27 レイチェルとクレア

 その日のお昼時間、眞奈は食堂に行くと、もう一度勇気を振り絞りレイチェルとクレアのそばに行った。

「ここ、空いてる?」と、隣の席を指さして二人に聞いた。


「あんたのために空けておいたのよ」と、レイチェルはわざとなんでもないふうに言った。


 二人の元に行くまでは緊張のあまり気持ち悪くなりそうだったが、レイチェルもクレアも眞奈を歓迎したので、いったん席に座ってしまえば自然と会話ができた。


 星占い雑誌を読んでいたクレアは、「日本にも星占いってある? 星の動きで恋愛を占うこと」と、眞奈に聞いた。


「あるわ、定番よ。日本でもやっぱり学校とかで女の子どうし、星座占いを読んでるんだ」、日本の友達とよく占い雑誌を借りっこしていたことを思い出しながら言った。


「へぇー。私は星占いが大好き。日本の女の子もそうなんて、親近感わくわ」


「星占いなんてあんまり当てにならないわよ」、レイチェルが言った。

「そんなことより、当てになるのはクレアよ。クレアこそが私たちのラッキースターなの」


「ラッキースターって?」、眞奈が目をまるくするとレイチェルは笑った。


「私たちが困っているとき、天使・クレアの一言が仲間のピンチを救ったりするのよ」


「へぇー、すごいね」、眞奈は畏敬の念をもって二人を見た。


 学校いち頭脳明晰なレイチェルと天使のラッキースター・クレアが自分と親しくなってくれるとは!


「ところでマナは何座なの?」、クレアは雑誌のページをめくりながら眞奈に聞いた。


「私はかに座よ」


「かに座の運勢は……『表面的なことに惑わされてはいけません。あの人の冷たい一言の裏にある本当の気持ちは? どうか大きな愛に気がついて』だって。『あの人』がマナのことを思っているってことよね。『あの人』っていったい誰でしょう?」、クレアはからかうように眞奈を見た。


 眞奈の頭は勝手にマーカスを思い浮かべさせ、眞奈は赤くなった。


「もちろん、ウィリアム・ランバートよね」と、クレアは意味ありげに言った。


 眞奈の頭の中のマーカスは消え失せ、そばかすだらけのウィルの顔が浮かんだ。

 眞奈は飲んでいたオレンジジュースが変なところに入り、思いっきり咳き込んでしまった。


「ウィル??? まさか。ウィルは親友だよ、ボーイフレンドじゃないし、恋愛として好きなわけじゃないのよ。それにウィルにはシェフィールドにジェニーっていうガールフレンドがいて、めちゃくちゃ仲がいいんだ」と、ゴホゴホしながら説明した。


「やっぱりね、だから言ったでしょ」、レイチェルはクレアにしたり顔で言った。

「だって、マナが好きなのはマーカス・ウェントワースなんだから」


「!」、眞奈は今度はオレンジジュースが逆流してきて思いっきり咳き込んだ。狼狽で顔が青くなった。


「あんた、わかりやすいわね」、レイチェルはげらげら笑った。


「でもマーカスにはイザベルがいるもん。私、それは十分わかってるの」、眞奈は慌てて言った。


「あの二人は付き合ってるわけじゃないのよ」、レイチェルは言った。

「ずっと小さい頃から幼なじみで一緒にいるんだから姉弟みたいなものよ。イザベルは奥手だし、マーカスにもそういう気持ちはないわ。だって彼はまだ全然子どもだもん。なんていうか、二人はかなりのシスコン、ブラコンなのよ」


「私にはそう思えないわ。だってあの二人、お似合いでしょ。二人の恋はもう昔から決まっている運命の二人だと思うの」


 レイチェルは呆れたように言った。

「それって、ウェントワースとボウモント一族の子孫だってこと? バカバカしい、いつの時代の話よ」


 本当にそうだといいんだけど!

 ジュリアやエマに会ってしまった後、眞奈にはとてもそう思えないのだった。


「そういえばクレアは去年の今ごろ、ウィルが好きだったわよね」、レイチェルは眞奈にとって爆弾発言をいともさらっと言った。


「へ? うううウィルぅぅぅ!」、眞奈の舌がもつれた。


「それ、驚き過ぎよ」、クレアがとがめるように眞奈を見た。


「ごめん、べつにクレアのことを驚いたわけじゃなくって、ウィルにもまともな女の子が好きになってくれることがあるんだなってびっくりして……」


「でもウィルは災難だったわね、アッカーソン先生じゃねぇ。誰か他の先生だったら見逃してもらえたかもだけど」


「そうね。でも、その前からなんだかウィルの様子がおかしかったの。ジェニーとのデートでしょっちゅう授業さぼるし、なんだかいつもイライラしていて。私が心配してメールしても全然返事来ないのよ」


「いくらジェニーを好きだからといって、そんな付き合い方はいつか別れるでしょ。ほっとけばすぐ目が覚めるんじゃない?」、レイチェルは手厳しく言った。


「そう、そう。今は夢中で周りが見えなくなっているだけよ、きっと。そのうち落ち着くって」、クレアも同意した。


 レイチェルは提案した。

「そうだ、ウィルにメールしてみたら? 私たち、ほら、もう友達でしょ。だから友達になったことを報告よ」


 眞奈とレイチェルとクレアは肩を組んだり変顔したりしてポーズを決めながら写真を撮り、ウィルにメールした。


 ウィルの返事が速攻で返ってきた。


 眞奈が今まで送った、ウィルを気づかう内容のメールや、授業ノートのPDF(うんざりするほどのページ数!)には何日も後にぶっきらぼうな返事しかこなかったのに……。


「なんて書いてあるの?」、クレアが聞いた。


 眞奈はメールを読み上げた。

「マナ、俺はおまえが学校で一人きりだろうと思ってて心配だったけど、安心できたぜ。レイチェルとクレアによろしくな」


「感動的なメッセージじゃないの」

 眞奈とレイチェルとクレア、三人はうれしそうに顔を見合わせるのだった。

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