王宮への出発
明くる日、朝は早かった。謁見の為、王宮に行くには様々な手順が必要らしい。耕助達はスミナのパンで簡単な朝食をとっていた。
「王宮に行くには門を二つくぐらねばなりません、銃も持ち込めません。これは今朝知ったのですが」
ヘルサはパンをちぎっては口に入れる、それが此方の世界のマナーのようだ。無論そんなことは知らないし、教えられてもいないから耕助はむさぼり食う。腹が減っていた。
「異世界の武器、それも飛び道具となると流石に謁見の場へは持ち込めないと国王護衛騎士団から通達がありました。朝起きたらそういうことに…… 」
「まぁ、納得できる筋ではある。異世界人の我々、そして銃を警戒するのも無理からぬことだ。すこし心許ないが、王都で暴漢に襲われるないだろう。この屋敷には鍵のかかる部屋はあるかな」
倉田はパンを食べきった。
「ええ、魔導庫があります。魔導の道具を集めた部屋です」
「そこに銃を置こう。持って行けないということは何かしらの用心が必要だ」
「じゃあ銃を使った昨日の訓練は無駄かぁー」
耕太はため息を漏らす。昨日はみっちり夜遅くまで挙動の練習をしていた。
「いや、銃があろうとなかろうと挙動のキレは不可欠だ。君はまぁまぁのレベルまで達しているよ」
倉田がフォローする。
(倉田から見てまぁまぁ、付け焼き刃なら十分か)
一行は皿を平らげた、スミナのパンは日本のそれとは比べものにならない。あまり美味しくは無かった。
「では準備しましょう。貢ぎ物、ジャガイモは転送して用意します」
ヘルサは食後の茶を飲む。すこしぬるめだが、薫り高い。
「わかりました、では私も着替えるとしましょう」
耕助のプライドが込められた服装、農業を率先する者としての作業着、組織人であることを示すネクタイ、スラックス。いつものパターンだ。
耕助はアノン家のメイドに洗濯、アイロンがけを依頼してある。炭火のアイロンでパリッと仕上がった作業着は着ていて心地の良いものである。
親族の結婚式とかの為に礼服、モーニングは持っている。だが、耕助は今回の謁見を「農協職員」として望みたいと考えている。異世界にあって己の立場を明確にするため、農協の制服を着ていく。単なる好み以外の理由もあったのだ。
「耕太は…… チノパンにジャケットでいいな。倉田さんは」
「私はいつも通り夏期制服で。防刃ベストを着るつもりです」
「皆普段と変わりないってことでよろしいですね」
一行は耕助の問いに頷く。
「では解散、各自準備を整えましょう」
「耕太君、銃を持ってくるんだ。その魔導庫とやらにしまいにいこう」
「わかりました」
耕助は一行とはなれ、自室へと戻る。丁寧にアイロンがけされた作業着がベッドの上に置いてある。転送魔導で送ってきたのだろう。ワイシャツに袖を通し、ネクタイを締める。そして作業着を羽織る。
(謁見か……… いつも通り、平常心で行けば問題ないだろう)
僅かばかりの不安を抱き、耕助は着替えを済ませた。
耕助は準備を済ませ、玄関で一行を待つ。ジュセリが玄関で待機していた。帯剣し、鉄の鎧を身にまとう。ピカピカに輝く鎧、きっと新品だろう。そして、縦ロールがいつもにも増して気合いが入っている。
「今日は御者役だけでしょ、その割には気合い入ってますね」
「いや、私も騎士として謁見に臨む」
「へぇ、帯剣して謁見するんですか」
「もちろんだ」
(やっぱり銃という特異な武器、そして異世界人の俺たちを信用していないんだな。まぁ、逆の立場だったら当然か)
耕助は煙草を吹かし、時間を潰す。
「お待たせ」
耕太と倉田がやってきた。手ぶらだ、銃は保管庫に入れたのだ。倉田の腰にはホルスターがない。
「後はヘルサだけか。女の子の準備は時間が掛かるからな」
倉田も煙草を取り出し、火をつける。
「王様に会うってことはそれなりにおめかしも必要だろうね。異世界人の我々ならともかく」
耕助がそういった直後ヘルサが廊下から現れた。
「お待たせしました」
真っ白なローブを身にまとい、手には短い杖を握っている。ローブは晴れ空には少し暑そうだ。そして杖は恐らく鉄製、宝石がちりばめられている。
「案外はやかったじゃん。誰、おめかしに時間が掛かるって言ったの」
耕太はいたずらっぽく耕助を見つめる。
「謁見っていうものだからもっと着替えに時間がかかるかと思ってたよ」
「魔導師の正装はローブですからね。特に時間も掛からないのです」
ローブを着たヘルサはすこし大人びて見える。
「そうは言ってもローブは重いし、暑い。杖は重いので案外大変なんですよ」
少し袖を余した、所謂萌え袖のヘルサはくるりと一回転してみせる。
「全員あつまったということで出発、よろしいですね」
ジュセリが取り仕切る、ヘルサは首肯する。
「では浮遊小屋へどうぞ」
ジュセリが玄関の扉を開く、フヌバに曳かれた小屋があった。
(いよいよだ。さて、吉と出るか、凶とでるか。気合いをいれよう)
耕助は両手で顔を叩き己を奮い立たせた。
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