『根菜、フヌバの脚・大腿骨のスープ』

 一行はシルタ家直営のレストランで食事をとっている。一番高いコースで酒はシルタ家がサービスしてくれている。無論、ヘルサは酒を楽しんでいる。


 女中がカートを押してくる。カートには人数分の大きなグラタン皿とボトルがのっていた。

「こちら、本日のスープでございます。前菜でお出ししたフヌバの足・大腿骨から出汁を取り、加速魔導を使いまして、丸二日分に相当する時間、じっくり低温で煮込みました。さまざまな根菜も入っておりまして、野菜の甘みも出汁に含まれます」

 ミラが説明する間に若い女中がガラスのグラスをヘルサに差し出し、果実酒を注ぐ。薄緑でシャンパンのような泡が立っている。


 耕助はスープに目をやる。薄い黄色の澄んだスープにオレンジ、紫、紅、様々な色の野菜が浮いている。鳥足は良い出汁が取れる聞く、それを売りにしたラーメンも有るほどだ。耕助は期待を胸に一口すする。

 スープは滋味だがしっかりとした骨のある味わい、バランスがとれている。主張は激しくないが、薄味ではない。鳥の味が良くでている。

 根菜をスプーンに乗せ、頬張る。ビーツの様な土の香りがする、だが臭くはない。野菜の甘みが生きている、鳥だしのスープに合う。


「これ滅茶苦茶旨いじゃん! この味なら細いちぢれ麵でラーメンにして食べたい、絶対売れる!」

 耕太はスープをひっきりなしに口へ運ぶ。

「足は良い出汁になるっていうからな。コラーゲンも豊富だろう」

「ええ、冷めたらゼリー状になり、それはそれで美味しいものです。氷室で冷やして後ほどおだししますか」

 女中が尋ねる。

「ええお願いします」

 耕助はスープを残す、一人ではさすがに食べきれない量だ。ぷるぷるの状態のも食べてみたい。若い女中が耕助の皿を下げる。


「お食事はお楽しみいただけていますか。総料理長のミュダと申します」

 年老いた男が現れた。接客用だろう、綺麗な頭巾とエプロンを身につけている。

「ええ。どの料理も美味しいし、量も沢山。良いお店ね」

 ヘルサは酒が回っているのか饒舌である。

「お褒めいただきありがとうございます。メインディッシュは少々お時間を頂きます。それまでの間、お酒に合いそうな物をご用意させていただきます」

 女中が皿を振る舞う。

「自家焙煎したナッツ、それにミギの腸詰めでございます。辛口の蒸留酒と合うかと。ヘルサ様には果実酒と合うようナッツの代わりにベリーをお持ちしました」

 耕助の皿にはひまわりの種みたいなものと白いソーセージが皿に盛られている。ソーセージにはハーブが混ぜられていた。


 耕助はナッツを肴に酒を飲む。香ばしいナッツの味と酒の甘い木の香りが合う。倉田も煙草を吸いながらナッツをポリポリと食べている。

「良い塩梅の焙煎だ。焦げるギリギリまで攻めている。ふむ、酒が進むな」

 倉田は一口酒を含む。ヘルサはグラスを空にする。

「お酒、お代わりを」

 ヘルサがグラスを掲げる。耕助もこの果実酒に興味がある。

「私も同じ物を」

「畏まりました」

 若い女中がグラスを耕助に差し出し、酒を注ぐ。気泡がろうそくの明かりを受けてキラキラと輝く。


 耕助は酒を一口含む。梅の様な香り、微炭酸が嬉しい爽やかな味。

「ふむ、旨い。爽やかだ」

「ナムという果実を発酵させたものです。ナムは昨年の冷害の前に収穫した物で、蒸留酒までとは言えませんが貴重品でございます」

 ミラが説明する。

「本日お出ししているスミナの蒸留酒が当店でも上等な品であることにはかわりません。ですがジョムの香りで少々癖がありますのでお料理によってはこちらのナム酒の方が合う場合もございます。どうでしょう、皆様お召し上がりになりませんか。メインにはナム酒の方が合うかと」

「そうだな、一杯もらおう」

 倉田が答える。

「畏まりました」

 ミラは耕太と倉田にグラスを差し出し、ナムの酒を注ぐ。


 耕太がちびりと酒を嘗める。

「飲みやすい、けど軽すぎない。しっかりと果物って感じする」

(耕太ぐらいの歳ならナム酒のほうが好みだろう。蒸留酒は大人の酒だ)


「メインはどんな物が?」

 耕太が尋ねる。シルタ家のメインは野鳥が丸々一羽、この店でどんなものが出るか耕助も期待している。

「発酵させた香草を餌に育てたミギを潰したてで、その中でも希少な肩肉の一部をブレンドした果実酒のソースで煮込む品で御座います。お席で煮込み、加速魔導をつかいまして煮込み時間によって異なる味を楽しんでいただけるかと」

「ふむ、手が込んでるな、目の前で料理するのか。楽しみだ」

 倉田が感心したように呟く。耕助も期待せずにはいられない。

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