激戦

 耕太は小屋から飛び出す、すでに二、三人の死体が転がっている。倉田が撃ったのだろう。

「リロード! 左手の丘に弓兵がいる、最優先で排除しろ」

 倉田が叫び、ショットガンに弾を込める。

「了解、カバー! 」

 耕太は答え、丘に陣取った弓兵に連続で射撃する。


 散弾と言ってもゲームの様な拡散性はない。ショットガンは近距離であれば狙撃も出来る、その程度には拡散性が低い。


 耕太が発射した二発の内、一発が弓兵の頭を粉砕。熟れたザクロのようにはじけ飛ぶ。


 耕太は殺人という一線を越えた。だが、恐怖感も興奮もない。

 脳を麻痺させる酔い止めのおかげか、耕太は人を撃つという行為になんら感情を抱かない。それは兵士としては望ましい状況だ。殺人を厭うては、戦闘はままならない。耕太は平常心を保っている。


 S町自警団は射撃のみならず、倉田と拓斗の指揮による簡易な戦闘訓練をおこなっていた。

 訓練のメインは車両が待ち伏せされる想定。移民村の暴徒化、ゴブリンによる奇襲、いずれにも対処ができる。

 即席の訓練といっても、この世界では銃の効果は大。銃の威力と戦闘訓練の相乗効果により、耕太と倉田の戦闘力は高まっている。


 弓兵を排除した今、若干の余裕が生まれる。飛び道具を使う相手を殺害したことにより、近距離の敵を観察することができた。倉田と耕太は周囲を見回す。敵は十人程、皆近距離用の武器を持っていた。銃を扱う者が有利になる。


(無駄弾さえ避ければどうにかなりそうだな)

 耕太は近距離の敵から排除する決心をした。耕太は射撃の自信はそこまでない。鈴木、拓斗の習熟した銃の扱いを見ているため、自分が特出した才能を持っていないのだと思っている。


 だが、耕太は天性の射撃の才能を持っていた。銃を撃つとき無心になれること、これは強いアドバンテージになる。


 ジュセリは斧を持った大男を相手に剣を振るう。だが力で押し負けている、一撃の軽いジュセリの攻撃は大男が身につけた黄金の鎧に阻まれ有効打を生み出せない。大男はにやりと笑いジュセリの脳天に向かって斧を振りおろそうとする。


「南無三……! 」

 耕太は最後の弾で大男を撃った。比較的近距離から放たれた散弾が大男の胴に殺到する。鎧に阻まれ致命傷を与えられない。だが、十分な打撃力。大男は唸り、倒れ込む。ジュセリがその首を掻き切る。


「助勢かたじけない」

 ジュセリは次なる目標を探す。

「リロード! 」

 弾を撃ち尽くした耕太は弾を込めながら叫ぶ。

「カバー! 」

 再装填を終えた倉田が銃を構える。

 猟銃は三発までしか弾倉がない、日本の銃刀法ではそれが限界。大勢を相手取った戦闘には不向きである。


 ジュセリは細身の剣を振るう。恐ろしい速度の剣戟だ。女性の肉体にあった軽い武器を最大限活かし、一撃の軽さを手数の多さでカバーする。


 ジュセリに真っ正面から挑んだ剣士は体中に浅い傷が刻まれる。剣士は身軽さを活かすために装甲の類いを身につけていなかった、それが仇となる。

 剣士は痛みに怯んだ。ジュセリはその隙を見逃さず喉元へ強烈な突きを繰り出す。血を吹きだした剣士は足下から崩れ落ちる。


「クソッタレ! 」

 倉田が叫び、槍を持った賊を撃つ。胴に風穴が開いた。倉田は間合いの長い武器を持つ敵から排除する。

「お前らに勝ち目はない! 下がれ! 」

 倉田の声にも賊は怯まない。


『黒い手』の練度は高い、そこいらの兵とは比べものにならない。プロの破壊工作者集団である。『黒の手』は銃という異世界の武器に対しても恐怖を抱かず、撤退もしない。『黒の手』はS町一行の想定を超えている。兵力の半数を失った今でさえ攻撃を優先する。


「リロード! 」

 倉田が叫ぶ。

 突如として、草陰からナイフを抜いた敵が倉田の真正面に飛び出る。

 銃の再装填という必要性を悟った『黒の手』の兵が機転を利かせた。未知なる武器を有した敵を観察し、弱点を探る。敵ながらあっぱれである。


 背後を警戒していた耕太による援護は間に合わない。仮に気づいたとしても、倉田が邪魔になり射撃は困難。『黒の手』は銃を飛び道具だと認識していた。それを承知でフレンドリーファイアを誘う絶妙な立ち位置に立っている。このナイフを持った男は恐ろしく腕がたつ。


「クソ! 」

 倉田は猟銃を手放し、腰のホルスターからニューナンブを引き抜く。腰だめで二発発砲、全弾命中。急所こそ外れたものの、胴を撃たれた男は前のめりに倒れる。倉田は一発だけ猟銃に弾を込め、倒れた男の頭を粉砕する。


 背後から騎馬が駆ける音が響く。ゴルムら護衛騎士が到着、小屋の周囲に展開する。


 笛の音が鳴りわたる、ジュセリと剣を交えていた男が突如背を向け走りだした。笛は撤退の合図だ。

 だが、男は逃げ切れない。加速魔導を用いた騎兵が『黒の手』を追い詰める。高速の槍が胴を貫いた。


 戦闘は終結した、静寂が周囲をつつむ。硝煙と血の匂いが立ちこめた。

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