応する、頭目もここで話を切り出す、イヤホンマイクで何やら黒服とやり取りしながら言う。
「そこらへんはワシら陰陽師も把握しておる」
愛華は更に書類を出して、ホワイトボードに書き綴る。
「ここで二依子センパイとザジ君との会合です、ネットで亡霊の存在が確認されたのはその時ですね、旧アプリではかなりバグった表示が成されてたのですぐに亡霊だと広まったそうです。」
「……」
この意見にザジは困った様子だ。
「二依子センパイはザジ君打倒に精を出していましたが、ザジ君の様な亡霊の存在がネット上ではかなりの発見だった様です」
「亡霊と言う死後の″完全に行き着く先″を見つけてしまったみたいな感じで……」
それは今の社会性からの解放とも取れる行為、つまり完全逃避への一歩。
魂の禁断の世界に足を踏み入れる知識を人が知るきっかけである。
「当時のアプリ開発者のブログがここで途絶えます、死んで亡霊になったって事はこの辺で自殺を図った事になりますね」
愛華のまとめに、頭目はスマホの資料を照らし合わせて独自の見解を語る。
「この開発者なんじゃが、こやつはアプリを使ったまま死んだらどうなるか実験したかったのじゃろう、小僧の存在が確信を促した訳じゃな」
愛華はペンを走らせてまとめを続ける。
「続けます、この時の最後のアップデートでアプリ間のメッセージを送る機能が拡張されます、憑依状態で非憑依者に送れる機能が拡張させます」
「これにより亡霊になったアプリ使用者が多数現れた様ですが、この辺までは宗教染みた噂等は確認されてません」
二依子がここで疑問を口にする。
「この辺までって事は、ここから宗教染みた人達が出てきたって事?」
「はい、急に天国だの神だの語りだす人が憑依アプリの掲示板等に現れます」
「……」
頭目とザジが急に思い当たる節にぶつかった顔をしている、ユナもまた気が付いていた。
「なるほどのう……奴等(巨大霊体)に喰われたか……」
愛華も知っていたかのように反応する。
「巨大な光る船の霊体の画像が出回り始めます、救いの方舟だとか……」
ザジがここで震えた声を放つ。
「ナグルファル……」
その場の全員が首を傾げる。
「?何じゃ?小僧、それは北欧の死神の船か?」
「死者の爪で出来た船、その巨大霊体は正にナグルファルを模している」
古の北欧では死人の爪を切る習慣があった、ナグルファルに目を付けられない様に爪を短くするそうである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます