164帖 世界一周自転車の旅

『今は昔、広く異国ことくにのことを知らぬ男、異国の地を旅す』



「ほんなら今朝はKohatコハトから来はったんですか」

「うん。日の出前に出たんだけどね、太陽が出たら暑かったよー。ここ一ヶ月ずっと沙漠を走ってたけど、今日は約80キロの走行で距離は大したことないんだけどね、今までで一番暑かったよー」

「へー。ほんならスタートは何処なんですか?」

「そんなもん日本やんか」

「あはは、まあそうですけど。えーっと、時々関西弁入ってません?」

「そやろ、生まれは大阪やさかいになぁ」

「そうなんやー。でも無理に使わんでええですけど……。ほんで何処行きましたん?」

「まずは北米のカナダから。南下してアメリカ、メキシコ……、中南米の国を越えて、南米はコロンビア、ベネゼエラ、ブラジルかな」

「ほほー」

「ブラジルはよかったねー。お姉ちゃんめっちゃ綺麗やったわ」

「へー、ほんで次はアルゼンチンですか」

「えっとね、ブラジルから一回日本に帰って、それでまたブラジルから再スタート」

「ふむふむ」


 ちょうどそこでレストランに着いたんで、中に入り食事を注文した。


「それで次はどこ行はったんですか?」

「えーっと、ブラジルの後はウルグアイ」

「ウルグアイ……??」

「ウルグアイの姉ちゃんもまた綺麗やったねー。ナイスボディだぞ! それに何故かようモテたわ。えへへへ」

「いいすねー。ほんでアルゼンチンですか」

「そうそう。そこから南アフリカに渡って、喜望峰も行ったよ」

「うわあ、ええなぁ」

「それからモザンビーク、タンザニアでケニアかな」

「おお、サファリも走ったんですね」

「うん。ところがさー、エチオピアもスーダンも入れなかったのよ」

「やっぱ内戦の関係ですか?」

「たぶんね」

「それで一旦日本に帰って、エジプトから再スタートね」

「なるほど」

「それでリビア、チェニジア、アルジェリア。それからモロッコに入ってスペインに渡ったよ」

「おお! 地中海沿い走って、ほんでヨーロッパですね」

「んで、フランスね」

「おお、ツール・ド・フランス!」

「そうそう、良く知ってるねー。そのコースも走ったよ。山岳コースはめっちゃしんどい」

「そうなんや」

「そやでー。それからスイスをぐるっと回ってイタリアからまた帰国ね」

「ふーん、たまに帰って来てるんですね」

「そうだよ。たまに帰って雑誌の原稿を書かないといけないからね。それとお金の補充とか自転車のメンテとかね」

「そうか。で、次は?」

「イタリア、オーストリア、ドイツ。ドイツは『壁』も観て来たよ、一昨年崩れたやつ」

「ああ、『ベルリンの壁』や」

「そうそう、そこからチェコ・スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ギリシャ……、あれ! 抜けてるなぁ」

「まあ、ええですやん」

「あっ、ブルガリアでギリシャだ。それからトルコで帰国」

「おおー」

「すごいですね」

「それで今回がトルコスタートでイラン通ってパキスタンね」

「へーっ、イラン行ってきたんですか。ってか通らなあかんわな」

「アフガニスタンに行きたかったんでけど、入れなかったね」

「やっぱりそうですかぁ。で、イランはどうでした? 僕らはこれから行こかと思てるんですわ」

「イランはねー結構良かったよ」

「へー、詳しく聞かせせて下さい」


 カレーを食べながらイランの治安状況やホテルや相場なんかを事細かに聞かせて貰ろた。つい2周間前の生の情報はこれからの旅に役に立ちそうなもんばっかりやった。食べ終わった後も、チャイを頼んでクーラーの効いたレストランで喋ってた。


「ほな、これからどうするんですか?」

「えっとね、明日は観光して、明後日にはここを出るかな」

「次はやっぱりインドですか」

「そうね。インド、バングラデシュ……、もし入れたらビルマでタイかな」

「ビルマに入れへんかったらどうするんですか?」

「インドかバングラデシュから飛行機だね。タイまで」

「ほほー、そんなん『有り』なんですね」

「やっぱり、ほら、さー。密入国は捕まったら後々面倒だから」

「そっかぁ。ほんで、その次は?」

「一回日本に帰ってタイからカンボジア、ベトナム、中国。中国から韓国へ渡ってそれで日本へゴールだ。香港にマカオも寄るかな」

「へー、もう少しですね」

「いやーあと1年半はかかるかな」

「そうなんやぁ」

「ところで井之口さんは明日、何処へ観光に行くのですか」


 南郷くんは「世界」より明日の事に興味があるみたい。


「そうやなぁ、アフガニスタンに行けなかったから、カイバル峠に行って見たいな」

「いいですね。是非行きましょう」


 それに乗っかってきたんは山中くん。


「あそこはTribalトライバル Areasエリアですから許可が必要ですが、警察で簡単に取れますよ」

「そうなんだ」

「ええ、先日も許可を取って僕らはDarraダッラまで行ってきましたからね」

「ほほー、それは頼もしいねー。それじゃさー、明日は軽トラのバスでもチャーターしてみんなで行かないか」

「ああ『SUZUKIスズキ(乗合タクシー)』ですね」

「いいすねー。行きましょう!」

「あと誰か誘いますか?」

「そうだなぁ、なるべく多いほうが安くなるからねぇ……、後でホテルの白人を誘ってみるよ」

「了解です」

「いやー楽しみになってきましたね」

「ほんなら今日は早よ寝た方がええなぁ」

「言うても多賀先輩、さっき起きたばっかですやん」

「そうやったけ?」

「僕は……、この後休養させて貰いますね。また明後日から過酷な砂漠が控えてるからね」

「はい、ゆっくり休んでください」


 明日の計画が出来たところで、僕らはホテルに戻ることにした。


 カイバル峠……、パキスタンと、内戦をしてるアフガニスタンの国境。どんなとこなんやろう……。


 想像すると少しワクワクしてきた。



 つづく

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