農政の始まり

禁じられた錬金術師

 王子との面会を終え、耕助はアルドに案内され耕太達の控える部屋へ向かう。王宮は案内がなければ迷うような作りだ。

「私としては今後お手伝いしたいのですが、王に仕える仕事があります。常におつきできる訳ではございません」

 アルドは大して申し訳なさそうでもなく告げる。

「困ったな。こっちの政治には私は疎い、支援が必要ですよ」

「ユミナを呼びましょう。彼なら十分でしょう」

(おいおい、話が違う。アノン家では恒常的な支援を受けられると言っていた)

 耕助は内心憤慨する。


「ユミナさんなら十分でしょう、でも私は貴方から恒常的な支援が受けられると聞いていたんですけどね」

 ちょっとイヤミを言ってやる。ひとつやふたつ、愚痴をこぼしたい。d

「王に仕える方が重要ですので」

「そりゃそうかもしれませんが、聞いていた話と違うってのは困るなぁ」

「魔導文を送ってくだされば直ぐにでも対応しましょう」

「はぁ、まあ、わかりました」

(これ以上クレームを入れても仕方がないか)

 耕助は諦め、ユミナを頼ることにした。アルドはのれんに腕押しになるだろう、これ以上は意味が無い。


 アルドが懐から石を取り出す。魔導文が光り浮かび上がる道具らしい。

「ユミナは家を発ったようです。早い」

「ありがたいけど、なんだか悪いなぁ」

「いえ、この王国の危機です。素早さは必要不可欠。正直、今回の招集に応えなければ貴族としての格をおとすつもりでした」

「乱暴な」

 耕助は自分が原因でユミナを巻き込んでしまったのではないかと心配になる。


「しかし、この危機に賞罰は必要。今回の働きで彼の評価も変わるのです」

 アルドは淡々と述べる。

(やはり政に参加しないと言い切ったのは正解だった。こんなことに巻き込まれるのは御免こうむりたい)


 曲がりくねった廊下を進む、鉄のレリーフ、像、シャンデリアで飾られている。窓は少ないが灯りで十分明るい。

「着きました」

 アルドが扉を開く、耕太、倉田、ヘルサが茶をすすっていた。ジュセリは部屋の壁際で立っている、流石に式典用の鎧は脱いでいた。


「お帰り、どうだった」

 耕太が尋ねる。

「うん、首尾は悪くない。王子殿下のやる気も刺激できた」

「そうか、それは良かった」

 倉田が煙を吐き出す、アメリカンスピリット、意外な趣味をもっている。


「で、親父はどうするの」

「これからの農業政策をここで練ろうと思う。ユミナさんも一緒に、とてもじゃないが給食、全国規模での農業推進は一農協職員には荷が重い」

「それなんだよ、気になってたんだ。父さん、幾ら農協だっていったって政治家、役人じゃないからそこらへんの政策は無理だろうって」

「言ってくれるな。まぁその通りなんだが」

 耕助は胸ポケットからラッキーストライクを取りだし、火をつける。


「本家から連絡がありました。第一回の収穫は無事完了、四百tのジャガイモが収穫されたようです」

 ヘルサは紙を読み上げる。

「うーん、やっぱり少ないな」

 植え付けたのは五十t。順当に化学肥料を使えば、五百tは収穫出来た筈。

「化学肥料ってものがあります、それを再現できないかなと思ってるんですが」

「化学…… この世界にはなじみが薄い技術です。血の連盟は誰にでも使える技術の発展を抑え込みましたから」


 鉄家、そして王家からなる血の連盟は平和のための停滞を選んだ。魔導をご神体に作り上げた宗教戦争に明け暮れた国を平和に導くためだと聞いている。その結果、世俗化した魔導が厄介ごとを片付け、自己解決能力の失われた世界が出来上がった。

 耕助達、S町一行が召喚されたのも、この冷害をこの世界の力だけでは解決できなくなったからだ。科学技術や機械の開発へと傾注すればなんとかなったかも知れない。


「錬金術師はいかがでしょう」

 アルドが口を挟む、どこか苦々しげだ。

「錬金術師、王立研究所か」

 ヘルサは尋ねる。アルドに対する命令口調はきっと領主の後継順位とかで決まっているのだろう。

「左様でございます。あそこであれば何か知っているやも」


「錬金術って不老長寿とか、そういうのでしょ。化学肥料とどう関係が」

 耕太は尋ねる。耕助は錬金術というものを知らない。議論は耕太に任せることにした。

「錬金術は科学技術の発明が主な仕事です、この世界では規制されています。発展を止めるため、王の裁可なく研究はできないようになっているのです」

「とはいえ、この危機に際し規制は緩くなっています」

 アルドが付け加える。


「錬金術を駆使すればおっしゃられた化学肥料の成分を分析、精製できるかもしれません」

「なるほど、では肥料の転送してもらって、それと私も同席して分析してもらいましょう。多少は知識もあるので」

「錬金術師を手配しましょう」

 アルドは石をとりだし、操作する。フリック入力のようだ、指を滑らせ文を打ち込んでいる。

「急がなくて結構ですよ、ユミナさんと農政を決めるのが先かと」

「そうですね、三日以内には会えるよう手配します」

アルドは魔導石を操作する。

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