農民は芋に踊る
藤井に率いられゴラン、ミリーが先陣を切って畑に分け入る。多少手慣れた雰囲気がある、伊藤と藤井が彼らを熱心に指導した賜だろう。
それにブル達、移民団組が続く。彼らはジャガイモを踏まない程度の作法しかしらない。ぶっつけ本番でジャガイモを掘り起こす。
収穫と言ってもさほど難しい事ではない、収穫そのものは小学生の体験学習程度でも出来るのだ。それを経済行為と見なしたとき、問題になるのはその効率性だ。
ゴランやブル達の道具にさほど違いは無い、皆鈍く輝く金のスコップ、鍬を肩に担いでいる。
「じゃ、今日これから収穫始めるけども、はっきり言って目標値は無ェからな。なにせ手作業でこの面積掘り起こすのも、魔導を使った作業の加速するのも初めてだから」
藤井が場を取り仕切る、がその説明を受ける農民達の温度感にははっきりとした差がある。ゴラン達は真剣に聞いているようだが、移民たちはどこか投げやりである。
渡から移民団の素性を聞いたからこそより一層感じているのかもしれない。
こういう場を藤井が取り仕切る事で少しでも耕助の仕事が減るのは良いことだ。さっきの渡の話もあるが、耕助は今後よりジェネラルな問題に取り組む必要がある。
そうなると一つ一つの細かい問題に取り組む時間は限られてくる、そこに渡や藤井のアシストがあると大助かりという訳だ。
藤井の簡単な説明が終わると農民は作業に取りかかる。
本来なら藤井もともに時間加速で説明やらを施す予定だった、がゴルムが用いる時間加速の絵面にビビりこれを固辞した。仕方の無いことだと思う、あのゾンビもどき軍団に加わるのは耕助も気が引ける。
結局、S町一行は魔導に対してまだ警戒心が抜けきっていないのだ、異世界組がジャガイモに親しむ速度とは対比的である。
結局、藤井の指導で最初の数株を収穫したところで藤井が離脱、ゴルムが作業を加速させる手筈になっている。
その作業の間に取る農民の食事が送られてきた、風呂桶を思わせる大きな鍋が三つほど。
中をのぞくと大きめに切られた皮を剥いたフライドポテトがこんもりと盛られていた、これは現代組の助言を受けた輜重兵による試験的メニューだ。
前線でカロリーを稼ぐ為の一品であり、手間を省く為大きく切られている。
一方で水不足により土汚れを十分に落とせない可能性を鑑みて栄養価の高い皮はあえて剥いている、今後肥だめがうまくいった場合では感染症を引き起こす可能性もある。
耕助はフライドポテトを一つつまむ、まぁこんなものだろうというのが正直な感想だ。ただ、久々にジャンキーな食い物を食べた気になった、懐かしさを覚える。
だが、これは揚げたてじゃなければ旨くは無いな、耕助は鍋一杯のジャガイモを見つめる。
「耕ちゃん、こっちの説明は全部すんだよ」
藤井が耕助の後ろから声をかける。
「終わりましたか、ではゴルムさん、魔導を」
「承知しました」
ゴルムは慇懃に礼をすると詠唱を始める。
「「我、速度の求道者也。我剣を捨て、戦に臨む者也。飢餓に陥りし国難を救い大戦に勝たんとする者也。今、農奴の加速を望む者也! 」」
一瞬農民達が光る、高速でパラパラ漫画の様に動き始めた。
瞬きをする間にも既に一株の収穫が終わっている、次々と芋は引っこ抜かれる。
「あれが時間加速魔導の効果、ですか」
目を見張らせた拓斗がゴルムに問いかける。
拓斗はどうやら農民の行動を一挙一動見逃さぬよう目で追おうとしているらしい。
「左様、と言ってもコレも時間加速魔導の一つの形態でしかありません、魔導の顕現は多様ですから。私の魔導は偶然にも人間の動作に適した形で顕現したまでで」
こうした些細な会話の脇でジャガイモを詰め込んだコンテナはどんどんと積み上がる。
収穫が始まり、次第にその『戦果』がはっきりしてくるとゴルムは顔をほころばせた。
「流石は異世界召喚を行っただけはある、このジャガイモの生産性は・・・・・・」
「ええ、私の世界でも何度も国難を救っただけはあります。私の国ではありませんでしたが」
「そうですか、異世界召喚するのもうなずける。上は最初、武器を召喚しようと考えていたのですがアノン家に突っぱねられてましてね。ですがこれだけの生産性の食物であれば成果を認めざるを得ないでしょう」
確かヘルサの父親が禁忌にしたと言っていたが、武器の召喚拒否は初耳であった。何かしらの理由はあるのだろうが、イムザにせよ、ヘルサにせよそれを問うことすら難しそうなオーラを放っている。
もう少し距離を詰めてから話を聞いたほうが良さそうだと思った。聞いても仕方のない話だとも。
農民達の作業が畑を半分飲み干すまでそれほど時間はかからなかった。農民達はフライドポテトの鍋の元に集ったかと思うと直ぐに思い思いに休息を取り始めた。
まるで蟻のようだと思った、別に農民が蟻程度の価値しかないと言いたいわけでは無い。
ジャガイモに群がり、作業するその姿がどこか人間離れしていて、奇怪なもののように感じられるのだ。恐らく、人間的な動作がその高速さ故に捨象されるが故の心証なのだろう。
これを騎兵に用いれば結果は火を見るより明らかだ。行軍速度が早まれば騎兵の要は達成される。
だが運動エネルギーはどうなるのだろうか。加速された分の速度がそのまま運動エネルギーへと変換されるならその攻撃力は通常とくらべ何倍になるのだろう。今は何倍速なのだ、少なくとも運動エネルギーの公式で速度は二乗の威力を持つ。
今加速魔導をかけられた農民が暴れ出したら制御出来ないだろう、渡の提言を受けた耕助は警戒心を抱く。
「ゴルムさん、あの加速してる農民が暴れ出したらマズいんじゃないですか」
耕助はこそりとゴルムに問いかける。
「なにかご存じなので」
ゴルムの顔が軍人のそれになる、甘い顔は剣呑な顔つきへと変貌した。
「いえ、これは想像の問題ですが、ちょっと暴動とか起きたらどうなるのかなと。パパッと走ってきてスコップで頭殴られたら死にますよ」
「なるほど、それだけですか。想像力が豊かなようだ、ですがまぁ確かにそうですな。ただ問題はありませんよ」
ゴルムは朗らかに笑う。
「何故です」
「術者が死ぬか、停止の詠唱を唱えれば魔導は解除されます。我々を殺したところで連中はこの領地の兵士には勝てますまい。それで得られるものはなにかありますか」
ふむ、単純明快でそれなりに十分な答えだ。
が、それだけでは耕助の懸念は解消されなかった。耕助は移民たちに何か引っかかる。
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