第451話
「くっ……! このまま勝てる気になど……!」
大地の底から己を発奮させる声を上げ、大我は暴風が吹き荒れるようなラッシュをノワールへと仕掛けていった。
体勢が崩れ、動揺している今、ノワール側は反撃に移るまでの時間が大きく削られてしまっている。
こうなれば、カウンターのような狙い澄ました反撃を行う余裕もない。
ノワールは、ひたすら攻撃の嵐を回避し続け、受け流し、その中で反撃に転じる判断を下した。
その結論に至るまでには、一秒も必要としていない。
その眼でしっかりと軌道を、コースを、威力を読み取り、被害を最小限に抑えて避け続けてやる。
そう思考し終えた直後の、勢いに乗った大我の雷炎を纏ったストレートが、真っ直ぐ彼女に向かって放たれる。
(来た! 真っ直────)
彼らしいとても愚直でシンプルな一撃。
ノワールは受け止めるまでもなく、身体を動かし避けようとする。
「ぐぁっ…………な…………!」
しかし、それは完全にかわし切る前に、拳が彼女の身体へと到達した。
彼の拳に確かに感じた、硬質な肩へ命中する手応え。
ノワールの反応速度を、大我の全力が、ティアの支えが、エルフィの加速が、一つとなって追い越したのだ。
「おおおおおおおおっっ!!!」
大我は己の足を、拳を止めない。一発当たるごとに、勝利への確信へ前進していく。
殴り抜けて間もなく、今度は左腕のボディブローを放つ。
ノワールの眼はそれを当然逃してはいない。右側の眼球だけでその動作はしっかりと捉えている。
反射に近い速度で、予測されるコースの身を屈めて防ごうとする。
しかしそれすらも、守りが固まり切る直前に拳が通り、模造皮膚の奥まで響くような衝撃が伝わった。
「ぐあっ……!」
大我の全ての力を出し尽くしたラッシュは止まらない。
火球が突き抜けるような殴りも、空を裂くような蹴りも、まるで無我の境地にでも入ったかのように止まらない。
その全てのコースは見えている。予測も出来ている。なのに避けられない。まるで流星が駆け抜けるかの如く、見えてから何かしようとしても間に合わない。
まさしく、ティアが与えてくれた力が、ほんの少し、一歩先を行ける加護が、この未来を決定付けたのだ。
反撃の余地すら与えられない。割り込む隙も見えない。傷を、衝撃を受ける度に、抵抗する力さえも失っていく。
それでも、ノワールは、必死に歯を食いしばっていた。
(いやだ…………いやだ……!! 私はもう…………怯えたくない…………消えたくない…………!!)
痛みの中で、電子頭脳内に渦巻いた拒絶と恐怖。その衝動的な感情の爆発は、彼女のほんの僅かな脱出のチャンスを作るきっかけとなった。
正面切ってのストレートを一発受ける瞬間、ノワールは自分と向こうの拳の間に圧縮した空気の塊を作り、弾けさせる。
ラッシュの中で、捨て身の覚悟で作り上げた脱出手段。外側へ広がる空気の衝撃によって、ようやく距離が作られた直後、ノワールは即座に内なる魔力を解放し、両手を地面に押し付けた。
「黒絶のマニ!!!」
すると、彼女の周囲を黒鉄のような球体が包み込み始めた。
ノワールが発動した黒絶のマニは、維持が必要となるため動けなくなる代わりに、絶対防御を確立する護りの魔法。
これによって時間を稼ぎ、少しでも力を回復させ、大我達に喰らいつこうと画策していた。
しかし、大我はもう止まらない。
大きく距離が離されるも、彼は逆に右手に魔力を込め、火花と電雷の渦を作り出した。
彼だけで纏めるには力不足な魔力の量。それをエルフィが整え、ティアが風で包み込む。
既に足元には、火の粉が散っている。放つ準備は出来ていた。
「やっちまえ大我!! てめえの全力をぶつけてやれ!!」
「大我!! 私達の願い、託したからね!!」
「こいつで終わりだァァァ!!!」
爆発が、勇者の足を後押しする。
雷が、英雄の力を具現化する。
炎が、戦士の魂の一撃を形にする。
風が、一人の少年の背中を支える。
黒き女神の拒絶の壁に、希望を纏った全力の一撃が迫る。
「嵐迅ッッ!! 紅雷拳ぇぇぇぇぇーーーーーーん!!!!!!」
接触の瞬間、守りきれるはずだった最後の盾は、世界の平穏を願う手によって打ち砕かれた。
「そん…………な…………」
大我の脆くも強靭な拳は、そのまま、突き抜けた。
ノワールは少しでも、それを防ごうとした。だが、もはや何もかも崩れ落ちてしまったように、盾に使おうとした杖も、右腕も、それ諸共全てを、彼の全霊の一撃は貫いた。
世界へ終結を知らせるようにユグドラシルに響き渡る、熱雷帯びる爆風と轟音。
皆の希望を背負った最後の一撃を喰らい、ノワールは無数の部品を散らしながら、下半身は弾け散り、上半身は大きく後方へと吹き飛ばされた。
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