第447話
「ううっ…………いってぇ……」
「大我、俺達が勝つにはどうすりゃいいよ」
受けた痛みを確認し、まだ動けると内心での軽い自問自答をする大我。
直後、エルフィが改めて彼の意思を確認するような質問をした。
「聞くまでもねえだろ。真正面からぶっ飛ばす、だ」
「……おそらく……いや、確実に、これからはちょっとでも距離を取ったら、あいつからの魔法が飛んでくる」
現在ノワールは、大我の捨て身の頭突きを受けたことで電子頭脳内にノイズが発生し、少々ふらついてから体勢を立て直したあとだった。
効いてはいる、しかしこれだけの行動不能な時間を生み出すのはおそらく今回きり。
次からは隙も作らないように、全距離に於いて攻撃を絶やさないだろう。
エルフィはそう思考した。
「だから大我、お前は突っ込むことに集中しろ。なんか俺が守りながら方向を指示する。自分のやれるようにやれ」
「────ははっ、今更だな。いつもやってくれたことだろ」
「…………そうだな。今更だったな!」
提案を聞いた大我からの言葉は、エルフィにとっても少しだけ意外な返答だった。
それだけのことをいつもしてくれていたという認識。彼は常に、背中を預けられる相手だとずっと自己の中で存在を確立していた。
ならもう言うことはない。改めて案として出すまでもないことだった。
「よし、もう一回行くぞ!!」
大我とエルフィは再び、正面から恐怖を跳ね除けて走り出した。
取り戻した元来のスピードに、さらに足元の爆発による推進力も乗せて、大我は韋駄天の如きスピードを発揮した。
「またまだ……私に届くと思うな!!」
だが、当然ノワールの方も諦めてはいない。
先程の一瞬で、接近戦を挑むのは、現状だと少々分が悪いと認識し、距離を離しつつ近づけさせないように戦うのが最適解だと結論づけた。
ならば、その足を止めながら吹き飛ばす。ノワールは、ユグドラシルから供給される無限に近い魔力を杖と左手に込め、城壁に連なる無数の砲門の如き黒の光塊を作り出した。
「大我!! 止まるなよ!!」
「わかってんだよ!!!」
目に無理矢理焼き付けられんばかりの光景にも、大我とエルフィは怯まず、己の決めたことに従い速度を緩めなかった。
大我の体力が切れるまで、延々と魔力をぶつけ続ける。その戦法を今にも実現しようと、手始めに数十発放とうとしたその時、ノワールの眼は見開かれた。
「っっ!!??」
直後、途方も無い数だった黒の光塊は、まるで瘴気を晴らされたかのように殆どが掻き消えてしまった。
それは突然生じた不具合などではない。外部からもたらされた介入。
ノワールの内側では、ユグドラシルとの繋がりが大きく、途切れたような認識が生じた。
「っっ!! アリア……!!」
サーバー上での電子戦をずっと繰り広げ続けていたアリア。
それまで認識範囲内では拮抗していたが、大我が与えた頭突きによって処理能力がほんの一瞬だけ低下。ほんの一瞬に生じた隙を貫き、瞬く間にノワールとユグドラシルの無線接続を切断した。
今や彼女は、世界の中心との繋がりを失ったスタンドアローンの状態となったのである。
「これ以上、貴方の物にしておくわけにはいきません!」
「ちぃっ……! 黒光のジョーティ!!」
「大我!! そのまま突っ走れ!」
しかし、彼女が用意した弾丸が全て消えたわけではない。
撃滅の意思を宿した黒の光が大我めがけて矢の如く飛来した。
エルフィはその軌道の先を正確に読み、止まるのではなく、真っ直ぐ突っ走り駆け抜けろと進言。
それを信じ、大我は怯むことなく走り抜けた。
彼の信頼を担保するように、エルフィも次々と、今にも掠めんばかりに接近した弾丸を、バリアや得意の火球で弾き、吹き飛ばし、お膳立てを整えた。
「はあああああっっ!!」
足元に力を入れ、助走と爆風の勢いを乗せて全身で飛び上がる大我。
自らを槍の如く、脚を突き出し、全てを貫くような飛び蹴りを放った。
それに対して、今更怯むような人物ではない。ノワールは不愉快さを溜め込んだ怒りの形相から、冷静かつ鋭いハイキックを放ち、見事にそれを相殺した。
「ユグドラシルの繋がりを断ったからといって、勝てると思うな!! その為に、私単体でも稼働できるよう調整してあるんだからな!!」
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