飯と臭い話
ジャガイモを主食とした昼食はだらだらと続いている。ユミナは四つ目のジャガイモを女中に配膳させる。
「これはうまい、やみつきになりそうだ。いや、もうすでになってるな」
ユミナが笑う。
「これが普及したら国の形が変わるやもしれん」
「ジャガイモが普及したことで国力を高めた事例はあります、血の連盟に背く形の発展が起きるかも知れません。その時は種芋の集中管理でカバー出来る筈です」
「そもそもどうやってコレが増えるんだ」
「ジャガイモは種にもなるのです。今食べている芋を日光に晒し、温度を保てばやがて芽が出てそれを土に埋める。そうするとその芋から別の芋が生えて来ます。受粉は必要ありません」
「受粉が必要ないのか。栽培の確実性が高まるな」
「ええ、その通りです。ただ輪作は必要不可欠です、ジャガイモは連作障害に弱いので」
耕助は女中に茶を注がせる、貴族らしい振る舞いというやつだ。農業大臣になった今、耕助は人を使うことを覚えなくてはならない。風格が問われるのだ。
「それで輪作の解禁を国王陛下が決定したのか。確かに輪作による収穫高の向上は必須、金家の叛乱を恐れ血の連盟は禁止してきた。それを解禁したとなると、何か裏があるとは思っていたが」
「輪作のノウハウは農奴から忘れ去られたと聞いています。普及は可能ですか」
「実はな」
ユミナは声を潜める。
「我が領地では秘密裏に輪作を続けている、農政でいつか必要になるやもと思いな。王、血の連盟には反するが、これも一種の忠誠だと考えてくれ。輪作に関しては我が家が手配する。ジャガイモの普及で手一杯だろう、鈴石は」
「助かります、ありがとうございます。ユミナさんが協力的でいてくださって凄く助かります」
「いずれジャガイモが普及し、魔王軍を討伐した平穏な世の農業大臣になるのはワシだ。今のうちに現職へ恩を売っておくのも悪くない。それに我が家は徴兵の数が少ない、人口比で適切な員数だけに止めた。大量に送りつけた金家とは違う。今忠誠を示さなければ魔王討伐後に叱責をうけるだろう」
ユミナは微笑む。
「輪作で何か一緒に植えると良い物はあるか」
ユミナが尋ねる。
輪作は作物同士の相性というものがある。作物が栽培の過程で土壌を変化させ、別の作物に良い土地を生み出すのだ。逆に相性が悪い作物を植え付ければ取れ高は減る。ジャガイモはナス科は特に相性が悪い。だが、耕助はこの世界の作物を知らない。だから相性はわからない。
「私の世界の作物では相性はわかりますが、こちらの世界の作物だとわかりかねます」
わからないことはわからないときっぱり伝える。
「ではなんとなくでいい、どんな作物だ、似たものを植え付けよう」
「そうですね、ジャガイモ、飼い葉、葉物野菜、スミナの順で植えればいいと思います。スミナは見た感じ私の世界の小麦に似ているので」
「ワシの領地では飼い葉はスミナの藁を発酵させたものを使っている。飼い葉は新たに植え付けないといけないな」
「よろしくおねがいします」
ユミナはジャガイモを食べるのをやめた、どうも腹が一杯になったようだ。
「それで肥料だが、人糞を使った堆肥を作ると」
「そうです、堆肥作りは行っていますか? 」
「家畜の糞を使ったのはこの世界でも使っている。だが人糞は使っていない」
「尿と便を汲み分けて、便だけを使います。藁と混ぜ合わせて作りましょう」
糞と藁を混ぜたものに適当な湿度の藁を重ねて発酵させれば肥料になる。きっとこの世界でも使っているということはノウハウはあるはずだ。
「人糞の量はそこまで無い、後方の人間は少ない上に堆肥作りを行う人員が居るかどうか」
「それこそ前線の農兵を使えばよろしいのでは。前線には大量の兵士もいる、排泄量も多いでしょう」
「なるほど。だが体力がない、衛生面でも不安が残る。一部の兵を後方に下がらせ、そこで一括して堆肥作りをさせよう、だが……」
ユミナが逡巡する。
「今、我々農業組と参謀本部の関係は最悪だと言える、なにせジャガイモの供出を蹴ったのだ。兵を動かせるとは思えない」
耕助が関わりたくない政治の話だ。だが、回避する方法はない。化学肥料が使えるか不明の今、肥料作りは優先課題だ。
「アノン家からも参謀本部に人間を送ってたんですよね、確かジュセリさんのお母さん」
「ジュビネですか、彼女はジャガイモ接収強行派でした。首を横に振るとは思えません」
ヘルサが答える。
「アノン家の家臣といえど、今は参謀本部副長の肩書きがあります。本家の意見にも耳を傾けないでしょう。そもそも言うことを聞くような状態であれば今回のジャガイモ接収騒動はなかった筈です」
「八方ふさがりってやつですか……」
三人は黙り込む、考えているのだ。どこで、だれが堆肥作りをするか。人家から離れた土地で集中的に管理できる環境。当然異世界の知識が薄い耕助にはあまり案は浮かばない。
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