第62話「成仏」


 「!」

 

 呪いの人形が″前鬼″の意地に押され始める!

 霊体の手が綻びを始めて巻き付いた霊糸が崩れを起こす。

 

 「式神の力に救われたか!陰陽師ィィ!だがもう遅い!!」

 

 呪いの人形が口から鉛玉を重加速化させて発射!

 ヴァリアント・ドーマンの胴体の前で加速回転しながら力を溜め解放の瞬間を待っていた。

 

 「舐めるなのじゃああ!」

 

 それは前鬼の意地に応じたのか、はたまた陰陽師としてのプライドがそうさせたのか、頭目の雄叫びが木霊する。

 

 パワーローダーゼンキとの合体は下半身のパーツを切り離し、上半身パーツがほぼ全身パーツのパワーローダーと合体している訳だが。

 

 ここで頭目に呼応したのはこの際に先に切り離して放置していた下半身である、霊糸で巻き上げられるとヴァリアント・ドーマンに向かって高速で引き寄せられる!

 

 「また身代わりか!だが間合いに入り庇えるほど、この一撃の威力は甘くないぞ!」

 

 鉛玉に掛かる霊力の重加速化がピークを向かえる!

 

 「捉えたぞ陰陽師!」

 

 「ぬおおおぉぉ!」

 

 鉛玉が射出される寸前で頭目の気合いの声が轟く!

 

 そして強大な霊力の波が周囲に弾けると、発射された鉛玉がまっすぐ飛び!コンクリートの壁に撃ち込まれめり込んだ!

 

 「ああ!頭目さん!」

 

 二依子が撃ち抜かれたと思われるヴァリアント・ドーマンに注目する!


 腕が弾き飛ばされ、無惨にもボディの中央には大きな穴が!

 パワーローダーゼンキがゆっくり膝から崩れ落ち、前にのめり始める。

 

 ……だがここで呪いの人形が困惑した!

 

 「陰陽師の気配が無い!」

 

 大きく穴の開いたパワーローダーゼンキ、だが開いたのはその″ゼンキ″の部分でありヴァリアント・ドーマンではない!

 

 「分離したか!だが貴様一人では何も出来まい!」

 

 周囲を確認する呪いの人形、だがその目の前にいた倒したはずの相手(ゼンキ)が動き出す!

 パワーローダーゼンキが崩壊したボディのまま、呪いの人形に掴み掛かったのである!

 

 「ば、馬鹿な!離せぇぇぇ!……」

 

 呪いの人形がゼンキの腕を引きちぎろうと崩壊したボディに足をかけた、その時!

 

 「のりゃぁぁぁぁ!」

 

 ……呪いの人形の頭上にソレは落ちてくる!

 舞い降りるその姿は正しく本来のヴァリアント・ドーマン。

 先に巻き上げた下半身パーツと合体。

 その素の姿で今!呪いの人形の頭部目掛けて落下攻撃を仕掛けようとしていた!

 

 「小烏丸サーベル!」

 

 可変型の伸縮刀身が真っ直ぐに伸び、逆手に持った形で突き立てようと振りかぶって降りてきている!

 

 「ぬおおおぉぉ!俺のバリアーはそんなモノでは貫けん!」

 

 呪いの人形の霊力バリアが打ち込まれる刀身を遮る!

 

 だが……ゼンキ同様、この″小烏丸(こがらすまる)″もまた頭目の暴挙によって持ち込まれたシロモノである……。 

 

 「魑魅魍魎の類いに捌かれるなんぞ、名刀の名折れである!」

 

 ……と言わんばかりにその力を顕現し始めたのだ!

 

 「なんだと!!」

 

 小烏丸がバリアを打ち消す様に突き通す!

 ヴァリアント・ドーマンの眼前には呪いの人形の頭部、僅かに見える補修の穴に……

 

 今!小烏丸の刀身が滑り込む!

 

 「火事場のクソ退魔力じゃあああ!」

 

 突き立てた頭部に退魔の光が駆け抜ける!

 

 (!)

 

 「ああ!!」

 

 ポゼ部のモニターの前で凄い声を上げたのはザジだ!

 いつものザジではない動揺した姿である。

 

 「ザジ君?急にどうしたの?」

 

 二依子とユナが突然のザジの動揺に驚愕している。

 ザジがモニターに映る呪いの人形に指を差して語る。

 

 「オリジナルボディの霊核に……モロに″退魔の力″が入った!」

 

 その答えにメンバー全員が、モニターの呪いの人形に注目する。

 

 

 モニターの向こうでは呪いの人形から青い炎のようなモノが吹き出ていた!

 口からも目からも炎が吹き出る様子は完全に″霊体が崩壊″をしていると受け止めていい。

 背後のスキル管理者達が慌てている。

 

 「成仏光が出てる!崩壊が止められない!」

 

 呪いの人形からは笑い声が聞こえてきた!

 

 「くはははは!素晴らしい!」

 

 退魔の炎が呪いの人形の亡霊部分を焼き始める、それに合わせてか人形自体も崩壊が始まっていた。

 

 「頭部様、漸く解りました……あのスキル管理者達は呪いの人形のボディと霊体の崩壊を制御していたんですね」

 

 黒服の言葉に頭目が言う。

 

 「あの人形の亡霊……とっくに″成仏″しとったんじゃな、退魔の力が効きすぎる……ボロボロな体に鞭打って戦いに参加しておったのか」

 

 

 モニターの向こうのザジがこの様子にこう答えた。

 

 「霊体の崩壊が怖くないのは、とっくに成仏してて生き残る未練も何も無かったからなのか……」

 

 「ザジ君、未練を失っても亡霊は存続出来るの?」

 

 二依子がザジに問い、ユナもその反応に耳を傾けた。

 

 「ボディがあれば止まれるよ、だけど人生の消化試合のような感覚じゃないかな?」

 

 何処かザジが寂しそうな顔でモニターを見つめていた。

 

 

 「ふははは!陰陽師!中々楽しめたぞ!」

 

 呪いの人形から吹き出る炎に揺らぐ霊体からは、笑い声が聞こえる。

 

 「!」

 

 頭目が警戒する、人形から霊体が出てくる。

 

 ……成仏の光にまみれて出てきた霊体は、顔が傷だらけの男の霊。

 晴れやかな面持ちが成仏を物語る。

 

 「気をつけるといい……陰陽師よ」

 

 ここで人形の亡霊は予言めいた言葉を残す。

 

 「″奴等″が現れるぞ、近い内に人の世界は魔境に襲われる……だが奴等も亡霊だ」

 

 「きっと成仏の光は嫌かろう……」

 

 意味深な言葉を遺すと人形が粉々に砕け散り、亡霊も空間に溶ける様に霧散していった……

 

 鉛玉だけがしめやかにその場に遺されていた。

 

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