光風の伝言 -平成元年物語-

作者 聖いつき

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★★★ Excellent!!!

通りすがりの読み手です。

真っ直ぐな思いをそのまま伝える事が恥ずかしい時、自分を守りたくなる時、人はその人が大事にしているものや、大事にしている人に心を向ける事で、自分の思いを伝えようとすることがある。
それがもどかしくもあり、微笑ましくもある。
平成と昭和の間の年、高校生だった登場人物はみな見事に自分のことが分かっていない。
自分の事を見るより、自分の大事な人を見詰める事に一生懸命だからだ。
そんな愛しい青年たちの、数か月の寓話。

視点と話者の変化と文体の替え方も適切で、それぞれが抱く深い温度差まで
示されていて、作者の技量の高さがうかがえる。

エピローグの大団円は一際見事でした。
快作。

★★★ Excellent!!!

時は平成元年。早いもので、もう三十年も前なんですね。
ネットもスマホも無い時代、キラキラとした青春がそこにはありました。
主人公の歩君が出会ったのは、文芸部唯一の部員である奏さん。彼女は文化祭実行委員長の歩君に、文芸部の展示スペースを確保してくれ、だけど他の部と相部屋は嫌、うるさい部の隣の部屋も嫌と、かぐや姫並みの無理難題を言いつけます。
普通ならそんなワガママな条件は飲めません。しかし奏に見つめられ、胸の高鳴りが止められない歩君は、その条件を全て叶えます。
好きになった子のために頑張る。そんな歩君の姿は読んでいて応援せずにはいられません。
そしてそこから、彼等の青春物語は始まるわけです。

「そんな女のどこが良いの?」そう言ってくるのは歩君の幼馴染の栞。歩君の恋愛はいつしか、彼等の所属する放送部を巻き込んでの一大騒動となっていきます。
栞は歩の事が放っておけなくて、だけど歩は相変わらず奏の事が気になって。彼等のすれ違いがもどかしく、「もっとよく話し合おう」「違う、そうじゃないんだ」と読んでいてやきもきしたものです。
物語中盤の、こんな彼等の関係のターニングポイントとなった恋愛裁判とも呼べる場面には大いに楽しませていただきましたけど。

つい酷い事を言って傷つけあう事もあった。仲直りして共に笑い合う事もあった。そんな彼等の駆け抜ける様に過ごした高校時代。

当時青春時代を過ごした人も、平成生まれの人だってきっと歩君達の想いに共感できることでしょう。
かつて高校生だった全ての人に読んでほしい、そんな作品です。