加速魔導師の協力

「ちょっとー課長―アノンさんとこから魔導文よ、至急来てくれですって」

 突如事務所からマダムの声が響く。

 耕助が機動する前線指揮官だとするならば、マダムは一か所に陣を構える参謀役だ。

 マダムには常に農協事務所に待機してもらっている。それに最近マダムは調子が悪いらしい、魔導と関係しているかもしれないとのことだ。

「至急とは不穏な。鈴石殿」

 ペスタのオッドアイが動揺で揺れている。

(急いで向かうとしよう)


 耕助とペスタの二人は駆け足で電気自動車に乗り込む。

 ペスタは手慣れたもので、素早くシートベルトを締める。

 ペスタは乗車と同時に苛立たし気に煙草に火をつける、結構なヘビースモーカーだ。

 耕助も後追いで煙草を取り出す。公用車だから本来は禁煙だ、灰皿はついてない。

 耕助は左右のパワーウィンドウを開け、灰を捨てる。


「何が起こったかわかりますか」

「さぁ、一揆、陳情ではないではあるまい。軍事の素人を呼びつける理由ではない」

 ペスタは窓から灰を落とす。

「となるの我々が優れているのは農業です、農業で何か進展があったと」

「恐らくそうだろう、疫病やその手の類でなければいいが」

 ペスタはまた新たに煙草を取り出す。彼女はきっとチェーンスモーカー体質だs。


 イムザ宅に到着する、門をくぐると、ダスクとイムザが出迎えに出ていた。

「コルの魔導力が回復した」

 それだけ告げるとイムザとダスクは後部座席へ乗り込む。

(至急なんて急がせて、たったそれだけのことか)

 耕助は心の中で悪態をつく。

(魔導力はアヴァマルタで回復するって言ってただろう)


「コルの時間加速魔導は魔導力の回復が遅く、召喚獣の肉も効きづらい筈なのだ」

 ジャガイモ畑へと向かう道すがら、イムザは状況を説明する。

「そもそも魔導は空気中の魔導波を肉体を媒介に力に転ずる技術、つまり魔導力は体力によるところも大きい。が、コルは幼い、体力面で大きく不利な状態にある」

「つまり、今回は前回の試験農地もあり、連続使用が難しかった、と」

 耕助の問いにイムザはうなずき返す。


「きっとイムザ殿の呼び出した召喚獣の肉と相性がよかったのだろう。それと加速魔導士が大量にこの『作戦』に参加を申し出た」

 ダスクが口を挟む。

「元来、加速魔導は騎兵と組み合わせる事で機動性を高めるものなのじゃ、だから加速魔導の使い手は徴兵で優先的に戦場へ送られたのじゃが」

(そう言えばコルは加速魔導を軍用の行軍なんかで使われると言っていたか。騎兵、速度を重んじる兵科じゃきっと重宝する能力なのだろう)


 ダスクは煙草の臭いを感じ取ったのかパイプを取り出し、葉を詰める。

 ペスタはポケットからライターを取り出し後部座席へ体をひねり、それに火をつけた。

(ライターも配ってるのか、渡は。スモーカー生産機だな……)


「ほれパロヌ会戦以降肝心の騎兵が充足しておらんのだ。飼い葉が足りず、フヌバも動かん場合も多い。騎兵も多く消耗した、騎兵の育成には時間がかかる。つまり、だ」

 ダスクが煙を吐き出す、そういえばこっちの世界の煙草はどんな味がするのだろうか。

「職にあぶれた時間加速の魔導士がたくさんいる、そういうことですね」

「そう、遊兵にしておくのももったいないしな。加速をつかいジャガイモの土地を耕してもよし、栽培を加速してもより、という訳じゃ。どこでもすぐに新たにジャガイモの収穫ができる」



 今植えているジャガイモを種芋にすれば、この春だけでジャガイモは爆発的に増えるだろう。

「それじゃ、計画を大幅に変更しないといけませんね」

 耕助は思わず少し声を弾ませた。

「そうだな、貴重な魔導兵が遊兵になってるとは思わなんだ。どこから手を付けるべきか……」

 イムザが軽くため息をつく。耕助もさすがにこの手の二毛作、三毛作は想定していなかった。

 嬉しい反面、驚き反面といったところか。


 だが連作となるとジャガイモ特有の問題が出てくる。先ず、土地の問題が出てくる、ジャガイモは連作障害に弱い。

 同じ土に同じ植物を植え続けると、土壌はその植物に合わせ変化する。だが、同時にそれは害虫、疫病の温床になることも意味する。

 現代では大量の農薬によって、それらを解決していたが、この世界ではどうする。


 耕助ひとりの力ではどうにもできなさそうだ。

 そう言えば、伊藤と焼き畑について話し合った気がする。焼き畑は土壌消毒の一つの方法ではある、がこの領地では森は少なそうだ。そもそも人間は森の傍には済まない、開墾しやすい方へと流れていくものだ。どうしたものか、耕助は思案する。


 だが少なくとも今の時点ではアノン領で植え付ける土地は賄えるはずだ。しかし、それも倍々ゲームで直ぐに埋め尽くされるだろう。

「ジャガイモ農家を増やしてください、他領地からも。このままじゃ人手が足りなすぎます」

 耕助は窓から煙草をポイと捨てる。仕方ない、この車には灰皿がないのだから。


「他領地から受け入れはすぐにできるだろうな、只でさえ領民が飢えているのだから。押しつけられる身だよ、こっちがね。農民を受け入れられるかねジャガイモは。ジャガイモが足りなければ只の飢えた移民を受け入れるだけになるぞ」

「時間加速が使えるなら大丈夫でしょう、農民の数にもよりますが」

「ほう、それはそれは。正に金家が飛びつきたいような話だな」

 ダスクは顎髭を撫でながら感心したようにつぶやいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る