第432話
先陣を切ったのは大我とエルフィだった。
一緒に真正面から殴り込みつつ、エルフィが火球の連弾を放ち牽制。
同時に接近戦を迫り、先制を取る形を作った。
その後ろをティアが追いかけ、剣に風を纏わせつつ二の刃を受け持つ。
ノワールは動じず、粛々と準備は出来ていると言わんばかりに不動を保っていた。
「フン…………っ」
杖を強く握り、地面から軽く上に動かす。
直後、ノワールの視線は一秒程、世界樹の中心へと反れた。
刹那を争う戦いに於いて、一瞬の意識の硬直は大きな傷へと繋がる。
だが、彼女は余裕を持っているかの如く、焦ることもなく地面を杖で小突いた。
その時、まるでそこには存在していなかった圧を、大我は感じた。
「!?」
ほんの小さな動作から発生した、ノワールの周囲に留まる黒の光球。
ここから一体何が来る。何をしてくる。手の内が解らないが故の可能性の波が襲い来る。
大我の戦闘の勘が選んだのは後退だった。
加速し始めていた足を思いっきり踏ん張って止め、大きく後方へと力を入れる。
「大我っ!!」
遅れてはいるが、何かの気配を感じたのはティアも同じだった。
彼女の剣に纏った風は、吹き荒ぶ魔力をそこに常に留めておき、それを使用することで詠唱を抜いて転用。思考次第で柔軟に動くことが出来る。
ティアは攻撃には使わず、大我の前から吹く向かい風として消費し、後退の手助けを加えた。
「危ない!!」
二つの咄嗟の判断による稼がれた距離が、わずかな死線を乗り越えた。
大我達が下がるとほぼ同時に、アリアが白の光球を生成する。
直後、黒球を発信源に、全てを射殺すようなレーザーが放たれた。
ほんのコンマ数秒遅れて、アリアが対抗のレーザーを放つ。
二体の神が撃ち出したそれは、大我に着弾する前に相殺され、爆風となって直撃を防いだ。
上書きされた風に身体を乗せ、空中で一回転しつつ体勢を整える。
煙が消えきらない間に、後退した大我とティアは大きく左右に分かれて旋回。怯む時間すら惜しいと、二人は再び距離を詰めていった。
「甘い!!」
一人相手に双方向から攻撃が向く、明確に不利な状況。だがノワールは一切動じない。
疾風のように走り、刃を構え接近するティアに己の杖を振るい、いとも簡単に弾き飛ばした。
「ぐうっ……!」
空中に一回転、大きく飛ばされるが、己がこれまで培ってきた風魔法を自在に使いこなし、最小限のダメージと飛距離に抑えた。
「はあああああっっ!!」
それから間もなく、大我の雷撃を纏う拳が急襲する。
ノワールが振り向く瞬間、その眼は全てを見据えているような冷たく鋭い視線を抱いていた。
「私の身体は、アリアのそれとは違う」
全霊の意思を込めた雷撃の拳。ノワールはそれを、とても涼しく冷静に、左手で受け止めて見せた。
「くっ……!」
「お前達が集まった所で、今の私に勝てる力はない!!」
ノワールの動作は、まるで達人の如く洗練されていた。
右手を杖から離し、流水が乗り移ったような滑らかで鋭い所作で、拳を流し動かす。
大我はそれに反応した。だが、彼女の拳には追いつかなかった。
「ぐあっ……!」
一切の容赦なく打ち込まれる正拳突き。大我の身体は、腹部への強烈な痛みと共に空へ投げ飛ばされた。
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