chapter08 「総合原価計算」って何!?

 ある日の部活のない放課後、煉先輩が若林先生を訪ねに来校しているとの噂を聞きつけた私は、職員室を訪れていた。


 ていうか、先輩もSNSで「今日学校行くぞ!」位教えてくれてもいいのになぁ…


「失礼しま~す。2年生の嶋尻でーす。若林先生はいらっしゃいますかぁ?」


「美琴さん!今日は、てっきり煉君と一緒に帰ったかと思ってましたが…」


「えっ!?もう先輩居ないんですか?」


「「用事がある」と言って、つい10分前位に職員室を出ましたが…用事というのは、美琴さんのことじゃなかったみたいですね…」


「そうですか…」


「今ならまださほど遠くへは行っていないはず。スマホで連絡してみてはどうでしょう?」


「そうしたいんですけど、ケータイの電源、午前中で落ちちゃって…」


「そうですか…」


「煉君にはどんな用事が?」


「戸山先生に教わっている「工業簿記」の内容について、聞きたいことがあったんです」


「私も商業科の教員の端くれです。込み入った内容じゃなければ、教えてあげられますよ!」


「ほんとですか!!?」


「実は「費目別計算」のところは何となく理解できたんですけど、その後の「総合原価計算」のところが、いまいちよく分からなくて…」


「「総合原価計算」っていうのは、お客さんから注文を受けてから製品を製造するのではなく、「生産過程が標準化された製品を、販売計画に基づいて見込みで生産する」際に用いられる原価計算の方法ですよ」


「スーパーやコンビニに並んでいるような製品の生産をする際に用いられる原価計算の方法、という訳ですか?」


「その通りです」


「戸山先生の授業では、総合原価計算にもいろいろな種類があると言っていましたが…」


「確かに、さまざまな種類の総合原価計算があります」


「例えば、同じ木材を使用し、生産過程の違いを経て「机」と「椅子」が作られている工場があったとしましょう。この場合、生産過程を「組」という単位で分け、例えば「机」をA組、「椅子」をB組、といった形で材料・労務費・経費の消費を把握し、それぞれ1つの製品を作るのにいくらかかったのかを把握します。これを「組別総合原価計算」と言います」


「なんか、学校のクラスみたいですね!」


「まぁ、それに近いものはあるかも知れません」


「また、製品が完成した際に、複数のものが同時にできるものがあります」


「「お豆腐」とか「まぐろの解体」みたいなものですか?」


「そうですね。例えば「豆腐」は生産する過程で「豆腐」「豆乳」「おから」といったものが生成されます」


「「まぐろの解体」であれば「赤身」「中トロ」「大トロ」といった感じですね」


「この、完成した際に複数できる製品を「」今風に言えば「」でしょうか?に分割して、完成した際に原価を一定の係数を使用して配分して製造原価を決定します。これを「等級別総合原価計算」と言います」


「なるほど!つまり、まぐろの大トロだったら、その「係数」は高い、ということですね!」


「その通りです」


「さらに、「パソコン」や「自動車」のように、いくつかの工程を経て、製品が製造されるケースもあります」


「料理で言えば「切る」「水にさらす」「鍋にかける」といった感じですか?」


「そう考えて問題ないでしょう」


「パソコン本体の生産工程で考えると、「ハードディスクやマザーボードなどの各部品を作る工程」「各部品を組み立てる工程」「OSやソフトをインストールする工程」「箱等にパッケージする工程」などでしょうか?これらは、各工程での作業が終わってから、次の工程に進むことになり、2番目以降の工程では、前の工程で出来上がった製品を「材料」として使用することになります。これを「工程別総合原価計算」といいます」


「「組別」「等級別」「工程別」…名前だけ聞いた時には、それぞれイメージがわきませんでしたが、先生の具体例を聞いて、何となく分かった気がします」


「総合原価計算は、工業簿記の基本中の基本とも言える分野です。戸山先生の授業をよく聞いて、不明な点を残すことなく、学習を進めて下さいね」


「分かりました!ありがとうございました!!」


「(まぁ、あの煉君がついているなら、検定合格は間違いないでしょうけど、ね)」


「先生?」


「いえいえ、何でもありません。」


「煉君に、よろしく伝えて下さい。」


「???」



chapter9 に続く

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