S町会議
「耕ちゃん、起きて時間だよ」
伊藤の声で耕助は目覚めた、時間は五時五十分。二時間ほどのちょうど良いまとまった昼寝になった。
「みんな集まってるよ、ほら起きて起きて」
皆は外で待っていた、普段顔を合わせないバイオマス発電所運用の小林組も集まり、手狭な農協事務所に入りきらない。
耕助の睡眠を邪魔しないように気を遣ってくれたのだろうと察する。
「皆さんお待たせしました」
耕助は一礼して、輪に加わる。
「よ、御大臣」
原井がヤジを飛ばす
(すでにその話は広まっているのか)
「皆さんどこらへんまでご存じなんですか」
「だいたいは聞いたよ。渡君からね、なんでも内政のもめ事で道具に使われちゃうんだろう。難儀だねぇ」
伊藤は心の底から同情しているような目つきで耕助を見つめる。
「大臣になったら報償とかもらえるのかな」
耕太はそれがあたかも自然なようにショットガンを体の脇に置いている。耕助にはそれが気になった。
「もらえるかなぁ、微妙な線だよ、だってこっちから貢ぎ物しないといけないんだから」
渡は煙草を咥えている。
「貢ぎ物、何おくるの」
伊藤が食いついた。
「太陽光時計ですよ、時計って高価値だろうと踏みまして。太陽光なら電池切れないでしょうし」
「なるほど、いい案だ」
伊藤は頷く。
「さて、今の所私が農業大臣に就任する話は皆さんご存じと謂うわけで、皆さんから最近の状況を聞き取りたいなと思って集合してもらいました」
耕助が場を取り仕切る。
「うちら結構ガタがきてる、交代要員が居ないからどうしょうもない。発電の頻度を落とせないか」
バイオマス発電所の班長、大場は目に隈が浮かばせ、疲労を隠せないで居る。
「召喚初日から毎日稼働でしたもんでね…… 」
「そろそろ計画停電しましょうか、ちょっとそこまで思考が回りませんでした。すみません」
「電気のない生活にもある程度対応できそうだ。長期的視点に立って計画的停電に賛成」
鈴木が手を挙げる、皆もそれを皮切りに手を挙げた。それだけ大場の疲労が目に見えて深刻であったからである。
「それじゃ今晩から計画停電しましょうか。当面、稼働は一日おきってことで。それでどうです」
「隔日なら問題はなさそうではあるな」
無精ひげを撫でながら大場が頷く。
「それじゃ王都までどうやって行くのさ」
耕太が口を挟む。
「馬車…… 正確には馬ではないが、フヌバの馬車で移動だな。イムザからそう聞いている」
「じゃ電気は大丈夫か」
「そういうこと、次の議題は何かありますか」
「移民村なんだけど」
伊藤が手を挙げ、話だす。
「大体は労働に使える段階まで体力は回復したそうだよ。ジャガイモ給食のお陰でね」
「それは良かった、それじゃジャガイモの植え付けの講習を加速させてください。ただ土壌消毒をする手間があるので輪作でお願いします、農薬は最後まで取っておきたいので。あと自分がいない間は藤井さんを農業のリーダーに指名したいと思います」
「妥当だね、ウチは趣味みたいなつつましやかな農業しかしたことないから。率いるって意味じゃ専業農家さんのほうが向いてる」
伊藤は納得してくれたようで大変助かる。
自己顕示欲でリーダーぶる人間も想定される状況で、ここまで冷静に分析できるのは伊藤の長所のように思える。
「じゃぁ、俺が農業のリーダーで、って他にもリーダー役がいるのかい」
声色から察するに藤井は自信ありげなようだ、これなら伊藤がサポートにつけば問題ないだろう。
「僕が警備のリーダーです」
渡が手を挙げる。
「倉田さんは王都組ですから、今回は警備から外れるんですよ。それで警備となるとやっぱり警官が一番いいかなと思いまして」
耕助は場の空気を見計らう、渡の起用に反対もいるかもしれないからだ。
「いや、妥当だよ。流石にハンターだからって警備を率いるってのは無理な話だし、村中君も自衛隊って言っても若すぎるから」
斎藤が頷き答える。
「ただ、ちょっと抜けてるとこあるけどよ。あはははは」
斎藤は笑う。
「そこは要警戒、抜けてるようだったらバシバシ指摘してやってくだい」
耕助は皮肉っぽく答える。
「流石にこの期間は真面目にやりますよ」
渡は背筋を伸ばし敬礼する。
「んじゃいままで真面目じゃなかったのか」
斎藤はからかう。別に敵意とか、侮蔑とかではなく、単に若者をからかうのが楽しいようだ。ならば渡がリーダーで問題はないな。耕助の心配点は一つクリアされた。
「それじゃ私が不在の間、当面は渡が警備、藤井さんが農業のリーダーってことでお願いします」
皆が頷き返す。
「後他に話すことは…… 」
「マダムが魔導師の資質ある話しましたっけ」
渡が手帳を見返しながら確認する、が、全体は事態が飲み込めていないようでざわつき始める。
「あー、アレは我々だけじゃ手に負えないな、イムザさんに会ったときに確認する。皆さん、マダムなんですけど、どうも未来視が使えるようで、今後魔導師として訓練して使いこなせるようになってもらおうかなと思っています」
「へぇー、あの勘の良さはそういう裏があったってわけだな」
原井が頷く。皆、マダムの神がかり的な勘の良さを多少は知っている。むしろ納得がいったような反応が返ってきた。
「そういえば原井さん、降圧剤のマンドラゴラモドキ効いてます? 」
「ああ、効いているよ! びっくりだ病院で貰うやつより効いているんだわ。この世界は凄いね、最初うさんくさいと思ったけど」
「根分けして持ち帰れば一攫千金も夢じゃないか」
鈴木が呟く、彼は最初からこの生薬の可能性を見いだしていた。
(狙い通りって所か)
「それは良かった、この世界から一人も欠けることなく帰りたいですからね。ただ効きすぎも怖いので定期的にサラさんに看て貰ってください」
「うん、時々医者がウチに来てくれてる。ほら、魔法でCTしてくれたウェッタとかいう医者。だからそっちの心配はないよ」
原井は満足げに頷いた。イムザは結構気を回してくれているらしい。そういう細かい所の配慮が彼らアノン家への信頼を生み出している。
「それじゃ話はこれくらいに、小林組の皆さんは今日はもうお休みということで」
一同は頷き、解散となった。
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