ペスタ、爆発

 藤井とペスタを乗せ、車で荘園へと向かう。

「そういえば、魔導って使えば使うほど消耗するって聞いたけどそこのとこどうなの」

 耕助は後部座席のペスタに聞いた、ルームミラー越しの彼女は意気軒昂といった雰囲気だ。

 

 昨日のアヴァマルタ、あれだけでも重労働な筈だ、なにせ領民の飯を賄うのだから。その上、先日彼女はすでに魔導を使っている、疲労の蓄積は容易に想像できるが・・・・・・

「その件なら問題ない、アヴァマルタで私も回復したからな」

 鼻息をならし自慢げにペスタは答える。


「召喚獣の肉はそれを媒介に魔導力を移譲できるのだ。つまり私の体力はイムザ様の魔導力を元に回復している、と言える」

 なるほど、女中連中がオーバーワークにもかかわらず元気そうだったのはそれが理由か。

「それじゃ今日の耕起も問題なさそうですね」

「問題ない、それどころか通常の範囲よりも広範囲で魔導を使うこともできる」


 先日、彼女は一ヘクタールの土地の原生林を切り出した、木を細かく裁断しチップにした。その上、土地を開墾した、それを一時間以内で終えることができた。

 それが拡大する、その上今回切り開くのは原生林ではない、只の平地である。

「予想以上の結果になりそうだな」

 藤井が半ばあきれ顔でつぶやいた、耕助も目を伏せて同意した。


 荘園につくと、すでに農民たちが待っていた。以前の試験農地の時よりも多い、ジャガイモ農家拡大政策の第一の策だ。

 ゴランが手を振り、ミリーがお辞儀で出迎える。


「おはよう、鈴石さん、あっちのほうはどうだった」

 下卑た表情でゴランが問いかける、ムスコの話らしい。

「効きました、効きました。私たちの世界にもないレベルで」

「それはよかった。ほれ、今皆飢えとるべ。今日ぐらいしか勃たんのよ。ま、その男手もみんな兵隊にとられとるがな」

 ゴランは畑となる荒野を見渡し、ぼそりとつぶやくように答えた。

 結構、シリアスな話題だった、ただの『ムスコの元気』自慢じゃ無いのだ。農民達はこのアヴァマルタで子供を産み、育て社会が回っていくのだ。それが、今回のアヴァマルタにはない。



「そうさな、早く戦を終わらせてやらねばな。子が生まれず、老人しかおらぬようになればどこもかしこも没落よ」

 これまたシリアスな口調のペスタが一人つぶやく。

「では早速土を耕そう、皆の者下がれ、下がれ」

 やはり軍人じみた口調のペスタが命じる。

 そうだ、ペスタの斬撃魔導はすさまじい量の粉塵を生じる。それこそ爆弾のような。


「待避、待避しましょう」

 と言ってもここは平野だ、逃げるとしたらかなりの距離が必要だ。

「ペスタさん、転移魔導であのあたりに塹壕を掘ってください」

「承知した」

 ペスタは斬撃魔導より先に転移魔導を使うことが不服だったのか、やや声が低い。

 だが、それでも二百メートルほど離れた場所に土手が築かれる。

 積まれた土の量からして、農民が全員は入れるだけの空間が確保されているだろう。


 さて我々も逃げる番だ、粉塵で車をおじゃんにしてはもったいない。車は生命線だ、耕助は藤井とともに車に乗り込む。

「ペスタさんはどこへ」

「私も同行する、私とてあの粉塵を前には流石に死ぬ」

「じゃ、後部座席のって、塹壕までいきますよ」

 耕助はペスタが乗り込むのを待ちスタートキーを押すと、一気に塹壕まで駆ける。


 農民達より早く着いた耕助は塹壕を見下ろす、深さは二メートルはあるだろう。

 (これなら安全かな)

当然ながら耕助は塹壕について詳しくない、浅知恵である。

 農民が塹壕にたどり着くのを確認し、ペスタは土手の上へと上がる。


「ヘルゴラントの土地に有りて、畏れ多くも十二の神々ぃの恩寵をうけ賜るはぁスラッタ派ぁ、サルの位を賜りしはペスタァ・サル・コロミィ〜なり」」

 農民達は一同、頭を深く下げ斬撃魔導の詠唱を聞き入る。耕助も地鎮祭のような神道じみた祝詞に自然と頭が下がる。

(まぁ、結婚式か地鎮祭ぐらいしか神道の儀式には立ち会わないが、日本人の血か)


 そしていつも通りの神楽舞が始まる、これが長い。ペスタはくるくると舞い、拍子木を打ち、ドラを鳴らす。

 その様子を見ようと目を上に向けばペスタの下着が見えそうだ。だが耕助は目はそらさない。

 あの性欲減退薬のおかげか性欲が全くわかない。だから耕助には罪悪感とか、モラルの呵責とかが生まれない。

 だから彼女の動きに対して目をそらすこと無く、眺められる。下着で一喜一憂する程若くもない。 


 そういえば、アヴァマルタの肉を食らった現世組は朝立ちの苦悶を受けているのだろうか。

 それにしても優美な舞である、これが本来軍事行動に用いるものだとはとても思えない。



「皆様、御一礼ください」

 長い神楽舞が終わり、ペスタが声をかける。

 全員の一礼、これが発動条件だと言っていた、農民達は頭を土につける。

 耕助と藤井は礼を深くする。


 バスン。地鳴り、いや直下型地震のような音が響く、これは腹に響く音だ。

 好奇心から耕助は土手の脇から荘園を眺め見る。

 アヴァマルタのおかげでどれだけペスタが強化されたのか。

 結果は一目瞭然だった、土地が一挙に盛り上がる、まるで昔見た地下核実験の映像の様だった。

 それにぱっと見ただけでも試験農地の時より範囲が広い。

 これは、一撃で目標の九ヘクタールを達成したか。


 そんなことを考えていると、猛烈な砂嵐がこちらに迫ってくるのが見える。耕助は塹壕に身を隠す、ペスタも素早い動きで土手から滑り降りる。

 やはり武闘派魔導を名乗るのは伊達じゃないということか。

 ペスタが滑り降りるのに一瞬遅れて大量の砂埃があたりを覆う。

 が、塹壕と土手のおかげで、中は無事だった。

「やり過ぎた」

 ペスタはつぶやく。

(やり過ぎたってそんな無責任な)


 一分ほどたって砂塵が収まる、耕助達は恐る恐る塹壕を這い出す。

 耕助、藤井は腰に結わえたタオルで車のウィンドウを拭く、傷がつくのはいやだ。

 それに窓ガラスは替えが効かない、丁寧に扱わなければならない。

「じゃ、ワシらは先行ってみてくるだ、後からどうぞ」

 ゴラン達は砂塵の中に農具をもって突っ込んでいく、その様はまるで兵隊かなにかだ。


 結局耕助が車を磨き上げるのに十分近くたってしまった。

「耕ちゃんそろそろ、いくか」

 藤井が車のドアと閉じる、耕助もドアを閉めるとウィンドウオッシャーをかける。

「まるで黄砂ですね、こいつはやっかいだ」

 流石にワイパーはかけれないことはわかっていた、この汚損では流石に無理がある。

「後で水送ってもらって洗車しよ、それよりも農地に行こうよ」

 藤井の言葉に従い、耕助は車を飛ばす。

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